第六十二話 二人の最強がバスケをやったら、バ〇ケになる


――アタル視点――


 由加理ちゃんが通っている高校——僕も数か月だけ通ってたけど——は、スポーツに力を入れている。

 特にバスケ部は全国常連の強豪チームで、学校の中でもかなり優遇されていた。

 大体の学校は体育館内しか利用できないと思うんだけど、何とうちには野外コートまであるんだ。

 この理由は、やっぱり体育館って他の部活も利用したいらしく、でもバスケ部の練習を阻害したくないから外に作ったとの事。

 バスケ部、超VIP待遇だ。


 今日は雲一つない青空。

 バスケ部のイベントは野外コートで行われているようだ。

 僕達は由加理ちゃんに案内してもらって、野外コートに辿り着いた。

 

「おお、盛り上がってますねぇ……!」


「そ、そうだな」


 感嘆の声を上げるアデルさんに、まだ緊張気味の田中さんが返事をした。

 僕も内心驚いていた。

 だって、野外コートを囲むフェンスには沢山の人がびっしりと張り付いていたのだから。

 これは皆挑戦者なのかな?

 と思ったけど、よく観察してみるとそうではないみたい。

 同じ歳位の女性達が黄色い歓声をあげている。


「あぁ、滝沢君が出てるんだねぇ」


「ん? 滝沢君?」


 由加理ちゃんがぼそっと呟いた。


「うん、バスケ部のエースでうちの女子達に凄い人気があるんだよ」


「へぇ、そうなんだ」


「全国大会でベスト4まで行ったのも、滝沢君のおかげって言われてる位だからね」


「そりゃ凄いね!」


 とりあえず、挑戦者募集という立て看板を持っている男子生徒に近づく。


「おっ、挑戦者……安藤さん!! 安藤さんが来てくれるなんて、今日は素晴らしい日だぁ!」


 いらっ。

 こいつ、僕の彼女に下心丸見えな視線を送ってるぞ。

 しかもあろうことか胸もしっかり見やがった。

 ねぇ、真っ二つに斬っていい? 今なら僕、素手で大切断出来るよ?

 それともバイオレント・パニッシュがお好みかな!?


「それで安藤さん、安藤さんが挑戦者なの?」


「ううん、私の彼氏とそのお友達が挑戦者だよ」


「か……れ、し……なんだ」


 あっ、何か白く燃え尽きそうな感じになったぞ。

 由加理ちゃんが無慈悲にとどめを刺した。

 うん、ざまーみろ!


「えっと、ルールを説明します。我が部のエースである滝沢から1点でも取れたら夢の国ペアチケットをプレゼント。もう1点取れたらもう一枚プレゼントです。ハーフコートですが、バスケ経験者の場合は滝沢以外も人数を増やします。経験者ですか?」


「ん~、バスケ漫画読んでただけなので、初めてですね。僕の友人はバスケ自体知らないので、初心者ですね」


「では、滝沢だけがお二人を相手します」


 おい男子、絶望しきったローテンションのまま、淡々と説明するなよ。

 そしてアデルさんの方を見ると、スマホでバスケのルールを見ているようだ。

 田中さんは隣でルールの詳細な解説をしているみたい。

 うん、微笑ましいな!


「では、どうぞお入りください」


 ローテンションのままコート内に案内される僕とアデルさん。

 僕達がコートに入った瞬間、周囲がざわついた。


「えっ、何あの二人組。超イケメンなんだけど……」


「芸能人かな? 私知らないんだけど!」


「あの金髪の人、中性的でモロタイプなんですけどぉ」


 あら、周囲の女子達を射止めちゃったね、僕達。

 非常に良い気分なんだけどごめんね、僕達はもう別の女性に射止められちゃってるから!


「さてアデルさんや、ルールは理解できた?」


「ん~、もう少し時間が必要ですね。大体二分位」


「……相変わらずの知力チート。じゃあ二分位僕が一人でやってるね」


「よろしくお願いします」


 僕は滝沢君とやらの正面に立ち、アデルさんはスマホをじっと見てアウトラインぎりぎりの所で立っている。

 そして滝沢君が殺気がこもった視線を僕に向けている。


「お前、安藤さんの彼氏なんだってなぁ」


「あっ、うん。そうだよ」


「……気に入らないなぁ。俺より顔が優れてる奴は特にねっ」


「そ、そうなんだ……」


「だから、安藤さんにお前の格好悪い姿を見せて、好感度を下げてやる!

!」


「せっこ、やる事せこっ!!」


「うるさい!!」


 まぁいいや。

 こんな小物にやられる訳にはいかない。

 生憎僕は、身体能力で言えば地球最強といっても過言じゃないからね。

 知識は漫画でしかないけど、今の僕なら思い通りに体が動くはず。


「あっくん、がんばってー!!」


 最愛の彼女、由加理ちゃんからの素晴らしい声援も頂いた。

 これはダサい事は出来ないな。


「んじゃ、さくっと夢の国チケットを頂きますか!!」


 僕はバスケットボールを手に持ち、滝沢君に向かって投げた。

 ……もちろん、超手加減したよ?







