ピンク嫌い

 ワタルを捜す為に、あれから色んな場所を捜し歩いた。村では異界者の情報を聴いて、町では捕まってるかもしれないからまず町にある牢を確認した後に情報を聴いた。近くに収容所があれば忍び込んでそこも調べた。それでもワタルは見つからない。もう死んでるかもしれない、そう考えると胸が痛い。それは嫌…………ワタルは運が良い、混ざり者と戦って目的を果たした上に生き残った。簡単に死んだりしない。

 南と東は殆ど探した。これ以上先に行ってもワタルの足じゃそんな所までは行ってないはず、後は北と西、今日中に別の町に行って情報を集めたい。


「最近この辺りで盗賊の噂なんかは聞いてないか?」

「いや~、この辺ではさっぱりですね。ここはデカい町ですし、混ざり者の盗賊でも簡単には襲えんのでしょう。騎士さんはこの辺じゃ見かけない顔ですね、どっから来たんで?」

「帝都だ。いい加減奴らの好き勝手にさせておくわけにはいかんのでな、奴等の居場所を探すのと御守だ。まぁ探すのはあいつの仕事でもあるんだがな」

「御守?」

「あぁ、超兵を単独で行動させるのは問題があるからな。まったく、あんなのの御守をさせられるのは面倒で敵わんよ」

「ああ~、そりゃあ大変ですな。よかったらこれどうぞ、売れ残りで申し訳ないですが」

「これが売れ残りなのか? 美味そうなパンだと思うが」

「今日は客足が悪いようで、いつもはちゃんと売れるんですけどねぇ。まぁ盗賊を退治してくださる騎士さんに食べてもらえるならありがたい事です」

 超兵? この町に来てるの? なら早く出た方が良い。あの兵士が帝都から来てるなら私を知っていたりするかもしれない。人間なんて問題無いけど、騒ぎになって追いかけられたりしたらワタルを捜すのが難しくなる。

 邪魔なら殺せばいいけど、盗賊を辞めた方が良いって言った時に殺すのも良くないって言ってた。殺したら怖がられたり嫌われるかもしれない……それは嫌、早く出よう。


「見つけたーっ!」

「っ!」

 町の出口までもう少しの所で家の屋根から大鎌を持ったピンク色がそれを振り下ろしてきた。目が紅い、超兵に見つかった。それにしても……全身ピンク、髪も、フリフリが付いた服もピンク…………変なの。

「見つけた。漸く見つけた、フィオ・ソリチュード!」

「誰?」

「私よっ!」

 誰? …………分からない、盗賊をやってた時の混ざり者の名前だって覚えてないのに、軍に居た頃のなんて絶対に覚えてない…………違う、無駄だから覚えなかった。みんなすぐに居なくなる、覚えてもすぐに入れ替わる、意味が無かった。

「誰?」

「っ! ほ、本当に覚えてないの?」

 困った顔になった。でも――。

「知らない、私は用があるから行く」

 どうせ私に付いて来れない。そう思って脇を走り抜けようとしたら、大振りの横薙ぎで道を塞がれた。跳んで避けたけど、普通の混ざり者より速かった。たぶんヴァイスよりも速い、こんなの居た?

「せっかく見つけたのに、逃がすわけないでしょ! 大体、私を覚えてないってどういう事!」

「知らないものは知らない」

 めんどくさい、なんで怒ってるの?

「っ! 私よ、アリス・モナクスィア!」

「知らない」

 覚える気がなかったんだから名前を言われても知ってるはずない。

「~っ!? 散散あなたの訓練相手をしてあげてたでしょ!」

 訓練? それならみんな殺してたから生きてるはずない、変なの…………死んだのを生き返らせる覚醒者が居るの? ……でも変、死ぬような混ざり者どうぐを生き返らせるなんて無駄だからしない。生き残り…………? 居た? ……覚えてない、訓練なんて息をするのと同じくらいに当たり前の事だった、目の前に居るのを壊して終わるただの作業、一々相手の事なんて見てない。

「?」

「何よその不思議そうな顔は! お、思い出しなさいよ! アリス・モナクスィアよ! 知ってるはずでしょ! あれだけ戦ってたのよ? 覚えてないとかおかしいじゃない!」

 怒って大鎌を振り回してくる。避けられるけど、速い……普通の混ざり者相手なら十分に圧倒出来るだけの速さがある。でも動きが直線的過ぎて軌道が読める、これなら風の流れと気配だけで目を瞑っていても避けられる。

