もう逃がさない
「なんでお前がこんな所に居るだ!?」
部屋の入り口にはリオと手を繋いだワタルが居た。凄く驚いた顔をしてる、私が捕まえに来たと思ってる? やっと会えたんだからそんな顔しないでほしい。
「やっと来たんだ。遅すぎる」
ずっと待ってて苦しかった。
「そ~にゃんれすよ! やっと来てくれたんれす!」
リオ、やっぱり酔っ払ってる……言葉が変になって顔もトロンとしてる。
「全然来ないから、もう野垂れ死にしたのか、リオの嘘だと思ってた」
本当に不安だった。もう会えないのかもしれないと思ったら胸が痛くて、苦しくて……でもいい、会えた。痛いのも苦しいのも消えていってる。ワタルが消した。
「酷いれすね~、わらし嘘にゃんて吐きましぇんよ!」
うん。リオの言った通りにこの町で待ってて良かった。これで一緒に居られる。私は嬉しいのに、ワタルは困った顔をしてる、私が一緒に居るの迷惑…………?
「ふぁ~ぁ、なんだか眠いれす、もう寝ましゅ」
「リオ寝るんなら手ぇ離して」
リオがベッドにワタルを引っ張って来ようとしてる。
「らぁ~め~、わたりゅも一緒に寝るんれすよ~」
ワタルも一緒…………? 心臓が煩くなった。なに、これ? リオと一緒の時はこんなのならなかったのに、なんで急にこんな――。
「いっだだだだだだだ! 痛い! 痛い! リオ痛いって!」
痛い? リオの、普通の人間の力なのに? 怪我が治ってない? ……違う、あっちの手は折れた方じゃない。ワタル、弱くなった?
「らって捕まえておかなきゃわたりゅがどこかに行っちゃう…………」
っ!? それはダメ!
「行かない、とりあえずしばらくはこの町かその付近に居るから!」
本当に? …………なに焦ってたんだろう、もう見つけたんだからワタルがどこに行っても付いて行けばいいだけなのに。
「にゃら一緒に寝ましょ~ね~」
「い!?」
リオがワタルを引っ張って、抱き締めながらベッドに倒れ込んで来た。ワタルはリオの胸に顔をうずめてて頭を撫でられてる。なんか、嬉しそう? …………変な感じ、むかむかする。リオを取られたような、ワタルを取られたような…………落ち着かない。
「あん! わたりゅ~動くとくしゅぐったいれすよ~」
「っ!?」
「女に興味ないって言ってたのに」
リオの柔らかい胸でもぞもぞしてる…………う~、ワタルも他の男と同じ?
「そんな事どうでもいいから助けろ」
「なんで? 嬉しいんじゃないの?」
今も顔が少し嬉しそう、リオの胸は気持ちいいから少し分かるけど、むかむかする。
「なんでもいいから助けろよ!」
「はぁ~」
まぁ、いいか。離れるって言ってるんだし。
「やぁ~あ! このまま寝るんれす! 反対側が空いてるんだからフィオちゃんは反対側で寝てくらしゃい!」
リオの手をワタルから剥がそうとしたら振り払われた。
「…………わかった」
「お前助けてくれるんじゃなかったのか?」
「酔っぱらいの相手は面倒だからしたくない、普通の人間は私が殴ったりしたら死んじゃうし、だから私ももう寝る」
リオがワタルと一緒に寝てるのはむかむかするから私も一緒に寝る事にした。さっき起きたばかりで眠くはないけど、ワタルとリオが一緒ならもう一度寝てみるのもいい。
「なんでお前まで抱き付いとんじゃー」
「なにか抱きしめてるとよく寝れ――すぴ~」
「おい? フィオ? 起きてるよな?」
「…………」
起きてる。でも普通に抱き付くのはなんか……恥ずかしい、だから寝たふり。
リオは寝たみたいだけど、ワタルはまだ起きてて、もぞもぞしてリオの腕を解いて逃げようとしてる。今度は私の腕……逃がさない、私もリオもずっと待ってて会いたかったのに逃げるのは許さない。少し抱き締めてる腕に力を入れて、ワタルじゃ解けない様にする。
「ん~ん」
寝てるのにリオもワタルを捕まえた。これなら絶対に逃げられない。
ワタルの匂い…………リオとは違うけど、安心する。やっと会えた大事な人、ワタルとリオが居てくれたら他のものは何もいらない。
「寝るか…………」
あれからもずっともぞもぞと逃げようとしてたけど、外が明るくなってきたのを見てようやく寝る気になったみたい。私も眠くなってきてたから丁度いい……ワタルも温かい、リオと違って柔らかくはないけど、一緒に居るのは嬉しい。もう二度と失くしたくない大事なもの。
「お~い、起きろ~、子供は普通早起きだろ~」
ワタル、もう起きた? ワタルがなかなか眠らなかったから私はまだまだ眠いのに、それに子供じゃない…………頬を突かれてる。まだ眠いから邪魔しないで。
「う~ん~、ふっ!」
「ぐはっ! いっだだだだだだだ! 背骨! 背骨がぁああああ!」
「う~、うる、さい!」
まだ寝てたいのになんで邪魔するの?
