(だいたい)300回投稿記念 IFストーリー ~もし、転移した先が中御門だったら 第3シーズン②~

「マサオ教には前々から興味がありました。今より男性不遇の時代に国教を作り上げた手腕、そしてタフな心。同じ男として尊敬するしかありません。急な参加を快く認めてくださったマサオ教の方々に感謝すると共に、この良き日を祝いたいと思います」


「本当にめでたい日になりますね! タクマさんが同席する事で、場も華やかになり、天国のマサオ様も喜んでいることでしょう。以上、現場からお伝えしました――――はい、お疲れさまでした。インタビューを受けていただきありがとうございます! あっ、これ私のメアドと電話番号と3サイズと口座番号と自撮りグラビアです」


「お気持ちは嬉しいですが、いきなり個人情報をポンポン差し込んでくるのはちょっと……」


「遠慮せずに受け取ってください。タクマさんも私の下腹部ポンポンに挿し込んでくださって構わな――あっ!? は、離して!? いやぁ! タクマさんと遺伝子情報を交換しなきゃならないのにぃぃぃ!!」


天道家が雇っているダンゴ集団に拘束され、リポーターの女性が強制退場していく。その背中に、


「お身体にお気をつけて~」


人生まで退場しないようエールを送って。「え~と、今の人でインタビューは一旦終わりかな」


やれやれ疲れた、用意された椅子に腰かける。すると傍らに控える、物憂げな顔のメイドさんが口を開いた。


「……三池様。何と申しますか、強くなりましたね」


「どうしたんですか、突然」


「天道家にいらっしゃった当初は紅華様や咲奈様のアプローチに驚き怯え、まばたき間隔で瞳から色を消していましたのに。いつの間にか、並の奇行をお目にしても動じなくなりましたね」


「そりゃあ、天道家の皆さんに鍛えてもらってますからね」


「祈里様たちとの日々が三池様の糧となっているのですね……およよよ、ご立派な御姿に涙が止まりません」


「愉悦が得られなくて悔し涙ですか?」


「――いえいえ、まさか。三池様と軽口を言い合えるほど仲が深まり、感涙にむせびそうです。およよよよ……あっ、それはそうと。成長は慢心の元、慢心は愉悦フラグと申します。ゆめゆめお忘れなく」


「怖いこと言わないでくださいよ」


メイドさんと駄弁りながら、ここ守漢寺の『降誕の間』にて式典が始まるのを待つ。

周囲を見渡すと、俺をガン見しながら舌なめずりする来賓の方々がチラホラ。信徒の人たちは舞台周辺で待機しているのが数名、他は舞台裏で式典進行の最終チェックをしているのだろうか。



祈里さんは説得に成功したかな。紅華さんや咲奈さんも一緒だから、いつものようなヘマはしないと思うけど。


三人はマサオ教代表の部屋に向かった。


どうか平穏無事に問題が片付きますように――

マサオ様は寛容な人だったと聞く。信徒歴一日の俺の願いも叶えてください、オナシャス!







祈里さんは下着求道者パンツァーだった。

以前、俺のパンツに顔面から激突した祈里さん。心肺停止する中で、彼女は天啓を得たらしい。


《男性の男性たる所以ゆえんは股間の男性機能に有り。その男性機能と常に接触するパンツには精気が宿っている。すなわちパンツを愛でる事は搾精と同義。幸せである》


ちょっと何言っているか分からない。俺には高度過ぎる内容だが、祈里さん的には腹堕ちしたらしい。


この素晴らしい教えを独占するなんてとんでもありません! 世に広めて、幸せを皆様にお裾分けですわ!


