第31話 蘇生魔法

リプスがコホンと可愛らしく咳ばらいをするのと同時に、主張の激しい胸が揺れる。


思わず目をそらした俺の視線は、別の視線と完全にぶつかり、


「う……」


魔眼にでも射抜かれたかのように、硬直した。


俺はその対象にコソコソと問いかける。


「みたか?」


「んふ~♪ 見ちゃった」


だろうな……


かなり気まずい瞬間を見られてしまった。


「レオン様のエッチ~♪」


「ぐ……仕方ないだろ」


「でもその気持ちわかるよ~。リプスのおっぱいすごいもんね!」


「す……すご……っておまえ……」


「すごくないの?」


「いや……すごいけどさ。どうか……リプスには内密に……」


「いいよ~♪」


そう言うとイヴは再び俺の右手とじゃれ出した。


助かった……のだろうか?


「二人で何をコソコソやってるんですか?」


「いや!? なんでもないぞ」


「本当です?」


「ああ! 本当だとも」


「まぁいいです。では説明を始めても?」


「お願いします」


「では……」


場の雰囲気を戻したリプスが今度こそ語り始める。



「蘇生魔法。これについてですが、まず大前提として、高位の魔法にあたります。それはよろしいでしょうか?」


「まぁそうなるだろうな。ああイメージできるよ」


俺の返答にリプスは満足そうにうなずく。


「生物において”死”とはそんなに安くはありません。そのため、その結果を変える行為になりますので、この魔法を扱えるものは、私達のような存在以外では、習得は容易ではないでしょう」


リプスにこの言葉に、正直俺はホッとした。


魔法なんてものが存在する世界でも、これであれば俺の命への認識と、ルクスの人々の認識は大きくズレてはいないはずだ。


ただ、今まであってきた奴に”クズ”が多かっただけで。


「回復魔法とは、傷や体力、更には失われた血など、そう言った物を回復するためのもであり、”死”と言う状態を迎えた者には効果はありません」


「ああ。それも俺の理解してる物と一緒だ」


「次に、毒、精神異常、麻痺などを回復する場合、解毒魔法などを持ちいます」


「ああ、それも分かる」


「では……ここからです。レオン様がやってこられたゲームにも死はあるとおっしゃられましたね?」


「そうだな……」


「パーティの中に蘇生魔法が使える方は?」


「いた。まぁどのゲームにも蘇生魔法が使えるのは1人か2人は必ずいる」


「それでは、目の前で死んでいく人に、何故蘇生魔法を使わないんだろう? そうは思いませんでしたか?」


なんだって?


いや……確かにそうだ。敵の壮絶な攻撃をくらい、死んだ仲間に蘇生魔法をかければ生き返るんだ。


ライバルキャラだったはずのあいつが、敵の攻撃から主人公をかばって死んだとき、蘇生魔法をかければ生き返ったはずだ。


……でも、ライバルはそのまま死に、主人公はその死を乗り越えて強くなった……


矛盾してる。


「ゲームをプレイしているときは、そう思わなかったが、確かにリプスの言う通りだ。なんで生き返らなかったんだ?」


「なるほど……レオン様のいた世界には魔法はなかったんですよね?」


「なかった。ゲームや映画の世界だけの、創作物だった」


「それにしては真理を捉えています。レオン様の世界の”ゲーム”という物は大変興味深いですね」



ゲームが蘇生魔法の真理を捉えている?


なんか引っかかるな……なんだっけ?



”レオン君の世界で最近何か突然爆発的に進化したり、発展したような業界はなかったかな?”



突如リリスの声が脳裏をよぎる。


「ああ!! そういうことか!!」


「何か心当たりが?」


「ああ……リリスが言ってたんだ。俺の元の世界にも転移者がいるって。そいつが元々魔法を使ってた世界の奴で、ゲームに影響を及ぼしたから、魔法の真理がそのまま生きてるんだろう」


