第9話
本日も快晴。
目が覚めると、カーテンの間から眩しい朝日が差していた。
背伸びをして起き、カーテンを開ける、
すると、清々しい青空が窓の外に広がっていた。
でも、気温的には暖かいはずなのに、どこか寒空に見える。
それは昨日の茉白を思い出しているからかもしれない。
あんなに好きなのに、ハーレム要員のひとりだなんて報われない……。
茉白を想うとつらくなる。
なんとか目を覚まして欲しいが、難しい気がする……。
何か手を考えなきゃなあ。
そんなことを考えながら、登校するために玄関に向かう。
そして、靴を履いたところで思った。
「流石に今日はいないよね?」
面と向かって色々ときついことを言ったから、さすがに嫌われていると分かってくれただろう。
今日こそは気持ちよく登校できそうだ。
少し寄り道なんてしちゃおうかな、なんて思いながら扉を開けると……。
「おはよう、黄衣」
「……懲りないですね」
さすがにいない、というのがフラグになってしまったのだろうか。
昨日あんなに険悪になったのに、何ごともなかったかのように現れるなんて、正気の沙汰とは思えない。
本当に人間ですか? 人外でしたか?
エクソシストに悪魔払いを依頼した方がいいかもしれない。
タウンページで探せるだろうか。
まったく、こいつはMなのだろうか。
何かしらの変態であることは間違いない。
こいつがゲスだと分かってもなお想い続けている茉白と話をしたこともあり、こいつの顔はいつもより三割り増しで胸糞悪いものに見えた。
「今日はずっと君といたいな」
「ずっと? 今日は水曜日ですよ?」
湧き出る嫌悪感に耐えつつクズに向き合う。
今日の好感度アップキャラのところに行かなくてもいいのだろうか?
もうMAXになったから、行く必要がないとか?
「昨日、君に言われただろう? 君のことは分かったつもりでいたけれど……そうじゃなかった。だから、もっと君を知りたいんだ。もう一度やり直せないかな。初めて出会った、あの羽を拾った時から――」
「…………」
羽を拾った時、か……。
噂の運命の羽をみつけたときに、一緒にいたのが神楽坂先輩で……私はとても嬉しかった。
まるでこの人が私の運命の人だと言われたように思えたから……。
今思えば、初めて見たあの瞬間に恋をしてしまったのだろう。
でも、この男は……神楽坂先輩は『偽り』ばかりだった!
「そんなの……もう、無理に決まってるじゃないですか!」
もしかすると、私の恋心だって『システム』という名の作り物だったのかもしれない。
何が『本当』なのか分からない。
いや、そんなことは最早どうでもいい。
嘘だろうが本当だろうが、関わりさえしなければもう苦しまなくてすむのだ。
「私に構わないで!」
そう叫ぶと、彼を置いたまま走って逃げた。
もうこれ以上、私を掻き乱さないでよ!
※
走って登校したため、肉体的にも精神的にも疲れを感じながら一限目の授業を終えた。
授業中は茉白のことを考えた。
……ゲスのことは考えない。
私の脳内では出禁だ。
茉白の「先輩がクズだと分かっていても愛せる想いの深さ」は素晴らしいが……だからこそ悲しい。
なんとか目を覚まして欲しいけれど、茉白には浮気写真作戦は通用しない。
何か他の策が必要だ。
できるだけ茉白が傷つかない方法で、クズの魔の手から救い出したいものだが、良い案は浮かばない。
そんなことばかり考えていたから、授業は全く耳には入らなかった。
休憩時間は短いが、談笑をしている友達の輪から抜け、廊下に出る。
少し一人になってゆっくりしたい。
窓から景色を眺め、風にあたる。
「はあ、涼しくて気持ちいいなあ」
「きいちゃん!」
「?」
男子に声をかけられ、少し驚いた。
でも、私に話し掛けてくる男子なんて一人しかいないので、すぐに誰か分かった。
「英君!」
景色に向けていた顔を英君に向ける。
すると、ちょっと緊張している感じの英君がはにかんだ。
「急にごめん、今話かけて大丈夫だった?」
「もちろん! ボーッとしていただけだから」
「なんだか疲れているように見えるけれど大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとう」
「あの、何か力になれることがあったら言ってね! じゃあ、また」
英君は何やら気合を入れてそう言ったあと、離れていった。
その先には数人の男子がいて、英君を温かく迎え入れている。
勇者の帰還をまっていた村みたいだ。
とっても楽しそうでいいなと思うけど……。
「何なの、あれ……」
「きい、ここにいたんだ~」
「あ、うん」
教室の中にいた友達が私を探してやってきた。
「ここ涼しいね。教室の中、めっちゃうるさい」
「だよね。だから、ちょっとのんびりしてたの」
「そうだったんだ? 行くとき声かけてよ。私も一緒にきたのに。気づいたらいないんだもん」
「ごめんごめん」
ここなら、あいつも来ないだろうし……ちょうどいいかなと思って、つい一人できてしまった。
「黄衣」
「ひっ!?」
私が悲鳴を上げてしまったのは仕方がないと思う。
来ないと思った瞬間に現れるなんて……こわっ!
