リアル医者なのに、屑すぎて負け組な俺の話

@korotuna

同僚から説教を受けた

 朝の7時から、夜の18時までノンストップで仕事をした。水を飲む時間も無かった。

 本日は19時から病院内の職員向けの講習会があるため、なんとか18時までに仕事を終わらせなければならなかったのだ。普段は22時まで仕事して終わらせるのだが、本日はそんなこともできないので、昼飯も抜いて1.5倍速で働いた。

 そうして得た貴重な18時以降の時間だった。勉強しなければ生き残れない世界なので、勉強する時間は死ぬ気で作るのだ。

 講習会は同期含めた20人ほどが出ていた。最新の論文の解釈や、それによる薬の選択についての勉強だ。『尿路感染症に対する抗菌薬の選択にはダイナミックな変化が最近ありますよ』というようなことを次々学んだ。

 20時には講習は終わり、同期達と駄弁っていた。

  

 文一(仮名)という同期の医師と話しをした。

 文一は、俺に対して文句を言いに来たのだ。

 「お前は、ものすごく勉強しているのに、看護師にも上級医にもバカにされている。俺はそれが納得できないんだよ。他人に対して優しくするともっと評価変わると思うよ。お前はそれだけやれてるし、頭もいいと思うよ」

 ということを言われた。

 周りにいた数人の同僚も同じ意見だったが、加藤(仮名)が付け足すように言った。

 「ていうか、お前さ、多分、病識(病気であるという認識)が無いんだよね。」

 「ないよ。色盲(色が先天的にわからない病気)と同じで、何がだめなのかわからないんだ。他人の気持ちが、2割くらいしかわからない」

 俺はそのように返した。

  

 この会話で思ったんだが。

 俺は、子供のころから、他人とつるまなかった。普通は他人との付き合いの中で社会性や人間的な常識を身に着けるものだけど。俺はそういうことをせず、本の中だけで物事を学んだ。

 しかし、例えば車の運転とかはどうだろう。『交通ルールがみんなの運転を規定する』わけではなく、ある程度の交通ルールは守りつつも、『みんなの運転が交通の常識を作っている』わけだ。

 これは、ウィトゲンシュタインって哲学者も言っていたことだなって思った。『子供たちがボール遊びをするとき、ルールがあってボール遊びをするのではなく、ボール遊びする中でルールを作っているんだよ』ってやつだ。

 俺の人付き合いは、『法律や哲学、文学による人間的なルールによって、他人の行動を評価』している。しかし、それって、『交通ルールを厳格に守った運転で他人に迷惑をかけている』というのと同じだ。交通ルール通りの制限速度で走っていたら、それこそ事故がおこりやすくなる。空気を読んで交通常識を身に着けるわけだ。

  

 看護師さんや、医者から嫌われる理由は、ここだろう。俺は、本で読んだルールや倫理によって行動しているが。みんなは社会的な常識の中で行動している。俺は、それがわからない、色盲のように。

 

 俺は、子供のころから友達を作ってこなかった。勉強だけできればいいと思っていた。それは、違ったのかな。

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