タクマのプロデュースで多忙だろうに、時間を作って祈里さんは布教に勤しんだ。

活動の場は主にインターネット。おパンツ様をあがたてまつるサイトを作り、教えを掲載すると共にQ&Aコーナーを設けて悩み相談を行った。


もっと詳しい話を聞きたい、と希望する人にはネット上のクローズドコミュニティであるオンラインサロンで直接対話したそうだ。

マサオ教の現代表の『北大路しずか』もサロン参加者の一人だった。


祈里さんもしずかさんも世間では名が知られている。

二人は本名を明かさず、顔出しNG、声も機械加工して『おパンツ様』について熱く語り合ったらしい。


で、直近の対話にて、しずかさんは宣言した。


『私は破壊します! 私を縛っていたモノを、多くの人々を凝り固まらせる元凶を! そして、誰もが『おパンツ様』のもとに召されるのです!』


マズいですよ! しずかさんの立場と発言の中身から、破壊対象は『マサオ教』ではなかろうか。



「しずかさんは元凶を破壊する時に、私に分かるよう男性用のパンツを首飾りにするとおっしゃっていました。そして、国中にくすぶっている同士パンツァーに可能性の光を見せると意気込んでいましたわ」


う~ん、発想がテロリスト。

ニュースで北大路しずかさんが身につけていた『襟巻き』を『首飾り』と解釈するには、頭を柔らかくする必要はあるが、それは置いといて。

これは天道家としても危険な状況だ。





「祈里お姉さまがネットに変なモノを書いているのは知ってたけど、ふつうの変態さん行為だから生温かく見守っていたのに」


「あたしも祈里姉さんが通販でパンツを買い漁っているのは知ってた。変態だけど、地に足ついた趣味だし黙認してたな。まあ、天道邸うちに保管されているお父さんの衣類が盗まれないよう管理は厳重にしたけど」


「祈里様が二重の意味でパンツに被れている事は、もちろん把握していました。申し訳ございません、屋敷内の洗濯干し場に施錠するよう対策しましたが、祈里様自体はもう少し泳がせた方が愉しくなる、と釣り上げるのを怠りました。事が大きくなりましたのは私の責任です」



昨晩、祈里さんをゲロらせた後の家族の反応である。

下着漁りを『ふつう』とか『地に足ついた』と容認するところに、この世界が異常で飛んでると再認識するものの、それも置いといて。


天道家が追い詰められている、とみんな気付いている。



詳細不明であるが、北大路しずかさんは『マサオ教降誕記念式典』でナニかを破壊する。

彼女は逮捕されるだろう。警察が調べればしずかさんの思想が『おパンツ様』に塗れている事はすぐにバレる。

となれば、誰が『おパンツ様』を植え付けたかに捜査の目が行くのは必然。

なにしろ北大路しずかさんは北大路の領主でもある。国の中枢を担う人が洗脳されていました、とか一大事も一大事だ。


匿名性の高いオンラインサロンだろうと、国家機関の情報開示命令を拒むのは難しいだろう。

いずれ捜査上に『天道祈里』の名は浮かぶ。

祈里さんが罪に問われるかは問題ではない。名前が出た時点でアウトだ。

由緒正しき(?)天道家の家名に傷がつく、それも末代まで消えない深い傷が。



何が何でも北大路しずかさんの凶行を止めなければならない。

俺たちは慌ただしく動いた。


布教サイトやオンラインサロンから、しずかさんのハンドルネームに呼びかけるも反応はない。

北大路領主宅やマサオ教の本部にいきなり電話したところで、しずかさんへ取り次いではもらえないだろう。

そもそも男性のパンツを首から下げる覚悟完了者を電話で説得出来るか怪しいところだ。


話し合った結果、俺が一肌脱ぐことになった。


「突然のお電話失礼しま――えっ、そうです。アイドルのタクマと申します。嬉しいなぁ、第一声で特定してくださるなんて…………あの、狂喜乱舞を中断して聞いてほしいのですが、実はわたし、マサオ様を敬愛してまして。急な御願いでご迷惑とは思い……あっ迷惑じゃない? ウェルカム? ありがとうございます、話が早くて助かります。それでは明日の朝に伺います。護衛を数名連れてきますが、よろしいでしょうか――――」


