約束

「ねぇ、本当に雷でこの玉飛ぶの?」

 さっき届けに来たミスリル玉を見ながら美空が聞いてくる。

「鉄では飛んだし、たぶん飛ぶだろ。いっつも思ってたけどお前たち俺に付いて来て楽しいのか? 電撃をバンバン撃ってるのを見てるだけって凄く暇そうに思えるんだが」

 朝食が済んだ頃に美空がミスリル玉を届けに来て、廃坑に向かう俺に美緒と美空が付いて来て、その途中で愛衣に会ってそのまま合流して四人で廃坑に来ている。

「う~ん、最初は珍しくて雷も見てて楽しかったですけど、今は見慣れちゃってあまり楽しくないですね。お兄さん他に出来る事は無いんですか?」

 痛いところを突かれた。俺だって他の使い方が出来ないか考えてはみたけど、思いついたものは今のところ微妙な結果に終わっている。

「考えてはいるけど、どれもイマイチだな」

 勉強してれば何かもっと思いつけるのかもしれないけど、今は何も思いつかん。勉強、してればよかったなぁ…………。

「どんなことを考えてたんですか?」

「身体に電気を流して身体能力の向上と、今からやりに行く金属の玉を飛ばす事かな。身体能力向上は出来るにはできたけど、その後身体を痛めるから実用的じゃない。玉を飛ばすのも鉄でやったら鉄が溶けて上手くいかなかった」

「ふ~ん、じゃあ結局雷出すしか出来ないんだ?」

 グサグサくるね…………。

「電撃しか出来なくても別にいいんだよ! スマホの充電と敵を気絶させる事さえ出来れば今は特に問題ないんだから」

 美空たちを置いてさっさと先に進む、話してるのが面倒になった。これじゃ良くないのになぁ、嫌な事、面倒な事から逃げるにげ癖が直らない、情けないことだ。


「こっちじゃないの~? 今までこっちだったでしょ」

「そっちは昨日ミスリルの鉱床ってのが見つかったから使えない、別の行き止まりで試す」

 今まで使っていた通路とは別の通路を進んでいく。鉱床に撃ち込んでもし成功した場合鉱床を滅茶苦茶にしてしまうかもしれないから今まで使ってた場所は避けないと。

 これ道どうなってるんだ? 適当に歩いてたから自分がどこに居るのか分からなくなってた。

「もー! 航一人で勝手に進んで迷ってもしらないよ」

「もう迷ったよ…………」

『ぷふふぅ、あはははははは』

 三人に笑われてしまった。美空なんか指差してくるし。

「ぷぷ、大人のくせに迷子って、お兄さん村を出たあと大丈夫ですか?」

「あはっははははははは、くっふぅ、航間抜け過ぎぃーぷぷぷぷふぅ、走るのも遅いし村から出たら兵隊とかに簡単に捕まっちゃうんじゃないの?」

 愛衣と美空、二人にからかわれる。美緒は何も言ってはこないがこちらに背を向けて肩を震わせている。

「あー、はいはい、俺なんてすぐに捕えられる間抜けですよ。道分かるならどこか行き止まりまで案内してくれ、さっさと試してもう一度昨日の確認の為に猪鹿を探すつもりだから」

『…………』

 急に三人が黙ってしまった。もしかしてこいつらも迷ったんじゃあ?


「ねぇお兄さん、出て行くのやめた方がいいんじゃないですか? この国の人は異界者や混血者には酷い事しかしないんですよ? わざわざそんな場所に出て行かなくてもここに居たらいいじゃないですか。反対してる人だってそんなに多いわけじゃないですし、雷が人に当たらない様に気を付けてるの私たち知ってますからそれを説明したら――」

「そうだよ! あたし達が出て行かなくていいようにみんなに頼んであげるからここに居なよ! それに猪鹿を狩ってみんなに配ってるから航の事いい人だって思ってる人もいっぱい居るよ!」

「私も航さんに居て欲しい。私からもおじいちゃんに頼んでみるからずっと村に居て欲しい」

 ああ~、なんだろこの感じ、あっちに居た時は長い引きこもり生活のせいで社会に居場所なんてなかった。居場所を作る事も諦めてた。こっちに来てからは蔑まれて、疎まれて生きている事すら許容されない感じだった。

 それなのにここに居ていいって言ってくれる人がいる。凄くありがたいな、俺はこの娘たちに何かしてあげられてるわけでもないのに、こんな事を言ってもらえて凄く嬉しい。でも決めた事がある、あの時逃げてしまった俺がやらないといけない事が、それをやらないといけない。だからここには居られない…………。


「ありがとう、こんな俺にここに居ていいって言ってくれて嬉しかった。でも俺やりたい事があるからこの村は出るよ」

「なんで? やりたいことって何なの!? 外は危ないんだよ! 国の兵士は混血者や覚醒者も居たりするんだよ! 航が雷出せても、もっと強い力を持ってる奴がいるかもしれないんだよ?」

