第15話 遥か彼方を……
これは……日々の食糧や道具……そんな物を城に搬入するための列か。
それと、あの辺はどっかの貴族連中がこの城に用があるんだろうな。
離れた位置に装飾が施された馬車が数台見えた。
ここが俺の目当ての城ならば、確か”侯爵”の階級を持つ奴の城ってことになる。
謁見を申し込むやつも多いんだろうな。
そんな周囲の状況に目を向けながら、潜り込んだ城への列に並び、俺は大人しく自分の番が来るのを待っていた。
さて……どうするか。
馬鹿正直に聞いたって間違いなく門前払いだろうしな。
俺の脳裏にある記憶が蘇る。
あれの真似するか……婆ちゃん亡くなって、あそこが一番”アレ”だったからなぁ……
そんなことを考えながらジリジリと城に近づいていく最中、城での用事が終わったのだろう。
城から出てきた馬車に乗っている令嬢と思われる人物や、凛々しく騎乗していた女騎士などと何故か目が合ってしまった。
向こうが驚いたような表情をとった後、慎ましく手を振ってくれたりするので、とりあえずそれに応えはしたが……
何か可笑しいのだろうか?
俺は自分の姿を確認してみる。
…………うん。これと言って可笑しいところはなさそうだ。
股間の部分は……よし……閉まってる。
ネートル村では特に服装については驚かれなかったんだがなぁ……
もしかして、位の高そうな連中からしたら酷く突拍子もない格好なのか!?
いや……それならそれで王子は何にも言ってこなかったがな。
う~ん……なんでだ?
「次! ん? なんだお前は一人か?」
俺がうんうん唸っていると、前で検問を受けていた商隊のような御一行様の許可が下りて、俺の番になったようだ。
「そうです」
返事をして兵士のそばに歩み寄る。
兵装は……槍と盾にハーフプレートを装備。
装備自体の質は……やっぱ王子のとこの兵士と比べるとかなり劣るな。
まぁそれもそうか。近衛兵と門番じゃな……
そして……後方には30人程の同じような兵装の連中が控えてて……城門の上には弓兵が多数と。
そのそばにいるのは……
銃が廃ったのに弓はいまだ健在なんだな。
と……いうことはだ……まず間違いなく魔法と弓の相性がいいということなんだろう。
そうじゃなきゃ、俺が元居た世界で弓が武器として廃れた意味が分からない。
「何をじろじろ見ている?」
門番の声に警戒の色が強くなる。俺の視線を不振がったのだろう。
「すみません。立派な城だと感心しまして」
「あたりまえだ。イーベル侯爵様の城だぞ。そこいらの城と同じにされては困る」
はいどうも……ここはやっぱりイーベル侯爵の城で間違いなし。
俺がここに大人しく並んだ意味の1つ目はクリアした。
次だ―———————
「それもそうですね」
「ああ。で? 貴様一人でいったいこの城に何の用だ?」
「それなんですが……この城にテレビってございますか?」
「なに? テレビだと? なんだそれは??」
「え? やだな~テレビですよ。テレビ。こんなに大きなお城なんですから1台や2台じゃないでしょ?」
「何を言っている?」
兵士は俺の突然の畳みかけに動揺しているようだ。
「ちゃんとウチと契約してもらってますか? と言うかしていただいていないので、本日私が伺わせていただいているのですが」
「契約だと?」
「ええそうです。テレビを保持されていますと、私共と契約していただくのが決まりです。これは”法律”で定められておりますので、申し訳ありませんが拒否権はありません」
門番の動揺は強くなるばかりだ。この様子を不審に思った兵士達が何事かとこちらに向かってきているのが見える。
「契約には御本人様の確認と署名が必要になるのですが……本日イーベル侯爵様は御在城でいらっしゃいますか?」
「何事だ?」
やってきた兵士達に門番が内容を伝えている。
それを聞いた、後からやってきた兵士達も困り顔でお互いを見合わせた。
”法律”このキーワードがネックになっているようで、無下にできないようだ。
「そんな物……うちの城にあるのか?」
「ええ。必ずあると思います」
「それに、そんな法律など聞いたことはないが?」
「ルーウィン王子が御関わりになって最近成立した法律ですので、御存知ないのも無理はないかと」
「あの王子か……確かにあの王子なら突拍子もないことをやるからな……」
やっぱり……睨んだ通りだ。
王子はどうもこの国の現体制に不満だらけっぽかったからな。
1つや2つはなにかやってるだろうと思ったが、そのおかげでこのバカみたいなハッタリでも信憑性が高くなった。
―—————あ。勝手に名前出して悪かったな。
―—————すまん。王子。
俺は心の中で、あの超絶イケメン爽やか主人公王子に詫びを入れておいた。
「それで……イーベル侯爵様は現在御在城でいらっしゃいますか?」
「ああ……この時間なら謁見の間にいらっしゃるが……」
よし……2つ目クリア。
3つ目は……まぁクリアしてもしなくてもどっちでもいい。
「では、イーベル侯爵様に謁見させていただいてもよろしいでしょうか?」
俺のこの言葉にやはり兵士達は困り果てている。
少し待てと言われ、離れた位置で何やら話し合うと、途中で1人が城の中に走ってく。
もうしばらくして最初にいた門番がこちらに戻ってきた。
「国からの使者を無下にはできないが、かといってそう易々と謁見させるわけにもいかんのでな。何か正式な書類など、そう言った物を見せてもらいたいのだが?」
そりゃそうだ。
「あ、これは失礼いたしました」
俺はわざとらしくそういうと、コートやズボンのポケットをあさりだす。
「あれ? 可笑しいな……確かここに」
空のホルスターもあさり終わり、コートの内ポケットへと移動する。
「どうした? ないのか??」
門番の声に最初の時のような警戒の色が戻ってきた。
「いえいえ……大丈夫です」
しかし、俺はそんなことはお構いなしにポケットをあさり続ける。
そうこうしていると城の中から1人の兵士が息を切らせて戻ってきた。
そのまま後ろの兵士達に駆け寄ると、その兵士達の表情が険しくなり、こちらを目指して歩き出す。
潮時だな―—————
「申し訳ありません……どうやらここに向かう最中に書類を落としてしまったようで……また日を改めさせていただきます」
「国の使者を名乗っておいて……それで済むとでも?」
門番が槍を構えるのと同時に、こちらの変化に気が付いた兵士達が駆けだす。
「ええ……済むはずがないですよね……あ! お前!! 城に勝手に入っていいわけがないだろう!!!」
俺の叫びに門番は勿論、駆けてくる兵士達も思わず城の門へと視線を送った。
「何もいないじゃないか……あ!」
門番達が門から視線を戻した時、そこにはもうレオンの姿はなかった。
見渡す一同に、検問を待つ人々は遥か彼方を指さすのだった。
―――――――――――――
あとがき
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