水晶の国へ

 もう何度目かの衝撃音、無謀なロリコンが俺たちの宿に侵入を試みては撃退されている。

 ちなみに宿の経営はカマーズなので従業員は安全だ。なにしろここに居るのは全員オカマか男の娘だし。

 無駄だと分かっていながらロリコン達が特攻してくる理由、それはステラだ。どうやら貰った食べ物に媚薬を一服盛られたらしく興奮という感覚に困惑して寝込んでいる。そこを襲いたいらしい。

 性欲の変態アスモデウスが看ているから大丈夫だとは思うが……一応専門家みたいなものだし。しかし何度撃退されても卑劣な変態たちは諦めない。今もまた窓の外でロリコンが舞った。


「ちなみに、再犯ってどうなるんだ?」

「ヴァーンシアには如月様の世界と違って人が未到達の土地がまだ数多くあります。そこの調査をカマーズや各国の調査隊がしているのですが過酷な環境というものも多くあるそうで必要物資を運ぶなど人員が必要になります。そういう場所の調査に使い捨ての人員として投げ込まれます」

 うわぁ……人権とかどうなってんだろう…………あぁでも、娘に悪さをしようとする輩ならそのくらい別にいいかとも思ってしまう。何かあってからでは遅いのですよ!

 発案はロフィアらしい。アマゾネスは女の種族で国を支える事になる女児をとても大切にしている。そのの、まだ力の無い時期に悪さをしようとするロリコンを天敵として認定しているそうな……つまりロフィア的分類では俺はロリコンではなかったようだ。というかこいつらロリコンじゃなくてペドじゃん…………。


「ステラがダウンしてると話を聞けないな。あのペドスレイヤーな生物は飼育出来るんだろうか……」

「ワタルなに言い出してるんですか……」

「いやもう飼育して管理すればここの兵士も楽できて、更に世界供給すれば変質者を撲滅出来るんじゃないかと。もて余した変質者を狩るように調教してだな――」

「そういうのはフィオちゃんをむにむにしながら言う事じゃないです。ワタルも撲滅されますよ?」

「大丈夫だ。この後はナハトをむにむにするから、その後はリオな」

「何が大丈夫なんですか……私はいいです」

 だって順番待ちしてるんだもの……俺だって触れ合いたいし、ちなみにむにむにしてるのは頬っぺただ。娘の前だしな。


「如月様……その案一考の余地ありですね! というかロフィア様は即決しそうです」

「だろうなぁ。聞いた感じだとここの連中には相当厳しいみたいだし」

 僻地への追放が執行される前に抵抗すれば即刻処刑だという、切り落とされるのはアレだ。男としての理由が無くなれば絶望して大人しくなるだろうということらしい。絶望する以前に出血多量で死ぬだろと思ったが、わざと命を繋いで絶望させるらしいのだ。とことん心を折る方向らしい。


「あーっ!? ボウヤがむにむにしてる。ねぇ、お願い聞いてあげたのだから私にも――」

「ステラはどうなったんだ?」

「原因は取り除いてあげたわよ? でもそうね、芽生えてしまったものは置いておいたわ。私色欲の魔神だし、目覚めちゃった子がおろおろするのを見るのは好きなの」

 嫌な趣味だ……つまり興奮は治まったがその感覚自体は覚えてしまったという事なんだろうか? ……食に貪欲になったのを考えると少し心配だな。

「にしてもその言い方だと性欲自体も取り除けるみたいな感じだな」

「そりゃ出来るわよ。それを使って夫を不能者にして妻を別の男の所へ~、とかよく遊んだもの」

「アスモマイナス二百です」

「なんでっ!? ちょ、ちょっと待ってよリオぉ、これ以上マイナスされたらゼロに戻るだけで何年掛かるか。趣味は止めたって言ったでしょ、今の趣味は子供達と遊ぶことなんだからぁ、マイナス取り消してよぉ」