「痛いって! 背骨が折れる! 折れる! 背骨が折れて死ぬ! こぉの! 止めろ!」
「っ!?」
ワタルが叫んだのと同時に全身がビリッってなった。
「今のなに? ワタルがやったの?」
「ま、まぁ落ち着け、そしてナイフを下ろせ、グミ遣るから」
ナイフ……無意識に構えてた。攻撃を受けたと思ったから身体が勝手に反応したんだ。
「グミってなに?」
グミ……前に聞いた…………? 聞いた気がする、いつ?
「前に遣った菓子だよ、もう無くなってるんじゃないのか?」
「! もう無い、またくれるの?」
「ああ、まだ残ってるし、だからナイフを下ろせ、怖い」
怖がられるのはダメ、嫌われるのもイヤ。
「ん」
ナイフを置いてワタルの所に行こうとしたら、また子供って馬鹿にされてる気がしてナイフを取りに戻った。
「待てマテまて! ナイフを取りに行くな! グミ遣らんぞ」
…………グミは欲しいけど……子供って思われるのはワタルやリオでも嫌、もう十八で成人してるのに……確かに他より少し小さいし、胸も…………胸はリオが大きすぎるだけ、私は少し小さいだけで大人!
「あったぞ! ほれ」
ワタルが荷物をひっくり返してグミを探して、箱ごと投げて渡してくれた。
「また箱ごとくれるの?」
「ああ、その代わりに俺の質問に答えろ」
「質問って?」
私が知ってる事ならなんでも答える。
「なんでお前がリオと一緒に居るんだ? 近くにヴァイス達も居るのか? 次はこの町を襲う気なのか?」
私を睨んでる。そんな顔してほしくないのに。
「そんなに警戒しても何もないよ。私は盗賊抜けてきたから、ヴァイス達なら隠れ家に居るはず。次にどこを襲う気でいるのかはしらないけど、ここは大きい町だから難しいと思う」
まだ睨んでる……信じてくれないの? 嘘じゃないのに。
「疑うのは自由、でも事実、リオと一緒に居るのは旅の途中で拾って、目的が一緒だったから一緒に居ただけ」
今はワタルと同じで一緒に居たい人だけど。
「目的ってなんだよ? それになんでリオは自分の町を襲ったお前と一緒に居るんだ? 普通そんなの耐えられないだろ?」
「私があの町で誰も殺してないって言ったら信じてくれた。目的は…………ん」
私の目的はワタルだけ、ワタルが居なくなってからずっとそれだけだった。
「ん、ってなんだよ? なんで俺を指差す?」
「目的はワタルに会う事、だからもう達成された」
「って、ちょっと待て、お前に初めて会った時にお前が持ってた剣が血で汚れてたぞ、殺してないなんて嘘じゃないのか? それになんでお前が俺に会いたかったんだよ? 盗賊抜けたなら異界者も覚醒者も必要ないだろ? まさかグミ欲しさに捜してたのか?」
必要、必要に決まってる。ワタルが居なくなったせいであんなに苦しかった、だからワタルが居ないと駄目……今はリオも居ないと駄目かもしれないけど。
剣の血……そんな事ワタルは覚えてるんだ。私はよく覚えてないのに、変なの。
「剣は適当に落ちてるの拾ってきただけ、私は普段ナイフしか使わない」
考え込んでる……嘘じゃないのに、ナイフ以外も使えるけど、これが一番使い易くて好き。
「それで、捜してた理由は?」
そんなの簡単。
「面白いから」
ワタルは私の退屈を変えてくれる人、だから一緒に居たいって思って当然、それに苦しくて痛いの、消したかった。
「面白いって何が?」
「ワタルが、だから興味が湧いた、一緒に居てみたいって思った。リオが、ワタルは帰る方法を探すかもって言ってたのもワタルを捜してた理由の一つ、ワタルと一緒に居たら別の世界を見られるかもしれない、私の目的はこんな感じ。もう食べてもいい?」
「あぁ、どうぞ」
また考え込んでる。リオは私が言った事すぐに信じてくれるのに、なんでワタルは信じてくれないの?
