第35話 ~怒り~

「どうしたんだ? 小雨?」

「いや『どうしたんだ』って。見ればわかるだろ」

「どこをだよ」

「目の前をだよ!」

「……ゴメン。俺には見えない」

「え!?」

 マズイ! これはかなりマズイぞ!

「フッ……」

「……! しまった!」

 隙を与えてしまった為にミンスクが逃げてしまった!

 クソッ! 何処だ!

 私は辺りを見回す。気配は無い。

「朱火、どうやら逃げられてしまったみたいだ」

「クッ!」

 ザグレブの言葉に私は悔しがるしかなかった!

 あともう少しの所だったのに!

「あのさ。そろそろ行かないとマズイぞ」

「そ、そうだな……」

 小雨と一緒にいる男子生徒に言われると小雨は私を見てきた。

 ……お前のせいで!

「ゴメン。先行っててくれ」

「何でだよ」

「その……トイレに行きたくなったからさ」

「そうか。じゃあ先行っているぞ」

「悪いな」

 男子生徒は走って階段の方へ向かって行った。

「あのさ朱火ちゃん」

「……」

 私は小雨に背中を向けた。

 もう怒った! 話したくもない!

「えっと……お知り合いですか?」

「そうだよ。君は朱火ちゃんの友達?」

「はい。桃音といいます」

「俺は小雨。隣にいるのは桃音ちゃんの執事?」

「えっと……」

「桃ねーちゃんはオレのねーちゃん!」

 ティラナが反論してきた。

「あ、そうなんだ」

「あの、小雨さん。どうしてここに?」

「ここは俺が通っている高校なんだよ」

「そ、そうだったんですか!?」

「ああ。それより、ここでなにやっているんだ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「い、いや、その……」

 ビリニュス! 何とか言ってくれ!

「ご、ゴメンなさい!」

 ビリニュスが先に言う前に桃音ちゃんが謝った。

「怪しい人がいたのでソイツを追いかけているのに夢中で、つい」

「ああ。さっき逃げた奴か」

「はい」

「ご、ゴメン! 俺が話し掛けたせいで逃がして」

「い、いえ。小雨さんは知らなかったのですから」

 まぁ、それは仕方がないが。

「……だから怒っているんだね」

 小雨が近づいてきた。

 私の顔を見ようとするが私は逸らす。

「ゴメンね朱火ちゃん!」

「謝ったって遅いですよ」

「知らなかったんだ!」

「……」

 知っているさ! だが許さん!

 ガシッ

「!」

 何と今度は後ろから抱き着いてきた!

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