「アスモデウス、取り消すどころかプラスにしてやろうか?」

「っ! そ、それってボウヤが受け入れてくれるってこと!?」

「耳貸せ」

 ゴニョゴニョっと今考えた作戦を伝えるとアスモデウスはにやけ顔になった。果たしてこの表情の理由は報酬への喜びか、それともこれから出る被害者への嘲笑か。


「よく集まったゴミ共、お前ら休む間もなくひっきりなしに俺の身内を狙いやがって……だがもうそれも終わりだ。いいか? 終わらせる前に一言言っておくぞ。ここに居るロリは全部俺のだ! 誰一人渡しゃしねぇ!」

 何言ってるんだと嫁全員呆れてるが構わない、嫁も娘もやっと取り戻した大切な存在だ。奪う事など許さない。

「へっ! そんな事言うために集めたのかよ。そんなん――」

「本題はここからだ。俺の隣に居るこのアスモデウス、こいつは性欲の魔神だ」

「ちっがうわよ! 色欲よ、色欲!」

「似たようなものだろ」

「違いますぅ~、性欲だと直接的過ぎて品がなくて嫌なのよ」

「なんでもいいよ……とにかく! アスモデウスはお前らの欲望を操作出来る。つまりだ、お前らの趣味嗜好を変えることも可能だ」

 集まった者達で察しのいい者は顔を引き攣らせるか逃げ出そうとしてアマゾネスに阻まれている。


「つまりね、あなた達の身体が反応する相手をババアかオカマかデブか醜女に変えようということなのよ。あぁ安心して? 心の方の好みはそのままにしてあげる。でも決して反応しなくなるけど、ふふふふふ、望まない相手にしか反応出来ないって面白いわよねぇ」

 我ながら凄い案だ……でもこれで今後この問題は解決だろう。アスモデウスが働けば働いた分だけプラスにするという条件付きだが、娘の安全の為なら安かろう。自由に動けないってので娘達はみんな不満そうだったしこれで少しはマシになるだろう。

「あ、ちなみに男の娘はオカマに含めないから、小さい男の娘で誤魔化そうと考えても無理よ?」

 この日クリミナルからは深夜までロリコンたちの切ない嘆きが響き続けていた。


 翌日、調子が戻ったというステラに実験生物への対策の相談をしようと思ったのだが……アスモデウスに何か吹き込まれたのかぽ~っとこちら見つめては頬を薄く染めてそっぽを向くを繰り返していて話が進まない。

 おまけにお嫁様方が超睨んできて居心地が悪い。

「ステラ、他の神龍への連絡って行ってるのか? ちゃんと対処されてるのか? あと昨日のあれって飼えるか?」

「旦那様まだ諦めてなかったのじゃ…………」

 当然、発生したものはアスモデウスが対処出来るが予防となるとあの生物の方がいいだろう。


「対処……そうですね…………根本的な解決にはなりませんが守りを固めるという事で鉱物の生成施設に行こうかと思っています。生物の研究施設内に存在していた実験段階のものは管理の都合上それぞれに忌避する物が設定されています。ですので対応した物を生成し人の居住区に設置すればとりあえずの安全は確保出来るかと」

 やめて、そんな初めての感情に戸惑う少女の可愛い顔でちらちらこっちを見ないでくれ。お嫁様が怒ってるから! 特にクーニャは俺だけの神龍という立場が危ういと思ってか全身で威嚇してるから!

 というかつねらないでもらえませんかねぇ……俺は何もしてないでしょうが………。


「いやぁ、惧瀞が居るのにも驚いたけど如月さんのロリ運には脱帽っす。しかもロリドラ……白い肌に漆黒の髪と露出控え目のドレス……クーニャちゃんとは対照的なのがまた良いですよねぇ、あぁ~俺もロリ運上がらないかなぁ」

「姉さんへの報告事案一つ――」

「うえぇっ!? タンマタンマ! 別に浮気したいとは言ってないって、ただこう、ロリに囲まれて癒されたいのよ」

 ソレイユと結婚してドワーフの国に居るんだから一応ロリには囲まれているだろうに……西野さんは今問屋のような仕事をしているらしい。主に扱うのは勿論ドワーフ製の商品らしいが、人間の発想にドワーフ達が興味を持ったりで地元でも需要が高まっている事もあってここに買い付けに来る事もあるそうな。

 ドワーフロリと結婚しているが故にここの職人たちの態度は厳しいらしいが……帰ると二人の娘が迎えてくれるから疲れも吹っ飛ぶと自慢されてしまった。うちの娘の方が絶対に可愛いがな!


