前〇腺と恥辱
三秒です。
(なにが?)
拓馬様をヤレるのは三秒が限度。それを過ぎれば南無瀬組がワタクシたちの仲を引き裂こうと、しゃしゃり出るでしょう。南無瀬組に制圧されるつもりは無いですが、抵抗の余波に拓馬様が巻き込まれるのは望むところではございません。
(多人数戦における定石はプレッシャーの広範囲攻撃。まともな人間は精神崩壊待ったなしですわ)
ですから三秒。天井のシミを数える時間もありません。
(ちなみにヤルとは、合体までをご想定で?)
他にナニがあるのです? 中途半端な目標は中途半端以下の結果を招きます。
今を逃せば、拓馬様はワタクシから距離を置くでしょう。ワタクシには今しかないのです。
数ある
(この濡れ衣にはエンドレス遺憾の意も辞さない)
うふ……うふふふ……うふぐっ!? 拓馬様に拒否されると想像しただけで筋繊維が断裂いたしました……早急にヤリませんと……ナニも成せないまま地に伏してしまいます。
(長い目で見れば倒れた方がヤリ直しが利くのでは……って聞く耳を持ちませんかそうですか。しかし獲物は土下座スタイルですぜ、どう崩します姉御?)
土下座によって最大限の謝意を示しつつ、ご自分の
ですが、誤りましたね。土下座ではお尻が丸見え、もっと言いますと前〇腺ががら空きです。
大変申し訳ありませんが、拓馬様には強制的に『
多数の書物で『基本技』とご紹介されている前〇腺への刺激。
お
それに短時間で拓馬様をお元気にする機会もあろうかと、拓馬様お人形で訓練は積んでまいりました、技術はあります。当然、覚悟も極まっており、ここに心技体が揃いましてございます。
(素人の前〇腺マッサージは体内を傷付け、感染症のリスクがある行為です。それでいて効果の保証はありません。良き淑女はマネしないでください)
ワタクシは即座に、三秒間ドッキング計画を立てました。
・拓馬様の後ろに回り込み、貫手による前〇腺マッサージに一秒。
・拓馬様をひっくり返し、ファスナーを下げ、
・中御門家の礼装が
締めて三秒。ワタクシの大願は成就するのです。
(はえぇぇ、すっごい。一秒の重みが100メートル走の世界レベル)
ワタクシと拓馬様の最後の逢瀬です、思い残しのないよう燃え上がってみせます。
(摩擦で人体発火が起きませんように)
それでは中御門由良、参ります。ワタクシ、恥ずかしながら実戦は初めてですので、不作法をお許しくださいませ――あら?
「…………」
いつの間にか拓馬様がお顔を上げています。体勢は土下座のままですが、目はしっかりワタクシを捉えていらっしゃいます。
悪寒が走りました。拓馬様の瞳がワタクシの全てを見透かすように深い輝きを放っています。
(気を付けろ! 歴戦の被害者の目だ! 助かるためなら何だってする凄みがある!)
『何だってする』
獣の警告に偽りはありませんでした。
拓馬様は跳ね起きるなり、猛獣と遭遇した登山者のように決して背中を見せず壁まで後退。速やかにお尻を確保しますと、艶やかなお口を開いたのです。ワタクシの高まった妄想と荒ぶる劣情を書きなぐった
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「知らんかったわ~。拓馬はんって飛べるんやね」
「……行動が突飛という意味でしょうか?」
「ちゃうちゃう。あない反省文の山を築きながらまったく『自重』を覚えてくれへんし。忘れっぽい頭からして実は鳥類やないかなって」
真矢さんが怒っていらっしゃる。普段の叱りつけるスタイルではなく、笑顔で皮肉をおっしゃっている。これは怒りが臨界点突破してますわ。
「他領主のプライベートルームに不法侵入。それだけでも匠の技が光るやらかし」
「おまけに、えげつないにも程がある詠唱。さすがのあたしもドン引きです。喰らった由良様はひとたまりもありませんねぇ」
椿さんと音無さんが事実を陳列して、俺のヒトデナシっぷりを白日の下に晒す。
仕方なかったんだ。由良様の鬼気迫る眼力を前にして、俺は確信した。このまま何もしなかったら大切なモノを喪失するに違いないと。
だから助かりたい一心で、部屋を観察した際に手に取った由良様作の小説を最大限の感情を込めて唱えたのだ。
『「ずっと思っていた。穢れを知らない貴方の身も心も滅茶苦茶にして、俺無しでは生きられない身体にしてやるってな!」』
『突如として豹変する拓馬。熱情のこもった視線が由良の肢体をいやらしくなぞる!』
『「お止めてください! 一時の感情に呑まれてはいけません。優しい拓馬様に戻って(裏声)」』
性への渇望は、時として絶大なる力を与えてくれる。
僅かな時間しか目に留めなかった小説の一節を、俺は完璧に記憶から掘り起こし、即興の一人芝居へと昇華させた。
効果は抜群だ。
「あああああああああああああぁぁああぁぁあああ!!??」
由良様はご乱心なされた。
振り解かれた垂髪がご尊顔を隠し、巫女服は乱れに乱れてエロさより不吉さを助長し、禍々しいだけだったオーラに呪詛が一つまみ投下されて持ち味をピリッと引き締めた。
自作の官能小説を抜きネタの題材となった人物に読まれる。人生で味わう恥辱ランキングがあれば上位入りも夢じゃない悪行だ、人間のやることじゃない。
だが、確実に隙は生まれ、逝き残る活路が見い出せるかもしれない。俺はそこに賭けたのだ。
果たして狙い通りの結果になった……と思ったのだが。
ジャパニーズホラーの金字塔みたいになった由良様を受け止められるほど、人間の心は強く作られていない。
恐怖から逃れるべく、俺はしめやかに気絶し――次に目覚めた時、由良様の表側の私室に寝かされ、南無瀬組から安堵と憤怒の感情を浴びせられたのだった。
「早急に人格矯正プログラムを再構成する必要あり。タクマ氏、安心してほしい。不出来な子ほど可愛いもの、私の女教師が火を噴く」
「発想と一部が貧しいよ、静流ちゃん」
「あ゛っ?」
「ここは『わからせ』プレイで骨の髄まで教育するべきだって。あたし、わからせにはちょっとした自信があるから」
「二人とも、建設的な意見を重ねているところ悪いけど、拓馬はんの脳をどうこうするのは後回し。まずは由良様の捜索や」
由良様は音読攻撃によって酷く錯乱し、いずこかへと御姿を隠されたらしい。
すでに消息を絶って一時間が経つ。未だに戻って来る気配はない。
この事態に対して、中御門邸を管理する使用人代表は見解を示した。
「由良様はかつてないほど混乱しておられます。使用人総出で捜索して由良様を追い詰めるのは賢明と言えないでしょう。地面陥没が可愛らしく思える厄災が降り注ぐやもしれません。ここは相応しい方が責任をもってお探しになるのがよろしいかと」
これはお前が始めたやらかしだろ、使用人代表の目が言っている。
南無瀬組に拒否権は無かった。
俺は発言権すらなかった。
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