男性アイドル・タクマの影響力を使ってゴリ押しだ。式典前夜でリハーサルも終わっているだろうに、会場に俺たちの席を確保してもらった。マサオ教の方々には後でお礼をしよう、性癖的に後腐れのない方法で。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





ゴリ押しの対価は、意外に早く請求された。


「ん~、下半身がスースーしますね」


「ぶはっ!? 唐突におエロい発言は止めてください。思わず全身をスースーさせたい欲求に駆られてしまいました」


メイドさんが顔を赤らめながら注意してくる。しまった、たしかに迂闊な言葉だった。


「き、気を付けます。はかまって着慣れてないもんで、どうも違和感が」


「辛抱してください。気恥ずかしそうなモジモジは、求愛ダンスと周囲から誤認されるかもしれません。マネージャーとして困ります」


「一個人としては?」


「撮れ高でございます」


この駄メイドは……


メイドさんのメイド服は格式高い英国調。日本のなんちゃってメイドとは一線を画し、遊びの少ない本格仕様である――と、見せかけて俺を撮影するための小型カメラや録音機が仕込まれている。

他にも暴女を想定した暗器やも装備できる(工学的な意味で)遊びだらけの衣服なのだ。


対して俺は。


「マサオ様を敬愛するタクマさんのために一晩で仕上げました」


と、有難くない事に用意されたマサオ教用の宗教服を着ている。ここは守漢寺という寺なのに、上は白衣、下は紫袴に白の紋様が描かれた神主の様相だ。

ジーンズやボトムスみたいに穿くのではなく、袴は腰に巻く。公衆の面前でこれは慣れない。

しかし、無理やり式典に介入した手前、大人しく着替えることにした。


「ふぉふぉぅぅ、ううむ。なかなかのマサオ味ですが、マサオ様の段位レベルには遠く及びませんね! 更なる修行と着衣を期待します!」


マサオ服の俺を見た、マサオ教副代表『クルッポー』さんのコメントである。細かくレビューしてくれたが、大半は鼻息が荒くて聞き取れなかった。





「天道家のピンチなんですよね。俺、もっと働いた方が良いんじゃないですか?」


「三池様、組織論において人間は四つのタイプに分けられます。有用性の高い順に、有能な怠け者、有能な働き者、無能な怠け者、無能な働き者とこのように」


「お、俺が無能な働き者って言いたいんですか?」


「いいえ、三池様は一般的な組織論で語れません。あなた様は『官能な働き者』です。有用性順では何番目かお聞きしますか?」


「自傷癖はありませんので遠慮します。俺がすべきは式典に天道家の人たちを捻じ込むこと。役目は終わりましたので座して待ちます、これで良いんですよね?」


「うふふふ、賢明でございます。祈里様、紅華様、咲奈様を信じましょう。お三方とも本番に強いタイプです」


三人の育ての親であるメイドさんが太鼓判を押す。

ああ、よく知ってるよ。なんたってアイドル・タクマが尊敬するスターだからな。



そういうわけで神主服とメイド服の和洋折衷コンビは、式典会場の端で静かに朗報を待つのであった。

祈里さん、紅華さん、咲奈さんがマサオ教現代表の凶行を止めた――という朗報を。






『ごめん、ダメだった!』



数分後、届いたのは凶報だった。






「ダメってどういう」


『質問は後、とにかく聴いて』


携帯電話越しの紅華さんの声に『はっ、はっ、はっ』と呼吸が混じる。走りながら電話しているのか?


『しずかさんが『降誕の間』に向かってる、凶器を持って!』


いいっ!? 凶器ぃぃ!?


