花鳥風月/4
一対一での戦い。
この状況で僕は、昼休みに透子が漏らした言葉を思い出した。
――あれ、でも京都府大会では優勝候補を正攻法で倒したとか書いてるよ?
そう、正攻法。
それはきっと、このことだ。あの時は見た目に気を取られ、その正攻法がどういったものだったかを調べなかった。
「おらぁ!!」
「テラス! 他力本願セット、信念!」
――千葉県チーム太陽。スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。スキル信念Sがランクアップし、信念EX+になります。
――千葉県チーム太陽。信念EX+が発動します。敵との一対一での戦闘時、全ステータスが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。また、ランクEXの場合クリティカルの発生率が上昇し、戦闘不能に陥る攻撃をを受けても、一度のみ確実に耐えます。
振り下ろされた釘バットをテラスは片手で軽く受け止め、刀をより強く握りしめる。
――千葉県チーム太陽。スキル、顕現。ランクAが発動します。こちらからの攻撃時、全ステータスランクが上昇します。このスキルはあらゆるスキル、アビリティの効果を受けず、どのような条件でも無効化されません。
「バフてんこ盛りだ! 一気に決める!」
「なるほどなぁ! まるでチートやなぁ!」
こんな状況でも横宮さんは笑っていた。
「んじゃ逃げよか! こはる!」
こはるはすぐに後退してテラスの一撃を躱したのだが、またすぐに間合いを詰める。
「得物なんかなくてもなぁ……」
こはるは拳を握り、テラスの顎を狙って殴り付ける。
「テラス!?」
「うちらの武器は元々この拳や!」
――テラス、バッドステータス。朦朧。一時的に全行動に一部制限がかかります。
「はぁ!? こちとら信念で全ステほぼマックスだぞ!?」
「ははは!! このゲームのいっちゃんおもろいとこやんなぁ! 顎にモロ喰ろうとるんや、現実やったら脳しんとうやぞ!?」
そういうことか!
「んじゃあ、これで終わらせてもらうで?」
余裕を持って釘バットを拾い、こはるはテラスに嘲笑を向ける。
それをふらつく足取りでテラスは睨み付けた。
「はい、さよおならっと!」
「テラス、状態回復からの他力本願セット、疾風迅雷!」
テラスの体が一瞬キラリと光る。
――千葉県チーム太陽。スキル、適材適所。ランクD+が発動します。適材適所の効果により、状態回復の発動条件を無視し発動します。アビリティ状態回復D+が使用可能です。
――千葉県チーム太陽。スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。スキル疾風迅雷Sがランクアップし、疾風迅雷EX+になります。
――千葉県チーム太陽。スキル、疾風迅雷EX+。自身の攻撃が最優先され、防御不可能の攻撃となります。 また発動後一定時間自身の機動が上昇します。
バッドステータス状態でも、テラスの適材適所ならアビリティを使えることは調べ済みだ。
「簡単に終わるわけないでしょう!」
相手の懐にテラスの一撃が確かに当たる。
――京都府チーム花鳥風月。こはるに攻撃がクリティカルヒットしました。
「僕らはチーム太陽! バディタクティクスなら負けなしだ!」
「言うたなこのクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ぐらりと傾きかけた体を強引に起こしたこはるは、釘バットを力のままに振り下ろす。地面が隆起し、直線状に地面が隆起していく。
「ちょ、マジ怖っ!」
「おらぁ負けなしなら逃げんなやぁ!」
ぶんぶんと釘バットを振り回しながらこはるはテラスを追い詰めていく。さすがにテラスもその剣幕に驚いてしまい、彼女から必死に距離を取っていく。
「てかテラス逃げるなって! 今お前のステータス最強だから!」
はっと気付いたテラスはすぐに刀を構え直し、正面に立つのだが。
「そのまま逃げんなや、天広太陽?」
――テラス、バッドステータス。
「だから何でここでバッドステータス!?」
「安心しぃや。うちらの相手は大体そうなるわ!」
攻撃を受けようとするテラスだが、その足は震えている。
「ビビった姿は、あんたらそっくりやなぁ!」
その一撃をテラスは受け止めたものの、徐々に膝が折れていく。
「倒れたら馬乗りになってボコったるで?」
こはるの表情は鬼のように凶暴で、僕らの恐怖をより駆り立てる。そのせいか汗は出てきているのに、体が冷えてきて手に力が入ってしまう。
この恐怖は知っている。何で、ここで……思い出すんだろう。
「ぶっ潰す……!」
そうだ、この恐怖は……相手を傷付ける覚悟を持っている者と対峙する恐怖だ。彼女達はパーフィディ達とは違う。自分達の欲望のままに、命を奪う奴らとは違う……のに。
「おらどうしたぁ!?」
テラスが片膝を付き、僕を見る。
その瞳からは、「どうしたの?」という言葉が伝わってくる。
――ははっ! 君では救えない! 君は誰も! 何も! どうやっても! 救うことなんてできやしないんだよ!!
「テラ……!」
何かを指示するつもりではなく、彼女の名前を呼び掛けたその時に。
「どうした天広、助けが必要そうに見えるが?」
王城先輩のフリードリヒがいろはを片腕で掴みながら、悠々と歩いて現れた。
「な……フジ?」
さすがの横宮さんも驚きを隠しきれず、武器を持つ手を緩めた。その隙をテラスは逃さず、弾いて僅かに距離を取る。
それを見たフリードリヒはにやりと笑って、いろはをこはるの方へと投げ飛ばした。
「おま、大丈夫なんか!?」
「あの……野郎!! うちのこと舐めやがって!」
こきりとフリードリヒは首の骨を鳴らすと、テラスの頭をくしゃりと撫でる。
「安心しろ。お前は俺達が助ける。だから俺達をお前は助けろ。これがチーム太陽のルールだったろう?」
そしてずいとテラスの前に立つ。
「お前は一人で戦っているわけではない」
その背中はとても、頼りがいのある大きな背中だった。
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