「そういや遠藤とか宮園さんも結婚したんですよね? 上手く行ってるんです?」

「宮園は必死こいて身体鍛えたり健康法の研究をしたりしてるっすよ。やっぱ相手がアマゾネスだと相手が出来なくなったら愛想尽かされそうってのがあるみたいっすねぇ。遠藤は自衛隊の戦闘術を教える教官とか後はミアちゃんの実家の雑貨屋の手伝いとかしてますよ。娘と息子一人ずつで結構良いパパ――というか親バカしてますよ。惧瀞への昔の想いはもう全く引き摺ってないですね。たまにしか会わないっすけどみんな元気にやってますよ。それより結城はどうっすか? あいつは帰ったからどうなったのかなぁと、惧瀞こっちに来ちゃってるし」

「私と結城さんは関係ないですよね?」

 未だに分かっていないのは本人だけだろうな。綾さんが俺に寄り添うようになってからも色々とアプローチはしてたみたいだった。邪魔をしても悪いと一時期綾さんを遠ざけようともしてみたが自棄になっていると勘違いされて逆効果だったりした。

 結局長い間人の恋路を気遣う余裕もなくて綾さんに縋っているうちに疎遠になった。

 ただ、結城さんの能力は便利過ぎる。どんどん出世してかなりの重要人物として扱われていたはずだ。


「まっ、惧瀞がこっちに居る以上上手くはいかなかったって事っすね。如月さんいつか女絡みで刺されそうじゃないっすか? 普通の人間なんかじゃ殺せそうにないっすけどね」

「兄さんいつまで無駄口叩いてるんだ? 買い付けに来たんだろ? 日向と朝陽が待ってるんだろ? それに長く空けると姉さんに疑われるぞ?」

 リュン子が冗談めかして脅かすと本気と取ったのか西野さんは慌てて街へ出掛けて行った。


 数日の滞在を終えて俺たちは次の土地を目指す。リルは多少不満そうだが流石に娘たちもクリミナルの男達の異常さには気付いているので町を離れる事にほっとしている部分もあるようだ。

「それでステラ、次の目的地は?」

「あなた方も同道するのですか? ……正直施設内に入れるのは問題があるのですが……で、でもそうですね、一緒に旅というのも悪くないです」

 今確実にステラは食欲に負けた! だってリオクロシロの順に見てもじもじしてるもの、料理の味を思い出して恍惚としてるもの!