 無茶苦茶に振り回してるから周囲の物を壊されて、人間が騒いでる。こんなのの相手なんかしてられない、私の大事な目的…………邪魔するのは許さない。

「なぁっ!? ナイフで私の鎌を止めるの!?」

 大振りの速い一撃を鎌の刃の根本にナイフを当てて止めた。

「邪魔しないで……出来れば、殺したくない」

「はぁっ!? あれだけ散散同族を殺しまくってたのに今更何言ってるの?」

 好きでやってたんじゃない、私を知ってるなら強制だったの知らないの?

「アリスなにやってる! 町の中で暴れるなんて何考えてるんだこの馬鹿!」

「っ!? あんたのせいで怒られちゃったじゃない!」

 私は関係ない、ピンクが勝手に暴れた。

「知らない」

 ピンクを跳び越えて出口に走る。早く離れないと、情報が回ると他の町や村に入りにくくなる。それだとワタルが捜せない…………そんなの嫌!

「待ちなさい!」

「お前が待てっ!」

 ピンクが命令を無視して付いて来る。そんな事したら後で処罰されるのに、変なの……あんなの居た? …………やっぱり分からない。


 随分速く走ってるのにまだ付いて来る。

 こっちは南だからもう捜した方角でこれ以上先に行っても意味が無いのに……早く撒いて戻らないと。

「いい加減に止まりなさーい! 止まって私と戦えー!」

 止まれって言われて止まったらその人は馬鹿だと思う。

「そんな暇無い」

 適当に砂や石を拾って投げた。石は鎌で弾かれた。

「ぶふぅーっ、ぺっぺっ、口に入ったじゃないのよ! フィオのばか~! じゃりじゃりするぅ~、もう! いい加減に止まれー!」

 っ! 投げナイフ、狙いは正確、私とその避ける先にも投げてる。でもこれじゃ私に当てられない。

「返す」

 飛んできた二本を掴んで投げ返した。

「うぴゃぁ!? あなた顔を狙うとか何考えてるのよっ! 私は結構可愛い顔なのに傷が出来たらどうすんのよーっ!」

 変な動きしたから顔に当たりそうになっただけ、私が狙ったのは鎌。


 まだ付いて来る。しつこい…………ピンク嫌い。

 前に山が見える。あそこで撒こう。一気に加速して山の中に入って木々の間を縫う様に移動して姿を追い辛くする。まだ来てるけど、距離が離れ始めてる、このまま離して山を抜けた後に山を迂回して行きたい方角に戻る!

「ま、待てこらーっ! 待ちなさーい! フィオー!」

 待つはずない、ピンクには用事無い。

「こぉんのぉ、待てー!」

 っ!? 今度は鎌を投げて来た。木を薙ぎ倒しながら飛んでくる鎌を岩陰に隠れてやり過ごして全速力で山を駆け抜けた。なんでピンクはあんなに私に拘るの? 任務だから? …………違う、任務なら命令が最優先、あのピンクは命令を無視した。だから自分の意志で私を追いかけて来てる、意味が分からない。

 山を抜けた。ピンクの姿も見えない。このまま山を迂回して戻る。ピンクは勝手にこのまま南に行くはず、もう会わなくて済む。面倒だった…………ピンク嫌い、もう会いたくない。


「今日中に別の町に行くつもりだったのに…………」

 あの後山を迂回してたら途中でピンクが出て来て迂回が無駄になった。それからも何度か撒こうとしたけど、その度に追い付いてきて上手くいかなくて、結局戦って武器を破壊して使えなくしていった。鎌以外にも剣二本、鉄甲、痺れ薬の付いた針、戦い方が豊富で面倒だった。鎌を壊して剣を折って、鉄甲と針は躱して後ろを取って気絶させた。

 最初からこうしてればよかった、ワタルが殺さない方が良いって言ったから攻撃するのも避けてた。混ざり者が相手でも私がやると簡単に死んじゃうから…………ワタルが悪い、見つけたらいっぱい楽しいを貰う。だから――。

「早く会いたい」

 そしたらこの胸の痛みも消えるはずだから。

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