第1部 わたしの王子様

1章 偽りのガラスの靴を脱ぎ捨てて

プロローグ シンデレラは夢を見ない

◇◇◇


 お金で幸せは買えないと言うけれど、それはお金の怖さを知らない人の言葉だと思う。愛があれば生きていけると言うけれど、それは愛を失くしたことがない人だから、言えるのだと思う。


 綺麗な言葉で飾られた嘘。冷たくなった愛する人の手を掴んだことがない人間の、残酷な戯言たわごとにすぎない。


 お金は、いとも容易く愛する人を奪う。愛なんて不確かなものを、跡形もなく踏み潰す。どんなに大切でも、どんなに信じて待ち続けても、戻ってきてはくれないのだ。たかがお金、されどお金。お金があれば失わなかったものが、わたしにはある。


 でも、愛なんてなくても人は生きていける。それは、それはしたたかに。愛すれば、それを失くしたときに傷つくから。苦しくて動けなくなってしまうから。


 失ったものの名前を数え上げれば、それだけで眩暈がする。喉の奥が引きつって、うまく息ができなくなる。だからわたしは、記憶の蓋を閉じる。中から溢れ出そうになるドロドロとしたものを、全身の力を込めて押し込める。


 愛されていると感じない。愛しているとも思わない。それでいい。きっとわたしが愛する人は、いなくなってしまう運命だから。愛なんて与えられれば、失う恐怖に怯えることになる。期待すれば裏切られ、信じれば足元をすくわれる。そんな思いは、もう十分だ。


 期待しない。信じない。愛さない。そう、心の中で何度も唱えた。


 ◇◇◇

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