No titleもタイトルだって教えてやるよ!

楠木勇兎

第1話 さようなら、俺の日常

 俺は今、学生ならば一度は....否、何度も経験したであろう「あるあるだよな」と言いたい地獄にパイプ椅子のみで立たされている。


 そう、毎年恒例の校長の長い挨拶。そして、この学校特有であろう洗礼のようなものだ。


「では、皆さんに簡単な自己紹介してもらおう!」


 始まった....。これがこの学校特有の儀礼だ。謎の覇気をまとった校長が一人一人に質問して回る地獄の行事。これが終わるころには空は暗くなっているだろう。

 そして、こういう場合、人は2つに分かれる。馬鹿正直に答えるものと、適当に流すものだ。もちろん、俺は後者だが。

 と、そんなことを思っていれば早速お手本のようなやつが現れてくれた。


「君、名前は?」

「はい!伊達 真と申します!」


 いかにも、こいつがどんな男かわかる口調だ。こういうタイプの人間は嫌いでこそないが、好きにはなれない。(まあ、俺のようなタイプとは真反対だからな。真だけに)と確実にスベった気はするが気にしてはいけない。

 

 校長は質問を続ける。


「いい返事だ。では聞こう、君のTITLEはなんだ?」


 言葉に謎の威圧が混ざっている気がするのはやはり気のせいだろうか。そう思っていると、なぜか校長の視線は俺に刺さっている気がする。なぜだろう、嫌な予感しかしない。一方、伊達は気付いていない様子だ。

 伊達は答える。


「そ、それは...言えません。」


 伊達の目にはしっかりとした意思がみてとれた。


「よろしい。では次......。」


 と、次々と進んでいく。二時間ほど経過してようやく俺の順番になった。あれ?心なしか目が鋭くなっている気がする。

 そして、校長は今まで道理に質問してきた。


「君、名前は?」

「神童 無です。」


 校長は少し笑ったようにも思えたが、すぐに元の顔に戻り続けて質問する。


「変わった名前だな。では、聞こう。君のTITLEは何だ?」


 見えない圧力を感じるが、負けずに答える。


「ありません。」


 校長は少々驚いた様子だったが、何かを察したかのように顔つきを戻し、そのまま質問を終え、次へ移っていった。

 それから、また二時間程たち、ようやく地獄の儀式は終了したかに思えた。

 

 !しかし、校長は壇上に上がる。


「皆さんの大半はTITLEを言えなかったな。確かに、自分のTITLEを言うのは身を危険にさらすことと同様だが、自分に自信を持て。恥じる必要はない!絶対的な自信さえあれば危険など簡単に打破できるのだからな。」


 やっと、校長の威厳ある終わりの言葉を告げ、入学式は終了かと思われた。

 しかし、校長は最後にこう言ったのだ。


「では、最後に代表一人は私と戦ってもらいたいと思います。」


 もうすでに予感が外れ、安心しきっていた俺は、校長のそんな言葉によって、自分の立てたフラグを思い出すことになった。


「代表は、そうだな.......。」


 校長は少し考えたようにしていたが、フッと笑ってこう言った。


「神童 無君来なさい。」

 

(やっぱり予感的中!ありがとう。見事なフラグ回収でしたっ!)

心は身の危険を予感して逃げろと叫び膝が震える。

 しかしそんな抵抗などむなしく開き直って壇上へ足を踏み入れるしかない。

壇上に足を踏み入れた瞬間、俺はこう思った。

 さようなら、俺の平穏な日常(泣)。

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