第7.5話 夢に見るえっち


 7.5...




 薄ボンヤリとした意識の中で、頭を撫でられた。

 目の前にはコウの……があって。


 新幹線でそんなのありえないし、だからこれは夢。

 見渡してみればそこはコウの部屋。だからやっぱりこれは夢。


 だとしてももっとマシな夢があった気がする……。

 割とげんなりする夢見だ。


「千愛……」


 陶酔に染まった彼氏の顔。

 それもそのはず、あたしは両手と口でご奉仕中。

 コウのたっての願いでした時の……多分その時の夢だ。


 ああ、でも最悪。


 コウの呻くような声の後、口の中に広がるもの。

 正直あまり好きになれない。

 けどコウはこれが結構好きで、だからその日は考えに考えた仕返しをしたのだ。


「ん、んん……コウ」


 口中にためたまま、飲んだ振りをしてコウにキスをして流し入れてやった。

 悲鳴をあげた後、あたしと同じ最悪な気分を味わったコウはそれからは、出してすぐにティッシュを差し出して、渡したらすぐにジュースを取りに行くようになったんだ。


「こんなだと思わなくて、ごめん」


 すっかりしょげたコウに、わかったならいいとか言ったんだ。

 で頭を撫でていたら、コウがあたしの胸を撫で始め。

 どうしてそういうスイッチが入ったのかもわからないし、コウの告白をOKする前と今を比べると本当に遠慮がなくなったなあ、とも思うし。


「服、脱がない?」

「やだ」


 見せたくないからいつも断る。

 手術の痕があるの。そもそも手術自体、コウには内緒だった。

 ……病気の話はしたけど、そういえばまだ話してない。


 免疫がどうたら、弱まって粘膜がどうたら。

 当時中学生だったあたしは病気について欠片も理解できず、する気も起きず。


 ぼんやりと死ぬのかなって思っていた。

 親以外、誰にも相談出来なかったし、するつもりもなかった。


 ……コウにも、やっとこないだ言ったばかりだ。

 それにしたって、全部は話してない。


 先生と出会えた幸運、先生に勧められた先進医療っていうのがあたしの身体を見事に治した幸運(お金は凄くかかったみたい)のおかげで、最悪の状況は回避された。

 けど……こないだの診察までは、どうなるか微妙で。


 今なら?

 もう大丈夫だって言われた今なら……見せられるのかな。


「……そっか」


 夢の中とはいえ、しょんぼりしたコウの顔を見ると胸が痛い。


「まあいいや」


 ブラが、とか頭に浮かぶけど、直接触られると痕に気づかれそうで怖い。色んな葛藤が浮かんで、落ち着かない。

 ……あんまり気持ちよくないんだ。

 それはノンちゃんの言うとおり、もしかしたら……それくらいごちゃごちゃ考えているせいからかもしれない。


「服越しでも千愛の身体あったかいし」


 ほっぺたにキスされて……緩んでしまって。

 コウの指に意識が傾く。


 そっと、あたしを確かめるような……恐る恐るの手つき。

 何度しても、どこに触れられても、それは変わらない。


 自信がないせいかな。優しいから?


 確かめたい気持ち半分、確かめないままの方がいいかなと思う気持ち半分。

 ただ触れたいって気持ちだけは確かに伝わってきて。


 それだけ求められてるのかなって思うと、やっぱりちょっと嬉しくて。


 ゴムをつけたコウを受け入れて、抱き合う。

 いつもコウ任せ。コウが済んだら終わり。終わったら、コウかあたしの気の済むまでいつも抱き締め合う。


 一番好きなのは、終わった後の時間。


「……好きだ」

「それじゃだめ」

「でも、好きなんだからしょうがないだろ」


 そう言って子犬みたいに笑う幼なじみが……凄く愛おしいの。

 欲とかそういうのなく、ただただ大事に抱き締めてもらっている瞬間。


 満たされてるなあって思う。


 デートとかしたら、そういうのが増えるのかもしれない。

 もっと充実した時間が増えるのかも。いや、きっと増えるんだろう。


 でもじゃあ……なぜそういうことをしてこなかったのか。

 あたしはコウとのふれあいに、コウの愛情を感じたいけど。

 コウは……きっと、本人がそういうつもりがなくても、あたしと違って人の温もりを求めている部分が強いからだと思って。


 そんなの人それぞれ色々あるかもしれないけど。

 わがままをいいたい。

 わがままをいいたいだけなの。

 その理由ぜんぶ、あたしだけのものにしたいって。


 なんなら……お母さんのことだって追い出したいんだ。

 誰かのフィルター越しに見られるのがいやなの。


 繋がり合っても、まだ届かない。

 愛を通り過ぎてえっちにきたから、なかなか戻れない。

 一番奥深くに触れ合うために、必要な一歩。


 する時必ずゴムでかぶせるように、誰といても本心を何かで包んだコウの大事なところ。

 あたしはしっかり触れたいんだ。


 それにしても……はあ。

 夢の中でくらい、すごく気持ちよくてもいいんじゃないかなあ。


 抱き締めてもらう喜びは感じるけど、それだけじゃ……せっかくこういう夢なのに、もったいない、というか。


 そう思った時、妙な揺れを感じてあたしは夢から引きずり出された――……。




 つづく。

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