第一章 全国初戦
全国初戦/1
布団の中って、とっても幸せ。
ぬくぬくとしていて気持ちいい。
自分の匂いだから安心する。
体でわかる毛布のあの毛並みの良さ。
窓のカーテンから漏れる、太陽の日差し。
あぁ、休み最高。
……。
…………。
めっちゃやかましくアラームを鳴らしたテラスがいなければ、だが。
「にぃー、テラスちょーうるさいんだけど!」
隣の部屋にいる妹の
「頼む、テラス。もう少しだけ、もう少しだけ寝させてくれ」
薄目を開けると、テラスは涙目で奇妙な恰好をしていた。
それに思わず、噴き出した。
「ふひっ! お前、何その恰好!?」
白装束の姿をしたテラスは、右手で太鼓を叩きながら口にはおもちゃのラッパ、左手にはカスタネット、頭にどのようにして付けているのかはわからないが、小さなシンバルが乗っていた。
「もう、笑わせるなよなぁ……」
すっかり目覚めてしまったので体を起こして大きく背伸びをする。
「あー、今日も良い天気だなぁ」
カーテンを開けると、太陽は高く昇っている。
夏休みも終わり、中間テストまでまだまだ余裕もある。残暑は厳しいけども、今日みたくゆったりとした天気もある。
「やっぱ土曜日が休みなのはいいよなぁ……」
ぴこん。
「んー?」
いつもの呼び出し音。
「どったの?」
僕の
待ち合わせまで、三十分を切っています。
……。
……待ち合わせ。
あー知ってる。
「なんでもっと早く教えないんだ、テラス!!」
ぴこん。
二時間前からずっとアラーム鳴らしてます!
「やべぇ! 今回先輩達も一緒じゃん、ぜってぇ怒られる! と、とととと、とりあえずテラス、全員に連絡……!」
ぴこん。
一時間前に全マスターから、マスターのチャットアプリに連絡が来ております。
――マスター
――マスター
――マスター
――マスター高遠正詠よりメッセージを受信:あいつそういう奴だから。んじゃあ新宿のアルタ前で。
――マスター
――マスター
――マスター
――マスター
――マスター日代蓮よりメッセージを受信:猫か……。
――マスター平和島透子よりメッセージを受信:蓮ちゃん、猫好きだよね。
――マスター高遠正詠よりメッセージを受信:はは、お似合いだな猫蓮ちゃん。
――マスター日代蓮よりメッセージを受信:うるせぇ。
……やばい。信頼が地の底どころか安定の地下迷宮!
「シャワー浴びて準備して、えっと……」
ぴこん。
所要時間、三十分。
「よし、新宿までは四十分、少しの遅刻で済む!」
四十分はまぁ、少しだよね。
「とりあえず急がねぇと」
ベッドから飛び起きてすぐに浴室に向かおうとした途中、足の小指をぶつけるわドアに額をぶつけるわで、余計な時間を食ったのは言うまでもない。
――……
ってなわけで、遅れること一時間、(新)待ち合わせ場所の喫茶店モカ・スヌートに辿り着いたのだが。
「あー太陽だにゃーん」
遥香が心底緩みきった顔でキモイことを言う。
「太陽くん遅いにゃー」
それを真似てるのかどうかわからない透子。
「お、遅いにゃん、た、太陽くん」
恥ずかしがりながら乗っかる風音先輩。
そして猫と戯れることに夢中な男共四人。
そんな謎の光景から数分して。
「とりあえず、出るか」
正詠は猫を一撫でして立ち上がった。
喫茶店を出て向かったのは、新宿御苑だった。たまにはみんなで気晴らしにと、晴野先輩の提案だった。
受付を済ませて、僕らは芝生でマットを敷いて一息つく。
「そういや、今日はマリアンヌさんもセバスチャンさんもいないんですね?」
風音先輩は、超大金持ちでメイドや執事がリアルに存在する家の人だ。
「今日はさすがにね。東京でメイドと執事が一緒だと、逆に危険でしょ? でもお弁当は預かってきたのよ。持っているのは晴野だけど」
晴野先輩に目をやると、今風音先輩が言った弁当を指さした。上品に包まれているそれは、かなり大きい。
「怪我人に持たせるとかないだろ?」
晴野先輩は、幼馴染の正詠の部活(弓道部だ)の部長で、前の事件で左手の自由が少し利かない。それでも最近はモノを持てるようになったみたいだ。
「じゃんけんで負けたお前が悪い。俺だって水筒を持ったぞ」
そんな晴野先輩に笑みを浮かべて答えたのは王城先輩だ。
イケメン、空手部主将、成績優秀という男として欲しいもの全部持ってる僕らの高校のアイドルと言えなくもない。
そんで、残る四人。
那須遥香と高遠正詠は僕の幼馴染で、幼稚園、小学校、中学校、そして高校とずっと一緒の仲良しだ。
高校から親友になった日代蓮と平和島透子。この二人とはちょっとした事があって仲良くなった。
「ってか外で作戦会議って。ホトホトラビットで良くないっすか?」
透子が淹れてくれたお茶を飲みながら、晴野先輩に問う。
「日代の親父さんに悪いだろ、毎回毎回。それに気晴らしというか気分転換として、だ」
「まぁ、確かにそっすね」
僕らの
……えーっと、超高性能教育情報端末(=Super Highspec Teach Information Terminal)、通称SHTIT《シュティット》。愛称で
よし、一学期に学んだことは忘れていない。
「しっかし、気付けばバディタクティクスの全国大会も来週かぁ」
大きく背伸びをしながらあくびをして遥香は言った。
僕にもそれが移ったのか、大きく深呼吸する。草の匂いが鼻をくすぐり、とても気持ち良い。
「全国大会はうちの高校でやるんだよね、正詠くん?」
透子はうちの作戦参謀、正詠に聞いた。
「まぁな。ただ大会は午前から午後に渡って行われるから、その間授業はないけど」
「そうなんだ」
正詠はお茶を一口飲んで。
「初戦と第一回戦は全校挙げての応援はなかったですよね、王城先輩」
王城先輩に質問する。
「あぁ。二回戦以降から全校で応援するらしいぞ。普通は決勝からだが、うちの校長はこういうことが好きだからな。それで、バトルロワイアルの準備はどうなんだ、風音?」
王城先輩は次に、風音先輩に質問を投げかける。
なんだこれは。質問電車か。
「私と遥香さんだもの、コンビネーションもパフォーマンスも申し分ないわ。そうよね、舞台監督の晴野?」
質問電車は続き、次は晴野先輩だ。このままいくと、蓮、透子、遥香、僕と質問が来そうだ。
「お前達にも秘密の特訓だからな。まぁでもこいつらのコンビネーションはすげぇぜ? 熟年夫婦みたいだ」
「もうやめなさいよ、晴野!」
ばしんと、風音先輩は晴野先輩の背中をとても強く(ここが重要だ)叩いた。そのせいで晴野先輩はお茶を吹き出す。
「おまっ、強く叩きすぎだっての! あーもう……」
布巾でシートこぼれたお茶を拭きながら、ため息をついた。
「ご、ごめんなさい……」
「お前最近元気すぎだろ」
らしくない先輩達の姿に、僕は少し嬉しくなって笑ってしまった。子供っぽいというか、やっぱり先輩達と僕らは一つしか年が違わないんだと改めて認識してしまう。
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