夏が終わるから

中野あお

プロローグ

夏の物語

 夏が終わる。


 そんなことは知っている。


 もう二十二回目だ。いちいち誰かに言われなくてもその終わりくらい感覚でわかってしまう。


 それでも、今年ばかりは誰かに夏の終わりを気づかせてほしかった。誰かに指摘されるまで気づかないくらいに、この夏に閉じこもっていたかった。夏がずっと続くと信じていたかった。


 それができないのは私が少し現実を見すぎていたから。この夏が終わってしまうのは私が少し強すぎてしまったから。


 夢を見たい。弱さが欲しい。願うけれど、どうにもならない。


 夏の終わりに耐えられないのはこの夏がいつもより少し楽しかったから。続く季節に目を向けられにないのは、そこに彼女がいないから。


 理由は明らかなんだ。わかっているけれど、どうにもならない。

 こんなことを考えている間に、夏は終わっていく。


「大丈夫、終わってもまたやればいいだけだって。」


 私にそう言った人がいる。

 間違いだ。


 終わってしまうものを繰り返すことはできない。もう一度同じことをしようとしても、それはただの類似品であって同一ではない。そんなものが欲しいのではない。私が見ていたかったのは今年の夏であって、その模造品ではない。


 繰り返せない夏。閉じこもれない夏。

 私の頭の中にまだこの夏は存在している。けれど、記憶は薄れてしまうし詳細ではない。それではこの夏はいずれ消えてしまうことになる。


 だから、私はこの夏を閉じ込めることにした。

 それがこの物語。消えていかない、薄れていかない私の夏。

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