アルカディアスより来たれし救世王
一人暮らしの大学生「三丁目に住む黒猫ミケ
第1話 地球より飛来し謎
「……ア…………ア……ハ……………アキハ!」
その声を聞いた彼ははっとする。そして、アキハと呼ばれた少年は隣を見る。すると、そこにはメガネをかけた如何にもな青年が立っていた。
「あ、ああ……悪い。ぼー、としてた」
このパッとしない黒髪の少年の名前は、アキハ・666・フジツキという。髪を茶色に染めているもう一人の少年は、タクミ・493・サトウだ。
彼等はこの最先端先進国であるヤーパン共和国の国立特等学校に通っている。二人ともロボット工学を専攻する優秀な学生だ。
「何だよ、また徹夜してたのか?まったく精が出るねぇ」
「ハハ……そういうタクミはまた合コン?」
「ああ、そうだぜ!ロボット工学には女っ気が全く無いからな……この時期しか若い女の子とイチャイチャできないんだ。ガンガン迫って損は無いだろうよ」
タクミはアキハのことを理解できないとでも言うかのように笑う。それに対して、アキハは少し嘘っぽく笑うだけだった。
「まったく……単位が貰えるわけでもないのに何で研究なんかするんだ。女との出会いぐらい俺がマッチングしても良いんだぜ?」
「アハハ、良いよ。それよりも僕はやりたいことがあるんだ」
「まったく……」
だが、彼等は親友でもある。タクミとアキハの間柄は利己的でもあるが、同時に信頼し合ってもいた。例えば、アキハは何故か忘れ物が多い。
――――――――――――
「アキハ!お前、また宿題を忘れたのか!?」
教授が怒鳴る。彼等は国から斡旋された者達であり、ほとんどが軍学校の出身だ。その為、多くの事に対して礼儀を重んじる癖がある。
特に、忘れ物で怒られることが多いアキハに対し、彼等は高圧的だ。だが、――
「教授、申し訳ありません」
タクミが挙手して、教授に謝罪する。そして、鬼の形相の教授はタクミに振り向く。
「何だ、またお前か」
教授は呆れたかのような声を上げる。そう、いつもアキハを叱るとタクミが名乗り出るのだ。
「はい。俺は昨日にアキハ君から勉強を教わったんですが、……その時に彼の宿題を見せて貰い、俺がそれを紛失したんです。だから、俺が悪いんです」
タクミはいつもアキハが怒られるたびに、彼を擁護する発言をするのだ。そして、教授はハーとため息をつく。
「もう言い。お前達二人は後ろで立っとれ」
教授はそう言ってアキハを開放する。そして、彼とタクミは後ろに逃げてコッソリと笑う。
「タクミ、いつもありがとう」
「良いよ良いよ。その代わりなんだが、今度のテスト対策には一丁頼むわ」
「うん、わかった」
忘れ物が多い代わりにアキハは勉強が出来た。昔は教科ごとにブレがあったものの、今は好きな専門学科にいる為に彼のテストはトップだった。
そこが教授に嫌われる要因でもあるのだが、タクミは彼からそこを利用して良好な関係にあった。
――――――――――――
「それで今度は何の研究をしていたんだ?」
タクミがアキハに聞いた。すると、アキハは大興奮した様子で笑顔になりながら高らかな声を上げる。
「ああ!今はロボットに人工知能を持たせられないか考えてたんだ!!!」
「へ~」
タクミは毎日アキハに会うとこの質問をする。
「ほら、今のロボットってほとんどが大規模な量子演算システムの人工知能によって統制されてるだろ!?けどさ、ロボット自身にそれを持たせられたらもっと役立つと思うんだ。もちろん、統括する人工知能自身がそれぞれを操作しても良いんだけど、それじゃあ通信領域内のみに制限されちゃうんだ。だから僕は、……」
「あー分かった分かった」
タクミはめんどくさそうに手を振りながら会話を打ち切る。そして、アキハの笑顔はつまらなさそうな無表情に戻ってしまった。
「あー……そういえば、先月の隕石の話覚えてる?」
