第42回【SF】終末には新婚ごっこを
こんな終末の世界で、新婚ごっこ。
それくらいしかやりたいことが浮かばなくて、彼女に提案したら笑われたけれど、「いいよ」って了承してくれた。
短いけれど、幸せな時間を僕らは過ごす。
行きたかった場所はことごとく破壊されてしまったから見にいけない。仕方がないからデータにアバターを重ねて記念撮影をすることにした。
新婚旅行で行きたかった屋久島、縄文杉の前でパシャリ。彼女が「せっかくだし、海外も撮ろうよ。サグラダ・ファミリアの前とかさ」なんて言い出したので、海外で行きたかった場所といろいろ合成してみた。
どうせならと、二人のお気に入りの特撮映画のデータを使ってごっこ遊び。「やーらーれーたー」と大袈裟なアクションをしてみせれば、「ふふ、峰打ちですよ」だなんて返ってくる。くだらないねぇなんて二人で笑って、楽しかった。
「明日、世界が終わるんだね」
予告されたその日が近付いている。すでに災厄で人類は半減していたけど、明日には地球自体が消滅するので、僕らのような一般人はどうにもならない。一部の『優良な人間』という奴らは、災厄が始まる前に地球を離れてしまったけど、ニュースが本当なら爆発事故で木っ端微塵になったらしい。シェルターに退避した人もいるけど、地球消滅ではどうにもならないだろう。
終末否定派の人たちが供給してくれた野菜で作ったサラダをありがたく口に含みながら、僕は頷く。
「裏の裏の裏――みたいなことにならなければ、そうだね」
「どう過ごす?」
「一つになって、その瞬間を待とうか?」
僕の返事に、彼女は意味が通じなかったらしく小首を傾げる。
「嫌かい?」
重ねて問えば、彼女は理解したらしく頬を赤く染めた。初夜も経験したはずなのに、こういうウブな反応をするところは本当に可愛い。
「えっと……」
「他にしたいことがあるのかい?」
困ってしまった彼女に、僕は問う。
「あのね……外にいたいの。終わる感じが知りたくて」
「じゃあ、外でシようか」
「なに、そのインモラルな提案」
彼女は膨れる。
「だって最後なんだよ? やり残したくないじゃん」
「……うん」
頷いて、小さくため息。
「そうだね。――優しくシてよ?」
「最後だから、気持ちよく迎えよう」
「うん」
夕食を終わりにして、僕らは眠りにつく。目覚まし時計をしっかりセットして、終わりの瞬間を寝過ごすことのないように。
翌朝。最後の日の出。風の中に息吹を感じる。終わるなんて思えない。
「もうすぐ終わりなんだね」
産まれたままの姿の彼女は感慨深い様子で告げる。
「そうだよ」
こちらにおいでと手を伸ばせば、彼女は照れた様子で俯き、僕の胸に飛び込んだ。月並みな言葉だが、温かくて柔らかい。
「消えてなくなるまで、新婚ごっこをするの? ――お兄ちゃん」
「お兄ちゃんだなんて呼ぶなよ、
僕は彼女を組み敷いて、困った顔をして笑う。
こんな事態にならなかったら、血の繋がった愛菜を抱くことなんてできなかった。卑怯者な僕は、この非常事態を使って妹を求めた。
――だって、愛菜は僕を置いて行かなかったんだもの。
両親は仕事に行ったまま災厄に巻き込まれて逝ってしまったし、友人たちもいつの間にかどこかに消えてしまった。元から僕は愛菜を女性として愛していたし、逃げない彼女を愛して何が悪いというのか。
もう、二人きりじゃないか。
「――愛菜、僕のこと、嫌いになった?」
愛菜の問いの真意が知りたくて、怖いながらも訊いてしまう。もう、時間がない。
「ううん」
愛菜は首を横に振る。
「私、お兄ちゃんと結ばれて嬉しかったよ。私の気持ちに気付いたから、嫌々ながら付き合ってくれたんじゃないかなって、不安だったの。お兄ちゃん、私に甘いからさ」
はにかんで笑う愛菜は本当に可愛い。
「愛菜、僕を名前で呼んで」
「は、恥ずかしいよ」
試すように命じると、彼女は顔を真っ赤にした。
「言わないと、キスできない。喋らせないつもりだから、お願い」
「か……
照れた顔はとてもそそられる。
「――愛菜、愛してる」
唇が重なる。口を塞ぐ。互いの身体を
――神様、もう少しだけ、この幸せな時間をください。
まもなく、世界が終わる。
《了》
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