「目指すのは南の大陸です。そこに大きな滝があるのですがそこに――」

『水晶の傘!』

 旅行先の候補として上がっていたのに古代の遺跡の可能性があるからと敬遠されていた場所があがった事で娘たちは元気を取り戻したようだ。

 天明に会おうとも思っていたし次の目的地がドラウトというのは都合がいいかもしれない。


 対策は急ぐべきという理由からのんびりとした移動を止めて陣を使ってドラウトまで移動してそこからクーニャに乗せてもらって移動をする。

 移動中ステラはクーニャの顕現した姿に感心したようで部分顕現してクーニャの周りを飛びながら観察を繰り返していた。


「なんじゃこりゃ!?」

 巨大な河が丸く窪んだ大地に呑み込まれている。飛沫による霧でよく確認できないが窪みの中心部分に何かがある。

「これ、町なんですよね? どうやって入るんですか? 危険な方法であれば私やクロエ様には難しいと思うのですが……」

「ええっと……たしか滝から少し下った所に洞窟があってそれが地下を通じて水晶の傘の内部まで繋がっていると聞いていたんでいたんですけど……霧――凄いですね…………」

 シロが不安げにエルスィに尋ねると彼は地図を広げて顔をしかめている。

 普段からなのか今日はたまたまなのか霧が濃い、それが下流の方へと流れている。


 下流の川縁へと降り立ったものの霧が濃すぎて案内板のようなものを探す事も出来そうにない状態だ。

「下手すると足を滑らせて河に転落しちゃいそうね。観光地化しているならもっと分かりやすくするべきよ」

 娘たちの安全の為かティナが周囲を見回してぼやいている。

 そんなティナの不満を無視して霧の中をずんずん先に進み始める神龍様が一人……なるほど、水晶の傘が遺跡関連のものならステラは入り方を知っていても不思議じゃない――そう納得しかけたところでステラが滑って河へと落ちたんですけど……神龍って泳げないんだなぁ。沈んでいって浮いて来ないんだけど――。

「とかやってる場合じゃない!」

 慌てて河に飛び込もうとした俺をフィオが腕を掴んで引き留めた。

「フィオ、今はやきもち焼いてる場合じゃ――」

「ワタルはもっと私たちを信頼してもいいのに。ワタルがどういう人かちゃんと理解してる、大切にしたいものも分かってる。離れてる間に忘れたの? 私たちだって守れる、フィアたちだってちゃんと強いよ? それにレヴィがもう行った。ワタルだけが頑張らなくていいんだよ? こういうのはレヴィかティナに任せるのがいい」

 フィオが言い終わると同時にレヴィがびしょ濡れのステラを抱えて戻ってきた。


「よくよく考えれば――顕現すればなんの問題もなかったんじゃないですか?」

 レヴィがステラを下ろすと彼女は大量の水を吐いている。やっぱり泳げないのか……まぁ水龍じゃないし陸か空にしか行った事がないんだろう。

「み、水の中というのはああも動き辛いものなのでしたか……顕現する余裕がありませんでした」

 身体は丈夫なはずだろうが、よほどのパニックだったようだ。

「ほらね? だからね……もっと構って? もう大丈夫、レヴィも敵じゃない。私たちももう油断しない、だからずっとみんなじゃなくてもいいでしょう?」

 拗ねた表情、俺の手を取り少しだけ頬を染めて見上げてくる瞳は全てを見透かしているようだった。

 家族と離れるのが怖かった……またあんな事になってしまったらと、だから極力大勢で居ることを無意識に選択していた。と離れて二人きりになるとかも怖かったんだ。そんな心を理解して甘えん坊のフィオが二人きりになりたいとも言って来なかったらしい。

 まぁ限界になって今本音が出たけど。


「あーあ、ぶっちゃけちゃってもう……困った長女ね。ワタルの方には惧瀞しか居なくて寂しかったんだろうからもう少し落ち着いて慣れるまで待ちなさいよ」

 アリスはため息を吐いて呆れている風を装いながら然り気無くフィオとは反対の位置に来て手を握っている。どうやらアリスも我慢が崩壊しそうらしい。

「タイム、ターイム! フィオもアリスも自分の容姿活用し過ぎでしょ、小さい補正でワタルが特に甘くなるの分かっててそういう抜け駆けは無しよ!」

 一人が本音を言って崩れてしまえばあとはドミノ倒しの如く不満が漏れ始めた。

 この家族の形を気に入って許容していても独占欲はもちろんあると高らかにティナに宣言されてこんな霧の中で嫁会議が始まってしまった。


 協議の結果、母親とその娘との三人きりの時間を作る事が決まった。それを毎日一組ずつ交代していって一周したら順番を決め直すらしい。ちなみに綾さんはレヴィとセットという事に落ち着いたようだ。アスモデウスは自分が入っていないとぶーぶー言っているが当然まだ放置で確定した。


「あ、あの~……進みませんか? この霧は冷たいですし長時間居ると普通の人間には良くないと思いますが」

 水を吐き出し、ナハトに服を乾かしてもらったステラがトコトコっと歩み寄ってくるのがまた愛らしく……ほっこりしながら次の施設にもロリドラが居るんだろうか思いを馳せているとクーニャからドラゴンパンチを頂戴する事になってしまった。

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