タクミは思いついたかのように話し始め、アキハもそれに合わせる。
「ああ……領海に落ちたって奴?まあ、確かに落ちて来た時は光とか凄かったね」
先月、ヤーパン共和国領海内に隕石が飛来したのだ。それは後に回収されたが、UFO等の憶測はメディアで取り上げられたりと話題になっていた。だが、最近になって変な噂も立つようになっている。
「最近ネットで話題になったんだけどさ、あの隕石は何かのロボットらしいぜ?」
「……有り得ないよ。宇宙から飛来したんなら空中分解してるだろうし……普通の石なんじゃないの?」
タクミの噂話にアキハは肩をすくめる。今の時代に、人型ロボットは確かに先進国の間では人気だ。航空機型に変形する欧州連合やロシアン製のロボットからアジアの大量生産型の小型戦闘兵器と様々である。
しかし、それらは軍事運用で宇宙から落とすとなると、必ず母艦が必要だ。
「さーな。でも、何故か国はそれを回収した後に、軍の化学推進班に引き渡したらしいぜ?ただの石コロって訳じゃなさそうなんだよなー」
「ふーん」
そう言いながら、二人は学校に登校する。そして、半日が過ぎ、学校が終わるとアキハはダッシュで駅に向かった。
「ロボット……宇宙から落ちてきたロボットか……もし本当だったらどんな機体なんだろう…………!!」
アキハは特急電車に乗り込み、期待に胸を躍らせながら今日一日いや半日で練った侵入経路を確認する。
朝は彼は興味無さそうな素っ気ない態度を取っていたものの、実は興味深々だったのだ。ロボットに眼中が無いオタク少年と言う称号が相応しいだろう。
アキハは軍施設がある駅に降りる。そして、軍人の監視をかいくぐる為に近くの公共施設へと向かう。
「よし……それじゃあやるか……」
アキハは公共施設の裏側にあるケーブルを繋ぎ、持ってきたノートPCで作業を始める。そして、バレない様にプログラム解析を始め、各所にいる監視員や全体の地図などの情報を漁っていく。しかし、彼はその道中で一つ気になるファイルを発見した。
「シークレット?……これは……いや止めとこう」
アキハはそれを開こうとしたが、下手に触って逆探知されるのを恐れて踏み留まる。そして、引き続き軍施設のどこかに収容されている筈の隕石の場所を調べる。
「いったいどこに……あった!」
そして、幾つか収容場所の目星を着ける。大体2か所だ。だが、その時――
「動くな、少年」
ガチャリとアキハの後頭部に固い何かが当てられた。その瞬間、彼の身体はビクッと震わせる。後ろから発した声は若い男のモノだった。アキハはガタガタと震えながら両手を上げる。
彼はそこそこのプログラミング技術を有していた為、まさかバレる等とは思っていなかったのだ。その反動もあって、彼の心臓はかつてないほど鼓動している。
「君はこんなところで何をしている。見たところ学生のようだな……ここは軍関係者とこの施設職員しか入れない筈だが?」
「え、えっと……」
ガタガタと震えるアキハに銃を向けていても仕方ないと思ったのか、銃を持った男は彼からそれを離した。
「少年、こっちを向け。抵抗しなければ撃つことも無い」
アキハは男の言葉に従い、両手を上げながら後ろに振り返る。すると、そこには若い20代らしき将校がいた。彼はヤ―パン共和国の軍服を身にまとい、左胸には幾つかの勲章を付けている。
「私はヤマト防衛軍中枢係のブロッカー少佐だ。たまたま散歩していたら君がコソコソとしているので声をかけさせて貰った。君はどこかの国のスパイ……でも無さそうだな。名前を教えて貰おうか。または身分証明の類を渡して貰おう」
ブロッカー少佐は銃口を上に向けて、自分の頭の横に待機させる。そして、もう一方の手で身分証明証を差し出すように合図する。アキハはそれに従ってズボンのポケットから国民カードをブロッカー少佐に渡す。
「ふむ……アキハ・666・フジツキ君か。珍しい番号だな。しかも、国立特等学校のロボット工学科在籍……なるほどな」
