This is a apple/That is a citron 04

戦国時代の敵は何か?

飢饉、氾濫、そして乱世である。


「あの、大丈夫ですか?」

少女は頭を抱え突っ伏した少年に声をかける。

「大丈夫、です。ああそうだ、貴方のお名前をお聞かせ下さい」

微かに震えながらも答えを返し、少年は名を訪ねる。


「藤崎城主の娘。葵、です」

藤崎、津軽平野のど真ん中に位置する土地である。

「姓はないので?」

少年は確認した。

この時代、不用意に名を呼べない人々が存在する。

その類いであれば配慮が必要であった。

「えっと、その。安藤、です」

安藤葵。

それがこの少女の名である。

本来歴史に名を残すことなく、山で狼に襲われ死亡するはずだった少女。

「受けた義理は返さねばなりません」

本来ならば見知らぬ地で一人、雪山で彷徨い果てるはずだった少年。


「へ?」

「安藤さま、貴方の家臣として、仕えさせていただきたい」

運命は交差した。


「我が名は、橘藤鷹。この名をお受け取りください」

「え、あ、はい」

流されるように時は進む。

「……つきましては、何か食べ物を下されば幸いです」

「ふふっ。はい、今お作りいたしますので、少しお待ちください」

この二方の行く末が、幸福なものであらんことを。

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