第6話 終わる日常
家に戻った朔間緑子が家族から聞いた話では、飯塚京子は緑子の友達だと名乗り、朔間家に堂々と上げてもらい、先に食事を供されていたとのことだった。
朔間緑子の寝室に入り込み、ゲーム機を立ち上げて、勝手に遊んでいたらしい。
飯塚京子は、自他共に認める好戦的な少女だった。運動神経が極めてよく、反射神経が要求されるゲームを好んむことは、緑子も今知ったところだ。
「簡単すぎてつまらねぇな」
「私、そんな面まで進んだことないよ」
宇宙船を操る、旧傑作シューティングゲームの復刻版だった。ほとんど全面制覇直前で、飯塚が惜しげもなくリセットボタンを押した。
「二人同時にできるんだろ?」
「うん」
「よし、じゃあ、最後の面まで連れてってやる。簡単に全滅するなよ」
「えーっ。自信ないよぉ」
結局、深夜までかかった。
赤毛の少女は、クローゼットの上で横になっていた。
「いいの? 帰らなくて」
「いいんだ」
「ベッドで寝たら? いいよ、私の隣でも」
「オレは、ここの方が落ち着くんだ」
ある意味では、飯塚が最も変わっているかもしれない。遺伝子にヒョウが組み込まれているせいなのか、地面の上では落ち着いて眠れないというのだ。さぞかし寝相がいいのだろう。
「そのうち、喉がゴロゴロ鳴り出したりして」
「何か言ったか?」
「ううん。お休み」
朔間緑子は頭まで布団を被り、あることに気がついた。飯塚は、ゲームをやるために来たのだろうか。ゲーム以外の話は一切していないのだ。
考えているうちに、携帯電話が鳴った。ベッドから腕だけを伸ばしてそれを取ると、非通知だった。いぶかしみながら耳にあてた。
『……』
「どうした?」
「何にも言わない……もしもし?」
『……』
「どうしたのかな?」
「無言電話か? いたずらじゃねぇか?」
飯塚も興味深そうに首を伸ばしてきた。首が長い、というより、間接が柔軟なのだ。タコの遺伝子を持つ早房ほどではないだろうが。
「もしもし? もしもし?」
『……朔間……さん……』
「はい、そうですけど……あっ、美香ちゃんね」
黄色い髪をした、イルカの遺伝子をもつ少女だ。
『……うん……』
「どうかしたの? 元気? あれからどうしてた?」
「『美香』って……ああ、ひょっとして、篠原美香か?」
クローゼットの上で、飯塚が納得していた。朔間も『その通り』の合図を送る。
話しているうちに、徐々に打ち解けてきた。世間話だった。切った。
「長かったな」
「そう?」
時計を見る。一時間近く話していたのだと理解する。
「よくかかってくるのか?」
「ううん。始めて。あれ……携帯の番号、いつ教えたっけか?」
「あいつなら、電話番号ぐらい聞かなくても知っていそうだけどな。それで、何のようだったんだ?」
5人のなかで唯一、人の心を覗くことができるらしい。本来のイルカにそういったことが可能かどうかは、緑子は知らなかった。
「……さあ?」
朔間緑子は、一晩ですべての仲間達と話したことになる。しかも、誰も大した用件などないのだ。不思議な日だと思いながら、あらためて布団を被った。
再び携帯電話が鳴った。緑子のものと同時に飯塚のものが同時に鳴った。二人は緊張して顔を見合わせた。やはり、同時に耳にあてた。
『すぐに外に出ろ。迎えが行く』
切れた。
「いい態度だな」
「感じ悪い」
今夜は、長くなりそうだった。
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