『興奮し過ぎてバーサーカー状態よ、人類と思わないで! 言葉を交わそうなんてもっての外! 会場外に逃げるのも危険! 廊下で鉢合わせたら最悪だから!』


テレビで観た北大路しずかさんは穏やかそうな人だったのに、まるで野生の獣扱いだ。


『自分の席で、前傾姿勢で、目立たないよう身体を丸めていて! バーサーカーの狙いはマサオ教の秘宝、それを破壊する気よ!』


秘宝?


『下手に邪魔しなきゃ安全なハズ、あいつを止めようなんて絶対に思わないで!』


「けど、しずかさんを止めないと天道家が」


天道家ウチは二の次! 拓馬さんの安全が最優先!』


うっ、紅華さんの強い語気と思いやりに押し黙る。


『あたしたちも急いで戻ろうと、走っているけど、なんなのアレ……』


『早すぎるよぉ、タッくん、ごめーん! お姉ちゃんが来るまで無理しないでー!』


『申し訳ございませぇん! 私が口を滑らせたばっかりにぃぃ!』


咲奈さんと祈里さんの声も聞こえてくる。紅華さんと並走しているようだ。

って、断崖から飛び降りてもピンピンしている紅華さんや咲奈さんが追いつけない速度? 

しずかさんはどんな形態変化を遂げたんだ? 想像出来ないと言うか、想像したくない。


「一つお聞きしてよろしいでしょうか?」


横からメイドさんが口を挟んだ。


『なに?』


「どうせ祈里様に原因があるのでしょうが、端的にどのような失言を?」


『パンツ脳に目覚めたキッカケを馬鹿正直に語ったのよ! 自慢話にしか聞こえないエピソードを情緒たっぷりに』


「理解しました。三池様の安全は私とダンゴの方々にお任せを」


『よろしく!』


通話が終わった。


「…………私の見解は間違っていました」


額を押さえながらメイドさんが呟く。


「何のことです?」


「『無能な働き者』は『官能な働き者』と同じ順位のようです」


「あは、はははは、いくら俺でも祈里さんレベルのヤラカシはしませんって」


「そうでございますね……誰もが、自分は大丈夫と思うものですね」


はぁぁぁ……

様々な感情を混ぜた溜息で気分を入れ換えたのか、メイドさんはダンゴの人たちにテキパキと指示を出し始めるのであった。




そして、一分も経たないうちに。




「なんだ、この音……?」


会場の外か? ギュィィィンと耳障りな騒音が聞こえてる。

なにかのエンジン音だろうか。うるさいという感情以上に不安を煽る音だ。


『しずかさんが『降誕の間』に向かってる、を持って!』


紅華さんの言葉を思い出す。

そういや凶器が何か訊きそびれたな……と、思ったのは一瞬。


高らかに答えは告げられた。


バンッ!


参列席の後方、『降誕の間』の扉が蹴破られ――ソレはやって来た。


国教の神聖な式典を乱す不届き者。

通常ならば信徒たちが怒り、乱入者を縛り上げるであろう。

それに居合わせたマスコミも特ダネだと沸き立ったに違いない。





「「「「「………………………」」」」」


しかし、誰も声を上げない。誰も動かない。





「スベテノモノニ、オパンツサマノヒカリヲ」


ギュィィィィィン。



会場の全員が本能的に察したのだ――騒げばヤラれる。



ソレは歩き出す。


ギュィィィィィン。

のご機嫌な回転を誇示するようにゆっくりと。


「スーホー、スーホー」


チェンソーを使用する場合は、木屑が顔に当たらないようフェイスシールドを付けるのが一般的だ。


ソレもしっかり付けている――頭の先からしっかり被っている――を。


目の部分だけ穴を開けたパンツフェイスで、首から下は巫女服、手中でチェンソーをかき鳴らす。


こんなん誰が止められると言うのか。



あっ思い出した、セーラー服の少女と機関銃を掛け合わせてヒットした映画があったな。


巫女服チェンソーパンツウーマンから目と思考を逸らすべく、俺は現実逃避することにした。

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