第30話 女騎士は滅びない
「さっそく、首尾をミリス様に報告してまいります」
亡命の件についてトーレスから許可を得たアーリィ。
彼女は、顔の赤みが消えるのを待ってその一軒家の中へと入っていた。
私も一緒に行こう、と、彼女を追ったのはトラン。
すぐに彼女の横について、将軍の息子はその手を握った。
二人並んで歩くその姿は、どうにも、トーレスの眼に眩しく映った。
見ていられない。彼は溜息を吐くと、隠して持っていた秘蔵の葉巻を取り出して、それに火をつけた。
荒野を一陣の風が吹き抜けていく。
戦の終わった物悲しいこの光景。
しかし、どうして、ここまで心が躍るのか。
トーレスは、自分でも不思議に思った。
葉巻の煙を口の中に満たして彼は眼を瞑る。
思い出される、瞼に浮かび上がるそれは、今は遠き、懐かしく古い時代の記憶。
彼の中の美しい思い出。
彼の中にある笑顔の人との輝かしい日々。
まだ、彼が今の名前になる前――ただの少年だった頃の思い出。
「トット?」
荒野に誰かの声が響いた。
誰かが将軍をそう呼んだ。
懐かしい声色が彼の名を呼んだ。
トーレスは口の中のそれを全て吐き出して振り返った。
気のせいなどではない。
「……アレインさま?」
そして、彼は、その声の主に応えるために、葉巻を吐き捨てて言葉を紡いだ。
【了】
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