4話 招待状②

 彼の手に自分の手を重ねると、少し熱いほどの温もりを感じる。あの広い部屋で感じていた心細さがかき消されていく。この彼の優しさはどこから来るのだろう。


「龍介さんって妹か弟います?」


「……わかる?」


「面倒見が良すぎます。お兄ちゃんって感じがします」


「四つ下に妹がいんの」


「四つ。龍介さんはおいくつですか?」


「俺は今ね三十六。綾乃ちゃんは? 年下でしょ?」


「そんなに変わらないですよ。あ、もしかしたら妹さんと同い年かな。今年三十二になります」


「あぁ、同い年だね。名前も似てるな。妹は雪乃っていうの。でも、綾乃ちゃんはもう少し下かと思ってた」


「あら!」


「子供っぽい」


 龍介さんは、悪びれもなくそう言う。


「えっ……」


「あはは! あの帽子被ったらってやつさ、小さい頃、俺の妹が怖がったときとかによくやってたんだよね。帽子被せて大丈夫って俺が言うと、涙目のままだけど怖くないって笑うの」


 龍介さんは、まるで幼い頃の思い出を慈しむように、優しく、そしてどこか懐かしむような眼差しでわたしを見た。


「……やっぱり子供扱いじゃないですか」


 わたしは拗ねたように唇を尖らせた。


 龍介さんは、わたしの抗議を聞きながら、大きなカートを押してゆっくりと歩き始めた。スーパーの明るい照明の下で、カートの車輪が静かな音を立てる。カートの中に、材料が少しずつ増えていくのと比例して、龍介さんが自分のことを話してくれる。


 毎年ハワイに来ること、必ず友達夫婦の家族と食事会をすること、その友達夫婦の子供を可愛がっていること。少しずつ知っていく龍介さんの姿。


 話している間にも、次々に新しい彼が見えてくる。ただ買い物をしているだけなのに、彼はとても楽しそうに笑う。色々な商品を見つけては、物珍しそうに手に取って興味深げに観察しているその姿はまるで子供みたい。


「うわ、見てこれ。青いケーキ。すげえ色」


 彼が目を輝かせて指さしたのは、日本ではまず見かけない、目の覚めるようなロイヤルブルーのデコレーションケーキ。


「こんなの日本で食ってたら、絶対に怒られるな」


 そう言いながらも、彼は楽しそうにカートへ放り込む。


「……食べるんですか?」


「うん。せっかくのハワイだし、少しくらい羽目外してもいいでしょ?」


 悪戯っぽく笑う姿は、本当にただの少年のようだ。


「龍介さんってすごく楽しそうにお買い物しますね。目がキラキラ」


 わたしの言葉を聞いて、彼は照れ臭そうに笑った。


「なんか楽しくてはしゃいじゃうんだよね。日本ではこんな風にできないから。あ、あれ見ていい?」


 そして、また嬉しそうに進んでいく。


「へえ、こんなのあるんだ! へえ!」


 一つ一つ、珍しそうに、飽きることなく熱心に見つめる。驚きと発見の声を上げながら、あちらこちらへ歩く彼は、初めて見た時の印象とは大違い。


 明らかに普通ではないと危険を感じたはずなのに、今は子供みたいに目を輝かせる彼が目の前にいる。あの時は、身に纏う空気が一般人とはかけ離れていて、一目で「普通ではない」と察し、本能的に危険を感じたはずなのに。今はどうだろう。目の前にいるのは、ただただ目の前の光景に夢中になり、子供みたいに目を輝かせる、一人の男性。


 彼の無防備な笑顔は、周囲の警戒心さえも溶かしてしまうような、不思議な魅力に満ちている。彼を見ていると、自然と彼の笑顔がうつって、こちらまで口元が緩んでしまう。

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