ブロッカー少佐はそれをアキハに簡単に返した。そして、ハァとため息をつく。アキハはそれに動揺しながら、恐る恐る国民カードを受け取る。
「アキハ君、もしかして先月の隕石がロボットだった……という噂を聞いてきたのか?」
「は、はい!」
アキハは図星を突かれ、驚きながら肯定する。それを見たブロッカー少佐は増々わざとらしい溜息をついた。連行されるのか、とアキハは想像するが……
「アキハ君……特等学校に通うような優秀者が、変な噂を真に受けてはイカンだろう。見逃してやるから早く帰りなさい」
驚いたことにブロッカー少佐はアキハを許してくれたのだ。
「は、はい。分かりましたブロッカー少佐」
「うむ。勉強に励むのだぞアキハ君」
ブロッカー少佐の見送りを受けながら、アキハはソソクサとその場から離れる。そして、後ろから狙われているんじゃないかと疑いながら、アキハは時々後ろを振り返ってはビクビクとしていた。
「こ、怖かった……バレたかと思った」
そう言ってアキハはノートパソコンを開く。すると、そこにはあの軍施設の情報ファイルのコピーがズラリと並んでいた。彼はブロッカー少佐に銃を突き付けられた瞬間、用意してあったハッキングプログラムを作動させてファイルのコピーを行ったのだ。
ただし、これは足がつく可能性もあったのでアキハは最後の手段として使いたがらなかった。
「よし……後はどうやって侵入するかだな。今日作った侵入経路もと照らし合わせていくか……」
夕日が落ちていき、辺りはアキハが作業を進めていく内にドンドン暗くなっていく。
「よしよし、後は運かな。もう一回ぐらいハッキングして軍人達を誘導したいところだな……どうするかなー……」
侵入経路が分かっても、見つかってしまっては今度こそお終いだ。そう考えて、非常ベルか何かで扇動する方法を考える。しかし、軍施設にハッキングしないとやはりどうしようも無かった。
「うーん、難しいな。今日は出直すべきか」
どうしても先程のことがあって恐怖心の方が勝っている。そんな状態で無理に行動しても良い結果が得られるとは思えなかった。そして、アキハは深い溜息をつき、荷物をまとめて引き上げようとした瞬間だった。
ピンッと1本の白い線が夜空を断った。そして、目的だった軍施設で赤い爆発が起きる。
「えっ、うわぁッ!?」
遅れて来た爆音と爆風がアキハを襲う。そして、彼の身体は2メートル程吹き飛び、受け身を取りつつもコンクリートの地面に叩きつけられた。
「うっ……ううう、何が……?」
アキハはそれらが襲ってきた方角を見上げる。まず軍施設の爆発が炎と煙で確認できた。だが、彼は大きく目を見開いてこの現実を疑う。それの原因は空中にあった。
「な、何だあれ。ひ、ひ、一つ目の人型ロボット?しかも、あんな巨大な機体って……」
紅く光る一つ目、緑色の重厚そうな鎧、また一見しただけでも分かるフォーマット化された武器を有するモビルスーツがいた。それはロボットオタクなアキハも知らない形をした謎の機体だった。
そして、謎のモビルスーツはまた銃口を軍施設に向けようとする。その時、あの『一つ目巨人』にミサイルが撃ち込まれた。
「――この音、
アキハは興奮しながら上空を見上げる。すると、ヤマト防衛軍の空軍主戦力である超々音速機の一個隊が雲を切って滑空してる。それはさらなる追撃を一つ目巨人に食らわせつつ、上空へと舞い上がる。しかし、
「全然傷ついてない……そんな馬鹿な事があるのか?もしかしてあのモビルスーツの目的って……」
アキハの頭の中で、錯乱した情報が一点に集中して簡潔にまとめられる。そして、彼の足は恐怖など無く、ある意味で勇猛果敢な兵士の様に燃え上がる煉獄となりつつある軍施設へと走る。
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