最終決戦

次元の扉

第108話 次元の扉 その1

 導きの家――って言うかハンター出雲支部について一夜が開けた。何となく寝付けないのもあって早めに目が覚める。時計は近くにはないけど、周りの明るさから結構早朝なのは分かる。

 二度寝しようかとも思ったけど、部屋の中がちょっと騒々しいのでそれでみんながもう動き始めているのが気配で分かった。使徒達がもう行動を始めているのに、自分だけが二度寝を決める訳にも行かないよね。と、言う事で私も目をこすりながら起き上がる。


「おはあ」


「今日から修行だぞ、分かってんのか」


 起き上がった途端にいきなり腹ペコマンからキツいお言葉が飛んできた。寝起きにそんな事言われても……。私はまだ完全に覚醒していない頭で反射的に反応する。


「分かんないよ、何をするの?」


「そ、それは……」


 この質問が意外だったのか有己は返事に詰まっていた。私はニヤリと笑うとジト目で反撃する。


「そっちも分かってないんじゃん」


「ぐ……」


 腹ペコマンの悔しそうな顔を見ていると気分も良くなって、私は背伸びをすると本格的に起き上がった。それからまずは洗顔に向かう。顔を洗ってしっかり起きてそこからは着替えだ。専用の部屋で寝間着からジャージ姿になるとそのまま部屋に戻る。

 すると、そこで龍炎が修行について話してくれた。


「使徒は使徒の、しおりさんにはしおりさんの修行があるんですよ」


「へぇ。そうなんだ」


「私達は私達でする事がありますので、しおりさんはハンターの方の指示に従ってください」


 その話によれば、今からは私と使徒達とは別行動になるらしい。彼の話し方からすると、使徒達も私の修行について詳しい事は知らないっぽい?

 その事をもう少し詳しく聞こうと、私は焦って口を開く。


「えっと……」


「では、私達は先に行きますね」


 どうやら龍炎達使徒組は先に行動を開始するようだ。よく見ると芳樹はもう部屋を出ていた。私は何とか話を繋げようと話題を探す。


「ご、ごはんは?」


「そうですね。私達は食事の前の軽い運動をしてきますので」


「あ、うん。いってらっしゃい」


 その言葉の勢いから何を言ってもうまくはぐらかされそうな気配を感じた私は、部屋を出ていこうとする彼らを見送るしかなかった。そうして少し出遅れていた腹ペコマンを龍炎は急かす。


「ほら、有己も行きますよ」


「お、おう……」


 こうして有己も出ていって、一気に部屋は静かになった。使徒達の修行って自主練みたいなものなのだろうか?それともこの修行も誰かからの指示?何も聞く間もなくみんないなくなってしまったので、私の頭の中は空っぽのままだった。

 殺風景な部屋の中で、まるで仲間はずれにされたような孤独感に包まれる。


「1人になっちゃった……」


 取り残された部屋の中で私はこれからの事を考える。大体、修行って何をするんだろう?疲れるようなのとかは嫌だなぁ。

 頭の中で滝行とかのキツい修行のイメージがぐるぐるループしていると、優子が私を呼びにやってきた。


「おはよ。朝ごはん……」


「ゆうこーっ!」


「わっ、何っ!」


 淋しくて泣きそうになっていた私はこの突然の親友の登場に感極まって思いっきり抱きついていた。その状況に当の親友も困惑している。私はそんな困った友達の事にお構いなしに一方的に話しかけた。


「朝ごはん一緒に食べよっ!ねっ」


「う、うん……」


 2人で並んで食堂に向かうと、既に朝食の準備は整っていた。そのメニューはご飯にお味噌汁に焼き魚にお漬物と純和風なもの。やっぱ朝はご飯だよね。

 2人で仲良く並んで食事をとっていると、この施設の責任者の人がニコニコと笑顔を向けてこの場に使徒がいない事について尋ねてきたので、私は今朝のゴタゴタをかいつまんで説明した。


「そうなんですね、もう別行動を」


「は、はい……」


 大体の話を聞いた彼は、その笑顔を変えないまま私に向かって話を続ける。


「じゃあしおりさんも頑張らなくちゃですね」


「え、えへへ……」


 今からどう言う事をするのかの見当もつかない私は、その言葉に愛想笑いをする事しか出来なかった。もしかして私の修行ってこの責任者の人――見た目30代くらいの面倒見の良さそうなおじさん――が担当してくれるのかな。それとも修行担当の厳しいおじいちゃんみたいな人が別にいるとか?

 事前に何も聞かされていない私は、色んなパターンを想像して目の前が真っ白になっていく。この様子を心配したのか、優子が声をかけてくれた。


「緊張してる?」


「するよ!だってまだ心の準備も出来てないのに」


 私が今の気持ちは勢いよく吐き出すと、親友はうんうんとうなずいてその思いを受け止めてくれた。そうして私の顔をじっと見つめる。


「人生ってね、準備を待ってくれないものなの」


「おおぅ……」


 その何となく深イイ含蓄のありそうな言葉に私は感心する。確かに今までもそうだった。こっちが準備をする前にトラブルの方が先にやってきたんだ。

 何だ優子もたまにはいい事言うじゃん。と私が目をキラキラと輝かせていると、親友は更に言葉を続けた。


「だから何が起こってもいいように先に準備しておかなくちゃ。避難訓練みたいに!」


「そ、そだね」


 成る程と膝を打ちつつも、その避難訓練と言う分かりやすい言葉のチョイスに私は優子らしさを感じる。このやり取りで少しだけ心の余裕が出来た私は、朝食を何とか味わいながら食べきる事が出来た。緊張していた時は味なんて分からなかったからね。精神状態って大切だなぁ。

 食事が終わるのを見計らって、私達の前にまたさっきの責任者のおじさんが近付いてきた。


「では、食事の後片付けが終わって準備が出来たら講義室に来てくださいね」


 で、おじさんが伝言を伝え終わって食堂を出ていった後、私は思わず優子の顔を見つめる。


「べ、勉強会とか、なのかな?」


「まぁ、必要最低限の知識は必要だろうし……」


 どうやら彼女も私が今から行う修行の内容について少しは知っている様子。それならばと私は思い切って質問を飛ばした。


「優子も一緒に?」


「私は付き合わないよ」


「だ、だよね~」


 やはり私の小さな願望は叶えられなかった。私には私だけの役割があるんだから、他の人が付き合ってくれる訳がないよね。ああ、孤独だなぁ。

 ショックでうつむいていると親友は優しく肩を叩く。


「修行はしおりひとりだけだけど、頑張ってね。応援はしてる」


「あ、ありがと……」


 彼女の声援を受けて私はこの施設の講義室に向かう。講義室と言うのは、主に勉強したり話し合いをする時に使う部屋らしい。私はそこで何をするのか何も具体的に聞いてはいないので、とりあえずノートと筆記を用具を持参してその部屋に向かった。


 部屋に入ると予想通り責任者のおじさんが待っていて、私はそこで見慣れない機械を目にする事になる。パッと見、ゲームかなんかのVRっぽい装置だ。もしかしてアレを使うのかな?

 部屋にはおじさんとその機械しかなかったので、必然的に私はその機械の前に座る事になった。うわあ、緊張するよ。


「さて、では今から最終決戦に向けてのしおりさんの役割を説明します。あなたには光と闇の融合を果たしてもらわねばなりません」


 うお!いきなりの無茶振りだよ。このとても出来そうにない要求に私は反射的に声を上げる。


「出来ません!」

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