試練/12

 遥香にらしさが戻り、また僕らの士気が上がったように思えた。


「やるじゃん、お前ら。見直したぜ」


 進藤先輩の言葉に偽りの色は見られない。本当に彼は僕らに感心したのだろう。


「でもよ、こっちは情報熟練者エキスパートでな。お前たちに敗けてられないんだよ」


 土煙が三つの風で吹き飛ばされる。


「わりぃ、遅れた」

「遅いっての」


 チーム一騎当千残りのメンバーが全員揃う。

 剣道部らしく、全員武器が刀であった。


「奏、準備は整った」


 一騎当千チーム全員が、こちらを睨み付ける。


「狙うは天広と高遠だ。他は無視していい。行くぞ!」


 進藤先輩が刀の切っ先をこちらに向け言う。


「「「「応!」」」」


 五人の情報熟練者エキスパート達は二手に分かれこちらへ向かってきた。


「スキルとアビリティは使うなよ! 天広の相棒はスキルを盗むぞ!」

「盗むなんてとんでもない! 借りるだけだっつーの! 他力本願、セット! 速攻!」


――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。スキル速攻Aがランクアップし、速攻EXになります。

――アビリティ、速攻EX。機動と攻撃が上昇します。ランクA以上の場合、更にステータスが上昇します。


 正詠のスキルを使い、相手の攻撃から逃げ回る。


「ちっ、高遠のスキルか! 目標変更! 高遠を狙え! EXじゃなけりゃあ捕まえられる!」


 テラスを倒すのが面倒とわかった途端、彼らは目標を変更した。


「ロビン! 回避!」


 全員の攻撃を回避しつつも、ロビンは矢を放っていく。


「随分と寂しいこと言うじゃねぇか、無視しろなんてよぉ!」


 日代の言葉と共に、強大な剣圧放たれた。

 それを回避し、体勢を崩した兵藤先輩の相棒をリリィは逃さない。


「リリィ、ぶん殴って!」


 リリィの攻撃がヒット。だが兵藤先輩の相棒は倒れない。


「軽い! 反撃しろ、鬼一きいち!」

「させません、アクアランス!」


 しかしその反撃も平和島の攻撃で防がれる。


「いいか、スキルとアビリティを惜しまず使え! あいつらは平和島がいる限り使わねぇ!」


 正詠の叫び声に全員が頷き、相棒達は武器を強く握り直す。

 攻防激しい戦いだった。

 一騎当千は統制の取れたチームワークで戦い、僕と正詠、平和島を狙った。けれど狙いがわかるのなら僕らも守りやすい。間あいだで日代や遥香が援護に入り決めの一手を防ぎ続けた。

 僕らのチームは隙が出来た相手を一人でも見つけると全員で攻めたが、進藤先輩の的確な指示が飛ぶことで大きなダメージを与えることが出来なかった。

 そんな戦いが、長く続いた。


――残り五分です。


 これは……やばい。


「作戦通りだ。よくやってくれたな、みんな」


 進藤先輩の言葉と同時に、彼らは攻撃の手を止めた。そして、工藤先輩、山本先輩、兵藤先輩たちの後ろに、進藤先輩と藤堂先輩が立った。


「なぁ情報初心者ビギナー。延長戦では体力、技力共に完全に回復することを知ってるか?」


 じりと、ノクトが半歩足を擦ると、ばちりと雷が落ちた。


「なんでわざわざ大将とプライド・プレイヤーが勝負を挑んだと思う? 仲間が揃うまで待っていれば良いと思わないか? だけどそれは撒き餌みたいなもんなんだよ。那須にはさっきも言ったけどよ、お前たちは短期決戦を狙っているだろ。だったら、この二人を見逃すなんてことしないよな?」


 一呼吸置いて。


「俺たちが最も注意しなければいけなかったのは、奏を平和島と戦わせないこと。だから俺が進んで那須と平和島と戦った。まぁ天広と日代がこっちに来たのは予想外だったが……それでも俺たちの作戦通りだ」


――残り四分です。


 進藤先輩と藤堂先輩の二人は武器をしまう。


「俺たちは確実に勝てる方法で勝つ。最初から俺たちの狙いは〝プライド・プレイヤー同士の戦い〟だ。高遠、お前が奏に勝てるわけないからな」


 そんな二人とは対称的に、残りの三人は武器をしっかりと構え直している。


「延長戦ではまた決まったランダム位置からの戦闘だ。俺と奏は十五分全力で逃げ切るぜ? 逃げ回れる自信はあるからよ」


 三人の壁から、進藤先輩の狂暴な笑みがはっきりと見えた。


「工藤、兵藤、山本。囮は任せた。負けてもいい。気楽にやってくれ。それと奏、もういいぞ」

「うん。じゃ、あんたら情報初心者ビギナーとはここでバイバイだね」


――スキル、静寂。ランクAが発動しました。一定時間、敵味方含めスキルとアビリティが使用不可能となります。


 勝利を確信した相手の笑み。


「あんたらさ、俺たち情報初心者ビギナーのこと舐めすぎ」


 しかし、その笑みは正詠も浮かべていたのだ。


「ロビン、あの余裕のツラを〝ぶち壊せ〟」


――残り三分です。


 あと三分。

 まだ僕も、他のみんなも、あいつ進藤先輩を殴ってない。

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