第6話 ゆきぐに

僕は結末のある小説が嫌いだった。正確に言えばすべての小説は未完に終わらない限りは終わりが来るのだが、感覚として物語が収束するのは嫌いだった。つまり、終わるという感覚が僕は嫌いだった。


川端康成の小説には終わる、という感覚がなかった。始まるという感覚もなければ、終わるという感覚もない、不思議な 小説だ。

しかし、それがリアルな世界なのかもしれない。世界には始まりも終わりもない、あるとすればそれは、ある個人的な目線から見ての世界だ。

小説家は間違いなく、その物語の登場人物から見れば神様だ。リアルな世界の神様は「始まりも終わりもない世界」を作り出した。

僕の書く小説もそんな世界にしないといけない。そうでなければそれは作り物の小説になって、彼女を本当に存在させる小説になりえない。

僕は神様にならないといけない。

「あなたは神様にならないといけない」

彼女は僕に囁く。

「でも、神様って一体なんなの?」

「僕も、わからない」

「わからないものには、どう頑張ってもなれないのよ」

彼女はそう言って、優しく微笑んだ。彼女の微笑む瞬間の筋肉の動き、まぶたの震え方、そのすべてが作り物のようだった。

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