「なんで俺なんだ? 異界者ならわざわざ俺を捜さなくてもツチヤが居ただろ? それに他のやつだって見た事あるんだろ?」
ワタルとツチヤは全然違うっ!
「ツチヤも他の異界者もみんなヴァイス達と大して変わらない、ワタルだけが違った。誰かの為に死ぬ様な事をして、誰かの無事が嬉しくて泣いてた。ワタルの世界はそんな人が多いんでしょ? だから見てみたい」
「それは俺の旅に付いて来るって事か?」
「そう、付いて行く。私は役に立つと思う」
ワタルはすぐに危ない事をしそうだから私が一緒に居た方が安全、何かあっても傍に居たら護ってあげられる…………護る? 誰かを護りたいなんて考えたのは初めてかもしれない。また初めて、やっぱりワタルとリオは特別。
「あ~、でも付いて来るなら無闇な暴力とか人殺しは無しにしてくれよ。じゃないと同行は拒否だ」
「拒否しても勝手に付いて行く」
人殺しは良くないって言ってたからやらない様にするけど、暴力は必要。異界者も混ざり者も酷い目に遭うんだから、身を護る為にも、ワタルとリオを護る為にも絶対に必要な事。
「…………俺は捕まってた時と違って少しは強くなってるからフィオの動きを一時的に止めてその間に逃げる事も出来るんだぞ?」
ワタルの腕が光ってバチバチいってる。これが出来るからそんな強気な事を言うの? さっきのビリッっとするくらいの威力じゃ私を止めるなんて出来るはずないのに、少しびっくりするくらいでしかない。
「覚醒者になったんだ? さっきビリッってしたのはそれ? あれくらいなら全然我慢出来る」
「そんなわけないだろ、起こす為だけに全力を使うはずないだろ。落雷は見た事あるか? それと同程度かそれ以上の事が出来る。それに、日本が見たいんだろ? 帰る方法を見つけても物騒なやつは連れて行けないぞ?」
落雷……あの煩いやつ、あれと同じ……当たったら危ないかもしれないけど、避ければいい。でも、ワタルが私と一緒に居るのが嫌って思ったりしたら…………それは嫌。
「どういう時ならいいの?」
「どういうってそんなの――あ~…………」
凄く困った顔をされた。ちょっと面白いけど、そういう顔より嬉しそうにしてる時とかの顔の方が良い。
「…………もう面倒だから、いい時はいいって言って」
「俺が許可しなかったら暴力も殺人もしないって事か?」
「うん、それならいいでしょ?」
これならワタルは困らないし私も付いて行って問題ないはず。
「本当に俺が許可しなかったらやらないんだろうな?」
「うん、心配なら武器はワタルが持っててもいい」
いざとなったら蹴りでも手刀でも使ってどうにかするし、相手から奪えばいいだけだから手元に武器が無くても問題ない。
「わかった。武器は自分で持ってていい、ただし! 約束破ったらその時点で一緒に旅はしない」
「それでいい」
付いて行くのを許してくれた。これで一緒に居られる。
くきゅぅるる~。
ワタルのお腹が鳴った。ちょっと、かわいい?
「腹減ったな、食事ってどうしてるんだ?」
「リオが買って来てくれた物を食べてた、今は無いけど」
「外で食べたりしないのか?」
「面倒だから出ない」
私が出歩いて兵士に見られると、ここに居られなくなるかもしれなかったし、リオも酷い目に遭うかもしれなかったからあまり出ない方がよかったから仕方ない。
「リオの様子見を兼ねて食べに出るけどフィオはどうする?」
リオが戻るまで待っててもいいんだけど……リオと一緒に出掛けたのは悪くなかった。ワタルと出かけるのも楽しいかもしれない。
「行く」
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