津軽藤崎氏・戦国外伝

天宮詩音(虚ろな星屑)

This is a apple/That is a citron 01

それは世界にとっていつも通りの朝なのだろう。

全自動で流れ去る時の流れは緩やかで、でも絶えない。


「エイプリル・フールのような虚構の日」

より、冒頭文。


———ああ、寒い。

訳も分からず放り出された空の下、私は雪をクッションにして倒れこんだ。

まったく人の手が介在しない雪山を彷徨い数時間。体力と体温の限界に挑戦した。

深い雪は足をひたすらに重くし、己の熱で溶けた水によって熱は更に奪われる。


しんしんと降る雪が救いである。

もし、これが吹雪であったら、その場で凍え死んでいたであろう。


まあともかく、肉体的に限界であった。

晴れているのに落ちる雪の結晶と、どこまでも澄み切った空は掠れていく。


声が聞こえた気がした。

閉じていく視界を一瞬止め、稼いだわずかな時間。

その一瞬に女神を見た。


温かい。

その心地よさに身を任せ、今度こそ意識は闇に包まれた。


———降り積もる白雪が茜色に変わる頃。

鷹、一羽舞い降りて、拾い集めた。

暫くして飛び立ち、夕闇に消えた。

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