第8話 王国の秘密
錯乱した勇者達はどうにか平常心を取り戻した。王と勇者は向かい合わせで席についている
「すまぬ勇者殿、先ほどは見苦しいマネをしてしまった」
「いいえ、こちらこそすみません」
たぶん、あの女神が翻訳スキルをいじったせいだ。余計な事を言わなければよかったと勇者は後悔していた
「でだ、勇者殿、先ほど余が人目の無い内に話しておきたいと言った話とは・・・」
「何故女性であることを隠しているのか、ですか?」
「うむ」
王様は頭の王冠を取り表情を変える
「わたくしの名前は37代目クプウルム国王、ジョージ・クプウルム、本名はジョージア・クプウルムと言う名です」
「本名も男性名とあまり変わらないんですね」
「ええ、秘密を知っている者が万が一呼び間違えても、言い間違いと聞き流せるようにとメイド長のシンシアが」
王のそばに立っていたメイドが一歩進み自己紹介した後、一礼し一歩下がった
「ジョージア様の身の回りのお世話をさせていただいてます、メイド長のシンシアです。以後お見知りおきを」
「はい、どうも」
ジョージアって女性の名前だっけ?コーヒーのイメージしかないけど。などと勇者は考えているとまだ自分の名前を名乗ってない事を思い出した
「そういえば、まだ僕が名乗ってませんでしたね。僕の名前はゆうとです、苗字はありません」
「ユート様ですか、改めてよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします王様」
発音が若干違うが、お約束なのでスルーした
「わたくしがこうして男装し王を務めているのはお父様…先代の王が魔物との戦で無くなり、本来の後継者であるユリウス兄様が行方不明になっているからです」
「はあ、王国の危機とは聞いてましたが、トップの方がお亡くなりなるほど切羽詰まってたんですねぇ」
「はい、それでわたくしがユリウス兄様の代理でまつりごとを務めているのが現状です。それでユート様、わたくしが女性であることは絶対に口外しないでいただきたいのです」
「はい」
勇者がそっけなく返事をしたのでシンシアが念を押す
「場合によっては勇者様の首を刎ねる事になりますのでくれぐれも慎重に」
シンシアの言葉に王様ことジョージアが反応する。言い過ぎだとでも言いたげだ
「シンシア!」
「これ以上国民の危機感を煽るような事はあってはなりせん。勇者様、重ね重ねお願いします。秘密は絶対に守ってください」
「はい」
勇者はそれでも表情を崩さなかった。だが勇者は内心”いいえ、と答えないとずっとループしたりしないよね?”と心配している
「それで僕は何時冒険に出れるのでしょうか」
勇者の言葉にシンシアは驚いている。ジョージアは静かに見守っている
「昨日すでに死にかけたのにもう戦うおつもりなのですか!?」
「身体ももう痛くないですし。初戦で薬草を使ってしまったのは痛いですが」
その時王は確信した。この勇者手馴れているという次元の話ではない、本来なら昨日の魔物相手に薬草を使うまでも無いのだ。よほど不完全な召喚による弱体化が深刻なのだろう。
一見とぼけている様に見えるが、この勇者の表情、正義感や魔物への憎しみなどと言った感情は一切感じられない。この男に自分がどんなに非力でも魔物へ挑む事がごく自然で当たり前…そんな意思すら感じる。一体いくつの修羅場を潜ったらその境地にたどり着けるのだ
シンシアはどこからか道具箱を取り出し勇者にすすめる
「薬草など医薬品の類は、こちらでいくらでもご用意いたしますが」
「いいえ、なんかズルしてるみたいで嫌なので」
ジョージアは王としての表情にもどってシンシアを止めた
「もうよい、シンシア。勇者殿、この城を出たら北門にむかうがいい。森のモンスターなら肩慣らしにはちょうどいいだろう」
「ジョージア様・・・」
王は一枚の書類の様な物を勇者に渡した
「この通行手形を持って行くがよい、門を通る時に必要な物なので無くさない様にな。勇者殿たのみましたぞ」
「はい」
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