「その為に力を使う訓練をしてたんだ。やりたい事ってのはあっちの世界に戻る方法を探す事だ」

 報復の事は誰にも言えない。

「やっぱり日本に帰りたいんですか? 航さんはこの村の生活は辛いですか?」

「あ~俺が帰りたいって感じじゃないんだけど、でもまぁ知ってれば便利だろ? ここでの生活は嫌いじゃないよ。毎日温泉に入れるし、田んぼとか畑が多くてばあちゃんの家に来たみたいな感覚だし、虫は苦手だけどな」

 そう、別に俺が帰りたいわけじゃない、あっちに俺の居場所なんてないし、こんな世界でもこの村は安全だし食べ物だって食べ慣れた物もあって過ごしやすい、俺の事をうつ病引きこもりだからって扱いを変える人も居ないしのんびり暮らすならいい所だと思う。でも、帰りたいって言ったんだ。贖わないとっていう罪の意識が見せた妄想かもしれないけど、俺はやらないといけない。

「ならお兄さん、その方法を見つけたらここに戻ってきて、この村で暮らしませんか?」

 田舎の田園風景の中でのんびり隠居暮らし、何もしてこなかった引きこもりには結構な贅沢だな。

「全部終わった後ならそれもいいのかもな。でも今は外に出る為に訓練がしたいんだ、道が分かるなら適当な行き止まりに案内してくれ」

「分かりました。ここに戻ってくるって事忘れないでくださいよ?」

「そうだよ! 絶対戻ってきてよ!」

「私たち待ってますね」

 随分と懐かれたなぁ。こんなのの何が気に入ったのやら、三人とも物好きだな、それも相当の。



「ここでいい?」

 今まで使ってたのと似た様な場所に連れて来てもらった。

「ああ、ここでいい。今から試すから離れて後ろに居ろよ? 火花散ったりするから俺からしっかり離れておけよ」

 さて、ミスリル玉だとどうなるかな? 行き止まりから百メートル位離れた位置で短剣を構える。どうせこれ一個だけだし最大電力でやるか。

「結構音もでかいから気を付けろよ! いくぞ!」

 昨日の電撃程ではないが轟音を響かせながらミスリル玉が発射された。

「!?」

 レールガンを撃った奥で何か崩れる様な音がした。成功して壁でも壊したか? 走って確認に行った。

 さっき見た時はなんともない行き止まりだったのに壁が崩れてそこら中に岩が転がっている。ミスリルだと溶けずに飛ぶのか、思っていた様な結果になって嬉しいけど、玉の確保が無理だよなぁ。

「うわぁ、凄い状態ですね。さっきの小さな玉でこんな事が出来るなんて」

「とりあえず成功だな。玉も無くなったしここでやる事はもうないから帰ろう」

 放った電撃の操作はほぼ完璧だしレールガンをやるには玉がない。昼までまだ時間があるだろうから、もう一度猪鹿で気絶させれるか試したら能力については一先ず完了でいいかな? 残りの日数は剣を振ったり軽い運動でもしてればいいか。

「もう終わりなんですか?」

「ああ、ミスリル玉はあれだけだから、鉄の玉は途中で溶けて使い物にならんからやっても無駄だし、ミスリルなら成功するのかが試したかっただけだからもう終わり。次は猪鹿を探して昨日の復習、帰り道こっちだよな?」

「はい、こっちで合ってます」


「ちょっと待って!」

 用が無くなったからさっさと戻ろうとする俺たちを美空が呼び止めた。

「なに――って崩れたところに行ったら危ないぞ!」

「ここ、ここをランタンで照らして」

「ほれ、これでいいのか?」

 何があるのやら…………また鉱床だったりしてな…………そんなわけないか、そんなにごろごろ鉱床が見つかったらミスリル採り放題じゃん。

「やっぱりミスリルの鉱床だ。今使ってる採掘場でも最近はなかなか採れなくなってるって父さんが言ってたから村の人も喜ぶよ!」

 本当に鉱床かよ!? てか最近はって、今までは結構採れてたのか?

「なぁ、ミスリルって貴重なんじゃないの?」

「貴重ですよ。この国で他に採れる所があっても大量に採れるわけじゃないので高値で取引されてるっておじいちゃんが言ってました」

 じゃあここはどうなんだ? たまたま二日続けて鉱床を見つけたラッキーって事なのか?

