金魚鉢16 復讐~亜人密談
「ラタバイ爺が死んだ……」
壁一面が青く光る
その言葉にフクスは息を呑む。
オーアの前にはミーオがいる。水槽の中にいる
そんなミーオを、天井に吊るされたガレの銀魚ランプが照らしていた。ミーオの後方にいるフクスは、不安げに狐耳をたらすことしかできない。
「やっぱり、そうなるのね……」
冷たいミーオの言葉が聞こえて、フクスはびくりと狐耳を震わせる。フクスの怯えを感じ取ったのか、ミーオが顔をこちらへと向けてきた。
ミーオが悲しげに眼をゆらし、顔を
父親が死んでから、ミーオはよく笑うようになった。人を
そして今日、ミーオはフクスにこんなことを言ってきた。
レーゲングスの敵をとるために、金魚鉢を壊そうと――。
そして、ミーオはフクスを
そして、オーアはフクスにこう告げたのだ。
金魚鉢が、亜人のものでなくなると。
「知っての通り、ラタバイ高官は
オーアは手にしていた書類を、目の前にある机に放り投げた。類はばらばらになり、何枚かの白黒写真が資料の
「フクス……」
ミーオの腕がフクスを
黒ずくめの男たちが、床に倒れる老人を取り囲んでいる。その老人にフクスは見覚えがあった。高官のラタバイだ。
そして彼はオーアの――
フクスはオーアに顔を向けていた。ぎゅっと唇を引き結び、オーアは
ラタバイの
フクスはラタバイにはよくお
レーゲングスの会社からたくさんブーゲンビリアの
――君たちはね、私の孫のようなものだよ。
そう笑っていた人はもういない。
そして、その人を死に追いやったのは――
「兄さんを殺した人たち……」
「フクス……」
ミーオの腕が力なくたれさがる。フクスは、ふらりとした足取りで机へと向かっていた。視界に映る白黒写真を手に取り、そこに映り込む男たちを食い入るように見つめる。
フクスの脳裏に、あの夜の光景が
色のない翠色の眼をフクスに向けながら、谷底へと落とされていったレーゲングス。兄の死を、フクスは怯えながら見つめることしかできなかった。
「こいつらが、全ての黒幕だ。私たちを屈服させるために、総督府は手段を選ばないらしい。その見せしめに、お前の兄さんとミーオの父親は殺されたんだろうよ……」
机に散らばった資料を
「ラタバイ爺は私たち亜人のために金魚鉢の自治を残そうと
「そんなことのために、兄さんは殺されたの……?」
フクスは色のない言葉を発していた。じぃっとオーアを見つめても、彼女は何も答えてくれない。
ぶわりと、どす黒いものがフクスの内側から込み上げてくる。体中の毛を逆立て、頭を熱する怒りをフクスは
「うわぁあああああああぁ!!」
「殺してやるっ! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺して――」
「フクスっ!」
ミーオがフクスを抱きしめていた。彼女の猫耳は小刻みに震えている。フクスは驚きに眼を見開くことしかできない。
そっとフクスから離れ、ミーオは口を開いていた。
「オーア、本当にフクスも巻き込むの?」
「そのつもりで、お前はフクスをここに連れてきたんだろ?」
「巻き込むって、何?」
色のない声で、フクスはオーアに尋ねていた。腕を組み、口を吊り上げたオーアは笑みを深めてみせる。
「何、総督府のお偉いさんたちのために、でっかい花火をあげる相談をしてるだけだよ。その宴の席には、もちろんこいつらも
「それって……」
「なぁ、フクス……。少し早いがお前をキンギョにしようと思う。世にも珍しい赤狐が抱けるんだ。総督府のお偉いさんたちも、ご満悦だろうよ。その狐が大事なアソコをを噛みちぎるかもしれないのになぁ」
くつくつと体を震わせながらオーアが嗤う。
「金魚鉢でね、お父さんが残してくれた花火をあげるの。でも、その花火が特別な花火だったらもっと素敵だと思わないフクス。七色に輝いて、とっても
後ろにいるミーオがうっとりと言葉を紡ぐ。フクスが後方へと振り向くと、ミーオは瑠璃色の眼を輝かせ、微笑みを浮かべていた。
光り輝く瑠璃湖のように、美しい笑みを。
「ねぇ、フクス。一緒に花火上げようよ?」
こくりと首を傾げ、ミーオはフクスに尋ねてくる。
「なぁ、フクス。赤狐みたく、金魚みたく、真っ赤で美しい花火を見たいと思わないか? その花火を一緒にあげないか? みんなの
オーアが手を差し伸べ、
その2文字がフクスの脳裏を駆け巡っている。ミーオとオーアは
「さぁ、どうする、赤狐? 逃げても隠れても、私たちはお前を責めたりはしない。お前は自由だ。自由を手に入れられるんだ。その自由を捨てて、私たちとともに歩む勇気がお前にあるか?」
囁くように、オーアが狐耳に問いかけてくる。その言葉に引き寄せられるように、フクスはオーアの手を取っていた。
「私は、自由なんていらない……。自由なんて、そんなものどこにもないっ!」
声が震えてしまう。それでもフクスはオーア手を強く握り締め、己の覚悟を彼女に示す。
レーゲングスを失ったあの瞬間から、フクスの心は決まっていた。
自由などいらない。ただ、兄を殺した奴らを許すことはできない。
「あっははははあぁっはははぁはは!」
「それでこそ、私の赤狐だ!! あぁ、本当にいい買い物をしたよぉ! お前は最高のキンギョだよぉ、フクス!!」
顔をあげ、涙に濡れた笑い顔をオーアはフクスに向けてくる。ひとしきり笑ったあと、オーアは深呼吸をして、こう
「我ら亜人の未来のために。消えていった
涙に濡れたオーアの眼に笑みが浮かぶ。彼女の
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