封印されてた記憶6
公爵家の当主執務室に、その日、私は呼ばれた。
「お父様、お母様、私に御用とお伺いしましたが?」
「あぁ、とりあえずそこに座りなさい」
訪れた執務室にあるソファーを示されて、私はちょこんと座る。目の前にはお母様。お父様は、執務机から離れお母様の隣に座る。さりげなくお母様の腰に手を回している。このリア充夫婦め! と心の中でツッコミを入れる。
お父様の名前は、ローラント・レオ・トゥーア。イケメンダンディーな公爵様である。サラサラキューティクルな金髪、透き通る海の青の様な瞳、体格に見合うほどの筋肉質な均整のとれたボディ、嫌味な位のパーツが揃っている。今でも平然と、アプローチを公の場でしてくる女性が後を絶たない公爵様である。
でも、愛妻家ですのよ、我がパパ公爵は。
お母様は、リーセロッテ・レオ・トゥーア。お母様を一言で表すなら、ふわんとした年齢詐欺の乙女である。
ふわふわとウェーブのかかった真珠色の髪と、パープルアイズを持った童顔の、可愛い女性である。子供産んでるの? 本当に? と、思わずにはいられない程の詐欺顔です。夜会に出ると年若いデビューして直ぐの男性は、可憐な公爵婦人の脇にいる娘が実子だと思わず突撃してくる。お断りされた憐れな男性を何度見たことか。
そんな夫婦のお断りの台詞もまた、相性抜群である。
「すまないが、私は妻一筋なんでね」
「申し訳ございません、わたくし、旦那様が一番なんですの」
とまあ、息の合った感じでお断りして、二人でダンスに突入することもあった。
いつでもラブラブな二人は、ちょくちょく外交の仕事で国外に出ている。そのお陰で私は冒険者タイムを作っては、領地内外のクエストやら討伐やらを楽しんでいられるのである。ありがたやありがたやー。(笑)
その内、家族が増えるのではないかと予想している。
いつもだったら、イチャイチャラブラブに突入してもおかしくない二人だが、今日は至って真面目な様相でいる。
妙な間があったので、問い掛けてみる。
「お父様? お母様?」
イケメンダンディーが渋い顔になる。
「……レスティーナに縁談が来ている」
「……はい? お父様、今何て言いました?」
私は何を言われたのか、瞬時に理解出来ず聞き返した。
「お父様は、貴女に縁談が来ていると仰ったのよ、レスティーナ」
おっとりと、しかし、ハッキリとお母様が私を見詰めて言う。
「……ええと、婿の打診ですか?」
一応、私はこの公爵家の跡取りである。弟が生まれるのであれば、嫁に行く事になるのは分かっている。
「……違う。王子の婚約者に欲しいと打診があった」
とても不本意そうに、お父様が言う。あぁ、イケメンダンディーの眉間にこれでもかと言う感じに皺が寄っている。苦悩してもダンディーは、やはりダンディーだわ。
などと思いつつも、冷静に突っ込み返す。
「あの……お父様、私はこの公爵家の跡取りですよね? なのに、王家に嫁入りの予定になるのですか?」
「そうだ。跡取りだと言うのに、何故か打診がきたのだ」
私の言葉に頷き返すお父様。
「お父様、お断りしましょう。最低でも、跡取りの弟が、生まれるまではお断りしてください。それに王家へいくなどというのは、私自身求めていません。王子が公爵へ婿入りするのなら分かりますが……」
実際に公爵や侯爵に降嫁する場合は、良くある事例だ。王子王女などは後ろ楯や、一族が王家に力を貸す事に対しての対価として。
ただある程度と言うか、綿密な根回しの上で大抵は行われるのに、杜撰としか言い様のない要請な訳である。
「断ってはいるが、陛下がどうしてもと言うのだ。一度会って話せば気に入ると仰っるのだ」
「なんですか、それ……自信過剰過ぎませんか?」
聞いていて不愉快に感じ、無意識に眉間に皺が寄ってしまう。
胡散臭いと即座に思った私は悪くないと思う。
「王命で一度会わせる様にと言われてしまってな……」
「あー、それは……」
しょぼんと項垂れ気味に言うお父様に、強くは言い返せない。王命を出されたら正攻法で断っても、断り切れない。
お母様はお父様を、そっと支える様にほっそりとした手でぽんぽんと腕を叩く。
「……分かりました。一度だけお会いします」
私は止められない溜め息を漏らして、承諾するしか無かった。
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