「村のあるこの山は昔から結構採れてるんですよ。ご先祖様の力のおかげで村の人以外は迷って上まで登って来れないから村で独占してる状態です。それを売って村にない物を村の外で買う村の資金にしてるんです」

 疑問に思っていたら愛衣が答えをくれた。村の資金…………そんな物で剣を作ってもらうなんてよかったんだろうか? 悪いことをしたんじゃないかと不安になって来た。

「確認できたからもういいよ。帰ろ!」

「あ、ああ…………」



「今日は村の大人に付いて来てもらわなくてよかったんですか?」

「ああ、今日は気絶させるだけで獲らないから必要ない」

『ええぇぇええー』

 美空と愛衣が声をあげた。なんなんだよ、昨日の復習だって言っただろうに。

「なんで獲らないの!? 昨日の復讐するって言ってたじゃん。だから今日はいっぱい獲るんだと思ってたのに!」

「そうですよ! 獲らないと美味しいお肉が食卓に並びませんよ!」

 こいつらが俺に村に居て欲しい理由が肉のためな気がしてきた…………。

「ふくしゅう違いだ! 俺が言ったのは繰り返し練習する方の復習だ! それに今まで結構狩ってるからあんまり獲り過ぎると猪鹿居なくなるぞ?」

「そんなに簡単にいなくならないし、それに数が減った方がいいよ。たまに村に来て田んぼの稲とか畑の物を荒らすから」

「そういえば、この前うちの田んぼと畑が荒らされてたっておばあちゃんが言ってました。お兄さん、村の作物の為にもいっぱい獲ってください!」

 こっちの世界でも似た様な問題があるんだな。じいちゃんばあちゃんが生きてた頃に夜に鹿とか猪が来て畑と田んぼを荒らすって愚痴ってたし…………ん? こっちには肉食の獣が居るよな。日本の場合は鹿とかの外敵が居ないから増えすぎて被害が出てるんじゃなかったっけ?

「肉食の獣が猪鹿を食べたりしないのか?」

 少女の亡骸を喰い漁ってたのが居るはずだ…………。

「リュコクスってのが居るけど、あんまり猪鹿は食べないよ。猪鹿を襲って返り討ちにされて死んでるのを前に見たことがあるし」

 そんなもんなのか…………。

「まぁ今日は狩らない。付いて来てもらってないし、気絶させられるって確認が出来たら戻るつもりだったから」

「じゃあ明日は狩ってよ! 絶対だよ!」

「分かったって、しつこ――」

「航さん、居ました」

 また美緒が見つけてくれた。にしても美緒は猪鹿食べないし解体も嫌なのに見つけるのは美緒が多いな、純粋に手伝ってくれてるって事か?

「ありがと、美緒。今日はすぐ終わりそうで助かった」

 さっそく猪鹿に向けて電撃を撃った。よし! 昨日も思ったけど放った電撃の操作は大丈夫だ。これであとは気絶させられれば能力に関する訓練は一先ず完了。

「よっしゃぁああー、ちゃんと生きてる! 能力の訓練終了~」

 ひと月でどうにかなるのか不安だったけど、どうにかなってよかった。

「終了って、明日からはもう訓練しないんですか?」

「ああ、明日からは剣振ったり走ったり軽い運動かな」


 左腕はどうだろう? まだ動かしたらダメだろうか? 痛みも腫れも引いてきてるからリハビリとかした方がいいか? う~ん、下手に動かして悪化したら馬鹿らしいしもうしばらくは動かさない方がいいか。

「訓練終わったなら明日は遊ぼうよ!」

「いや剣振ったり走ったり運動をするんだって」

 残りの日数的にそんな事しても大した効果は出ないだろうけど、電気刺激を与えながらの運動に淡い期待があるんだけど…………。

「なら木刀での打ち合いとか鬼ごっこなんてどうですか? お兄さんの言ってる事は出来ると思いますよ」

 木刀での打ち合いって…………子供相手に? 鬼ごっこはずっと俺が鬼で終わるだろ、お前たちかなり速いんだから。

「子供相手に木刀で打ち合いなんてしたら危ないだろ、それに俺は軽い運動がしたいんだよ。鬼ごっこだと確実に俺が鬼にされてお前たちを本気で追い回す羽目になるだろ」

「航刀とか使った事あるの?」

 あるはずがない、現代人が包丁以上の刃物を持つ事なんてほぼないはずだ。剣道やってれば竹刀とか木刀は触るだろうけど、これは刃物じゃないし。

「ないない、剣なんてこっちに来て初めて持ったよ」

「ならへーき、へーき、たぶんあたし達の方が航より強いから」

「なんでだよ?」

「平太たちと喧嘩した時に木の枝で叩き合いになった事があって、それからそういう遊びもするようになったから慣れてるんです」

 慣れてるって…………女の子でもそういう遊びするものなのか? 大人しそうな美緒も?

「美緒もそういうのやるの? それとその遊びの勝敗は?」

「私もやりますよ。勝ち負けは……私たちの方が勝ってます」

 マジか、こんなに大人しそうな感じなのに遊びにはアクティブなのな。それに女子の方が勝ってるのかよ!? 鬼ごっこもハードそうだけどチャンバラの方もきつそうなんだが…………。


「じゃあそういう事で! また明日ね~」

「美緒ちゃん、お兄さんまた明日」

「うん、またあした~」

「え、ちょ!」

 俺は了承してないんだけど…………。美空と愛衣が手を振りながら走り去っていく。明日どうしよう? 子供相手にボロ負けは情けない、が子供に本気になるのは大人気ない。一体どうすれば?

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