68.春
「
向かい合う【
そのままゆっくりとあたしの元まで歩み寄って来る──おいおい、正気ですかい?
「…………」
【
が、少なくとも呑気してるワケではないと思う。戦闘に臨むに相応しいだけの緊張感は感じる。
けど。
あたしと。
何の捻りもなく、接近戦ん?
「──嘗めんな、ヒョロガリ」
全体重を一気に前方へとかける。
地を這うような超前傾姿勢で──あたしは、駆け出した。
「三速」
蒼の轍を刻みながらに、あたしは刹那の間もなく【
「な──」
「
渾身の一撃。
ガードも間に合わず、まともに【
「げ、ああああぁぁぁあ"!?」
「逃すか」
後方へとぶっ飛ぶ【
今にも触れあいそうな至近距離を保って、あたしは吹き飛ぶ標的に追走する。
「くそっ! 何が何だかわからん──
「追撃のぉー!
「ふぐぉっっっ!!」
鈍い呻きを溢して床面に叩きつけられる【
察した通り、身のこなしは並以下だ。
これだからインドアは。
「このまま、轢き潰す──!」
「…………
そんな呟きと共に。
いつの間にやら、【
あたしが更なる追撃を加える、より。
その手の内の神具を一振りする方が、流石に速かった。
「────っ!」
瞬間。
その神具の形をとった【
あ、これ絶対ヤバいな。
そう咄嗟に判断したあたしは瞬時に車輪を
「流石に、勘がいいね…………ゲホッ、えほ。あぁ、痛いなクソ。やっぱり慣れないことはするもんじゃない」
黒い霞の中からそうぼやく【
【
念には念を入れておくか。
あたしは一旦自らの【
「…………なんだ、聞いてたのか?」
「んにゃ、何となく。けどその様子だと間違ってないみたいだね」
やはり【
触れたものはその時点で感染媒体となってしまう。
素手で触れるなんてもってのほかだし、武器で攻撃したとしても安心できないというワケだ。
なので、【
「予想は立ててたけど…………とんだ近接殺しだねー。剣呑剣呑」
「剣呑なのはそっちだろ。目にも映らない速度で駆け回ってくれてさ…………ったく。殴りっこなんて性に合ってないんだってのに」
「いや、近接戦誘ってきたのあんたでしょうに…………なんか罠でもあんのかなと思ったら普通に凹せてビックリした。ひょっとして、あれなの? アホなの?」
「うるさいな。自分から待ち構えておきながら開幕早々に引き撃ちしてたら流石にダサいだろ…………」
「バカ正直に真向勝負挑んであっさりシバかれるのも大概ダサいと思うけどね」
「その言葉は心して受け止めた上で──勝負はここからだ、【
【
「うっわ。マジで近づけないじゃん──って、おいおいマズいな忘れてた」
「たったたたったたたたたった助けてけけてけおーーたーーすーーけーー!! ぎにゃーーーーッッッ!!」
汚ぇ悲鳴を上げて泣き喚くのは、そういえば一緒に連れて来ていたろくでなし
あたしと違って今にも穢に追いつかれて呑み込まれそうな感じ。
…………しゃーない。
連れてきておいて見殺しは流石に寝覚めが悪すぎる。
「ほら、ボケーッとしてんなっての!」
「ふぐぉえっ! だだっだだから首根っこ掴まにゃいで締まる絞まる首が」
そのまま
何にせよ、無限に湧き出てくるとかだったら流石に打つ手がなかったので限度があって何よりだった。
「さて、手詰まりかな──お互いに。僕は君の速さには追いつけないし、君は僕に近づけない」
「かもね」
「そ、そーでしたかー。ではこれは無益な闘いということでここでお開きに──キュっ」
襟を締め上げた。
黙ってなさいな。
「でも、ここが底だなんて事は無いでしょうよ──お互いに、ね」
「まったくだ」
そう言った【
「げ。またアレか」
例の屍者達がまたぞろ歩いてくる。
「けど、それじゃ碌な足止めにもならないってわかってる筈──」
と、次の瞬間。
屍者達は──駆け出した。
「はあ!?」
「ゲーーーーっ!?」
屍者達は常人では及びもつかない速度で疾走し、あたし達へと襲いかかってきた!
「アダ、アッ、アダシノ、アタジノォオオオ! ヴィッットトトオオオン!」
「スッススイススイスイスイイススススィカアアアアァァァァ! ワリリリリリリリン!」
なにやらわからん事を喚きながらに滅茶苦茶に両腕を振り回して屍者達はあたし達を狙う。
「走った上に喋った!」
「バ、バタリアーン!」
一先ず
「死神走法──
「フルラ!」
「パフェ!」
片方の上半身は粉砕し、もう片方は左半身を吹っ飛ばした。
…………断末魔まで意味不明なんだが。世紀末かよ。
ええい気にするまい。
「うわわわわわぁ! 来てます来てます黒いのがあ!」
「うげ!」
屍者達の相手をしているうちに、【
「あーもう、離れるよ──」
「うわっちょおーーー! バタリアンも来てますって! 多い!」
「っ、クソ!」
真っ黒な
「ジャガバタアア"ア"ア"ア"ッ!」
「サビキツリイィィイ!」
「うるさいってのおおおお!
四方から飛びかかってくる屍者達を迎撃してぶちのめす。
が、
「ヤっ、バ…………」
もちろん逃れる事は容易い──あたしだけなら。
「ああもうっ──
瞬間。あたし達を包むように黒ずんだ障壁が展開される。
その壁はギリギリまで迫って来ていた
即座にあたしは
「は、はひぃ…………なんとかなったぁ。ね、ねぇ、やっぱ逃げましょうよう。あの瞬足ブギーマン達を相手しながら黒い霧にも巻かれずに本体を倒す、なんて現実的じゃないです──え、ちょっと待ってください何ですかそのワッルい笑顔は寒気するんですけど」
そう。
今の
うん。
コイツ使えるわ。
▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇
◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣◇▣
「逃げる──ワケはないか。あの【
【
「ふっ…………すぐにそうやって人間を侮るのはあんたらの悪いとこだね」
【
「…………! それは!」
その姿を見て、【
「ふっ…………さあ見せてやりなさい
「…………そこな
現れた
姿は。
「さあ! どっからでもかかってきなさい、【
「た、た、たぁすけてええええええええええエエエ"エ"エ"エ"ァ!!!!」
「ゴメン無理」
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