「確かに……それならば説明がつきます」


「助かったな。あの知識が大きくズレていないなら、俺は魔法という物について、理解することは難しくなさそうだ」


「そうですね」


リプスは自分の事のようにうれしそうだ。


「それでは確信に参りましょう。蘇生魔法がありながら、何故”死”を迎えるのか?」


「頼む」


「厳密にいえば、死とは2種類あります」


「2種類?」


「はい。”一時的な死”と”完全なる死”です」


「イヴ……知ってるか?」


「ん~?」


俺の右手を枕にして寝かけていたイヴに聞いてみる。


「ん~。知ってるよ? ボクの剣……今は銃だったね。ボクにつけられた傷で迎える死は”完全”な方」


「お~……」


この返答でなんとなく理解した。


「一時的な死とは、もうお分かりかと思いますが、蘇生魔法でどうにかなる状態の死です。一方完全なる死は蘇生魔法でも対処ができない死です」


「なるほど……で? その死に行きつく分岐点はなんになる?」


「大変いい質問です」


リプスは優しい笑顔を向け、まるで出来のいい生徒を教える美人教師のような雰囲気をかもしだす。


「まず、簡単に言いますと、”運命”による死なのか。ここで分岐します」


「運命だって!?」


「はい。運命です。その者が生まれ落ちた瞬間から、肉体として死すべき時間は決められています。もしくは寿命といいましょうか? 生まれ落ちてすぐ、特になんの要因もなく死んでしまう赤子がいますね?」


「あ……ああ……確かにいる……だろうな」


「逆に、不治の病により余命を宣告されたにもかかわらず、それを大幅に上回って生き続ける老人もいるはずです」


「ああ……」


「この概念が無い場合、受け入れがたいかと思いますが……運命とはそういう物なのです」


「生まれ落ちた時に終わりが決まっている……」


「そうなります」


この言葉に、俺は思わず黙ってしまう。


確かに……生あるものは必ず死ぬ。これは揺るがない……だが……これじゃあ……


「続けても?」


心配そうにリプスが俺の顔を覗き込む。


いや、いまここで詰まっても仕方ない。俺は気持ちを切り替える。


「大丈夫だ」


「では。今の事をふまえて、想像していただきたいのですが、生まれ落ちた瞬間に、その者が完全な死を迎えるまで燃え続けるロウソクがあると思ってください」


俺は言われたとおりにロウソクを想像する。


「生物によってロウソクの長さは勿論、芯の太さも違います。長い物は勿論長く燃え続けますし、芯の太い物は炎が大きく、消えにくいですが、その分速く燃え尽きるかもしれません」


リプスが指先に小さな炎を出す。


「そして……」


フッとリプスが息を吹きかけると、小さな炎は消えてしまう。


「ロウソクが燃え尽きるまでに、何かの要因で炎が消えてしまう状態。これが”一時的な死”です」


「つまり……再点火すれば?」


「はい。また火をつければ燃焼が始まる状態。生き返るということ。ロウソクに火をつけるという行為。これが蘇生魔法です。ロウソクが燃え尽きてしまっていては、燃える物が無いわけですから、蘇生魔法は不成立……そういうことです。そして、一時的な死だったとしても、火をつける者がいなければ、それもまた死であることには変わりありません」


「なるほど……よく理解できた」


俺は深くうなずいた。


「もう一つ……いいか?」


「何なりと」


「運命ってどうやって決まると思う? というか、決められてるんだ?」


「私の知識の中でも……その部分は”神”のみぞ知る……としか」


「”神”のみぞ知る…か……」


「はい……」


確か、俺って神なんだよな? そんな知識はないぞ?


どこの”神”が決めてやがる……



複雑だ。


運命は決まっている。


このことをなるほどと受け入れる自分と、ふざけるなと叫ぶ自分がいる。


理解し、理解した方が楽なのに……



「今のリプスの説明から、ラケルのあの状態は”運命”によって迎えられかけている死であり、蘇生魔法は効果が無い……そういうことか」


「いえ……それがあの者、かなり特殊なようです。完全なる死を迎えかけていることには間違いないのですが、過程がかなり異なっているように見受けられました」


「なんだって?」


リプスはゆっくりと、ラケルの状況について話し始めるのだった。



―――――――――――――————

あとがき



説明回は退屈にならないように特に気を使いますね。

どうでしょう? 退屈にはならなかったでしょうか?

一言の感想でもうれしいです。

読者の皆様ともっとかかわれたらな……そう思ってます。


是非お気軽に感想コメントなどを活用してくださいね。

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