……というか! 昨日と朝の流れで、どうして普通に現れることができるの!?
どういう神経してるの!?
どうすれば祓えるの!?
もう本当に、なんなのよ……!
「きゃ~! 神楽坂先輩~! 近くで見れて嬉しいです~! きい! ほら、神楽坂先輩呼んでるよ!」
友達が興奮した様子でバシバシ私の肩を叩く。
残念ながら見えてるから、そんなに呼ばなくても大丈夫です……。
クズは以前の私が見惚れたほどのイケメンなので、もちろん攻略対象やデート要員の女の子以外にも人気がある。
だから、友達も先輩を待たせるな! と圧力をかけてくるが……。
「私、今からお花畑に行ってきます」
「え? 今から!? 神楽坂先輩は!?」
友達とあいつを残し、私はトイレに逃げ込んだ。
トイレってあいつとエンカウントしない最高のセーフティエリアだよね。
ああ、安心する……。
鏡を見て髪を整えたりしながら、私は時間を潰した。
もう地縛霊より質の悪いクズという名の害悪は去っただろうか。
壁から頭だけを出し、こっそりと様子を覗く。
「先輩、どうしてこんなところに? まさか、私に会いにきてくれたんですか?」
おっと。近くで誰かの話し声が聞こえたので、慌てて再び身を隠した。
聞き覚えがあるこの声は……茉白だ。
……ということは、残念ながらあいつもまだ近くにいるということだ。
耳で探りながら、去ってくれるのを待つことにした。
不審者でごめんなさい。
「え? あー……うん。近くに来たから、茉白はどうしてるかなって……」
ほう? 一年生の教室が並ぶ廊下にいるのは、私を追いかけてきたのではなく、茉白に会いに来ていたと……?
じゃあ、さっき話し掛けてきたのは何だったのだ?
私はついでなの?
どっちが本当だとしても、適当なこと言いやがって……本当にゲスだ。
「嬉しい……ありがとうございます! あ、先輩。明日はどうしますか? 私、一緒に図書館に行きたいなって思っているのですが……」
明日と言えば木曜日、茉白の好感度が上がる日だ。
だから、木曜日に時間を共にするのが恒例になっているのだろう。
……以前の私の金曜日と同じように。
「あー……ごめん。明日はまだちょっと分からない、かな? また決まったら連絡するよ」
「……そうですか。分かりました。連絡、くださいね。待ってます……・」
まさか、私を追いかけるかもしれないから分からない、ということではないでしょうね?
それなら遠慮したいが、茉白とこのゲスが一緒に過ごすのも賛成できない。
本当に早く目を覚まして欲しい。
そんなことを考えている内に授業開始のチャイムが鳴った。
「じゃあ、茉白。またね」
「はい」
二人は別れ、クズも自らの巣に帰っていったようだ。
もう来ないでね~!
そう願ったのだが……。
次の休憩時間にも――。
「やあ、黄衣」
「ひいっ!! なんで~!!」
逃げても逃げても、休憩時間のたびにあいつは現れ、延々追いかけ回され続けた。
いよいよ身の危険も感じ始めた。
朝、目が覚めると、目の前にクズの顔が……『キャアアアァッ!!』なんて展開も起こりそうで怖い!
運命学園のジャンルは恋愛ではなくホラーになったのか!?
「あー、こわかった……ん?」
今の休憩時間も、なんとかあいつを撒いて教室に戻ると、仲の良い友達に取り囲まれた。
え? 何? 何!?
「ねえ、きい。葵先輩から逃げ回って……失礼だよ。喧嘩してるのか知らないけど、なんでちゃんと話を聞いてあげないの?」
「そうだよ。みんな先輩と仲良くできるきいのことが羨ましいんだよ? 嫌な感じ!」
「気に入られているからって、ちょっと調子に乗っているんじゃない?」
「え……? ええー……? いや、そんなことはないけど……」
本気で怒っているというわけではなさそうだが、みんな面白くなさそうな顔をしている。
遠巻きにこちらを見ている女子も同じような気配だ。
ええー……としか言えない。
そんなことを言われても、事情の説明をするのは難しいし……。
「あ、うん……その……嫌な気分にさせてごめん」
「じゃあ、仲良くする」なんてことは、嘘になるから口が裂けても言えない。
濁すような返事をして、その場はやりすごしたが……。
くそ~!! 女子を味方につけやがって……!!
教室が完全なアウェーになってしまったじゃないか!
居心地が悪……泣きたい!!
私の居場所まで奪うとはますます許せないぞ、神楽坂葵!
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