―—バスケットボール部一年 滝沢 省吾視点——


 今正面にいるのが、噂の安藤さんの彼氏か……。

 俺は一度安藤さんに告白したが、好きな人がいると言って断られてしまった。

 自慢じゃないが、俺は一度も女性に告白を断られた事がなかったので、今回もきっと上手くいくと思っていた結果、断られたんだ。

 そして後日彼氏ができたと聞いて、きっと俺以上のイケメンなんだろうなと思っていた。

 実際会ってみたら確かにイケメンなんだが、何なのだろうか、こいつが持っている独特の雰囲気というか空気は。

 今までいろんな奴と会ってきたが、こんな雰囲気を纏ってる奴なんて見た事がない。


「んじゃ、さくっと夢の国チケットを頂きますか!!」


 安藤さんの彼氏がそうほざいた。

 俺から、点を取るつもりでいるのか?

 確かに俺よりイケメンだが、お前は初心者なんだろう?

 そんな奴が、全国大会ベスト4に導いた俺から点を取るだと?

 ふざけるのも対外にしやがれ!

 もう手加減はしない、安藤さんの前で情けない姿を見せてやる!!


 奴からボールパスが来た。

 ハーフコートの場合、一回相手にパス、そして返してもらってからスタートする。

 だから軽いパスなんだろうなと思ったのだが、鋭い!

 俺は両手で受け取ったが、勢いがあったので掌が痛い……。

 

 この野郎、随分と挑発してくれるじゃねぇか。

 なら、俺の鋭いパスも受け取りやがれ!!

 コンパクトながら勢いあるパスを奴に放つ。

 が、軽々と片手で受け止められてしまった。あれ、結構鋭く放った筈なんだけど……。


 軽々と受け止めた奴が、ドリブルをしながらゆっくり近づいてくる。

 こんなにゆっくり近づくならさくっとボールをスティールできる。できる筈、なんだけど。

 何だ、この近づけない威圧感みてえなの……!

 見えない壁があるような、体がこいつに近づいちゃいけないって言っているような感じなんだ。

 俺はつい、後退りしてしまった。

 くそ、俺の体はどうしちまったんだよ。あいつから近づいてサクッとスティールしちまえばいいんだよ! だが俺の体はどんどん後退りしていく。言う事聞かないんだよ!

 心の中で動け動けと念じている時、ドリブルの音が消えた事に気が付いた。

 そして奴の姿が消えた。


 奴は、俺の横を駆け抜けていたんだ。

 くそ、緩急をつけて消えたように見せたのか!

 ならばと俺は奴のドリブルを阻止しようと、手でボールに触れようとした。

 が、奴はそもそもボールを持っていなかった。


「何っ!? ボールは何処だ!?」


「滝沢、上だ!!」


「上!?」


 同じ部員の声を聞き上を瞬間的に見たら、ボールが俺の頭上を越えていたところだった。

 なん、だと?

 あいつ、いつの間にかドリブルから俺の頭上を越えるようにボールを放っていたんだ。

 そんな素振や動作なんて見せてないのに、だ。

 だが残念だったな。

 勢いがありすぎてこのままじゃゴールすら飛び越してしまう。

 まぁ初心者だけど確か漫画の知識があるって言ってたな、それを真似した結果がこれだ。

 俺は安心しきっていた。

——が。


 奴は、ゴールリングより高く飛び上がり、アウト確実なボールを空中でキャッチした。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!???』


 俺も含めて、見ている皆が驚いている。

 人間が飛べる筈がないであろう高さを飛んでいるのだから、驚くのも仕方ない。

 そして、奴は――


「スラム、ダーーーーンクッ」


 落下と同時にゴールリングにボールを叩きつけ、豪快なダンクを決めやがった。

 ゴール全体がギシギシと揺れる程のとんでもないダンクだった。

 俺でもあんなの、決められない……。


「あっくん、かっこいーっ!!」


 安藤さんが、満面の笑みで奴を褒めている。

 ……あんな表情の安藤さん、見た事がない。

 そして奴も安藤さんに対してサムズアップをした。とっても爽やかな笑顔で。

 周りの女子達も「きゃーっ!」と黄色い声援を送っている。

 

 くそっ、次こそは止めてやる。

 コート中央に戻って、お互いにパスをして奴がボールを持った瞬間、奴は軽く飛んでシュート態勢に入った。

 まさか、中央からのスリーポイント……だと!?

 とんでもなく高い軌道だ……。

 まるで、あの漫画みたいじゃないか!


「決まるわけがねぇ、決まらねぇ!!!」


「残念、由加理ちゃんという最愛の彼女を持った僕は――」


 ボールが、ゴールリングをかすめる事無く、きれいに吸い込まれた……。


「シュートレンジは無限、なのだよ」


 お前、絶対あの漫画熟読してるだろ!!!


 くそう、もう俺のプライドはズタズタだ。

 だが俺の悪夢は終わらない。

 もう一人、悪魔的な身体能力を持ったイケメンがいたからだった……。

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