封印されてた記憶 8
その日は運命の分岐……否、強制的に押し付けられた命運の日となった。
王宮のサロンにて、待たされている。真白い楕円卓テーブルには、レース編みで出来たテーブルクロスが敷かれてる。十二人位は座れると思うが、普通よりも大きめ(二人は座れる位の物)で、白い豪奢な造りの椅子が一つ。普通サイズ(一人用)の椅子が五脚が離れて置かれている。
大きなやつは王様用のだと思う。一応上座とも言える向こう側だし。でもって、今私が座っているのは、左隅の五番目の椅子だ。
何気なく視線を下に向けると、今日のドレスが目に入る。空色の生地で、サテンの様に光沢を魅せる感じに、所々に襞を持たせて作っている。可愛いよりも、少し大人っぽいデザインのドレスである。生地より濃い目の青色の、精緻な花模様のレースが袖口や裾に付けられている。
視線を上げ横を見ると、隣にはアレクサンダーが控えている。今日は、アダルトバージョンの格好良い姿である。但し、表情は固い。当たり前だ、パパ公爵は不要だから、独りで来いなんて変過ぎるし、警戒するに越したことはない。
また、侍女が居ることには居るが、扉の側で控えている。無言でこちらに何か声をかける様子もなく、直立不動の無表情は少し怖い。
――――普通なら、令嬢の機嫌を取るものじゃないの? 無理矢理呼び出してるのに無視って酷くね? こちとら腐っても公爵令嬢よ⁉ アウェイ感パネエなヲイ。あら、やだ。つい言葉使いがヤサグレちゃったわ。おほほほ……はぁ。(溜め息)
ボンヤリしている(アレクサンダーと話してると色々勘繰られるので沈黙している)と、観音開きのドアが開かれて、同じお仕着せを着用した侍女が先に入って来た。次に、王宮の騎士か近衛だろうと思われる、二名の制服を纏った男性が開いたドアを守るかのように、両サイドに控えて立った。侍女はそのままこちらに向かって来ると、私を見て告げた。
「御待たせ致しました、トゥーア公爵令嬢様。先ずは宰相様が御見えになります。失礼の無き様にお願い申し上げます」
侍女は、折り目正しく頭を下げる。それを見計らったかの様に、中肉中背の男性がサロンに入って来る。
「宰相様」
侍女が声に出す。彼が宰相と言うことらしい。
「よい、陛下が来られるから、茶と菓子の用意を。令嬢のお相手は私がするので、下がって良い」
指示をすると侍女はそれに従い、一礼をして去って行く。それを見届ける前に、宰相は私を見る。
値踏みする目は、会社でも学校でも管理職の上位の位置にいる感じのタイプそのものだ。専務とか部長とか、教頭クラスの妙に鼻につく感じの奴である。撫で付けた茶髪はどちらかと言うと薄い感じである。目はくすんだ茶色で、顔立ちは多少整っているがそれだけである。
「レスティーナ嬢、私と会うのは初めてだったかな。アドルフ・バツィン・ヴァルーヒンだ」
自己紹介をするアドルフを見詰めてから立ち上がり、ドレスの裾を摘まんで礼をする。
「初めまして。ヴァルーヒン宰相閣下」
その時の私は、諸悪の根元その一が、彼だとはまだ知らなかった。
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