第96話 封印の真実 その2

 身長は180cmはあるだろうか、結構ガタイはいい。そうして流石光の神の代行者を任されているだけあって、その体から発生するオーラは光り輝いていてまぶしいくらいだった。


「来ましたね。待ってましたよ」


「あ、あなたが……?」


「ええ、私がこの神域を任されている天神院聖光です」


 相手側から自己紹介されたので、こちら側もそうしないといけないような雰囲気になり、まず私からと勇気を出して声を上げる。


「は、はじめまして!の、野中しおりです……っ!よろしくお願いしますっ!」


「はは、こちらこそよろしく。どうか緊張せずに、足を崩してください。あ、場所を変えましょうか?」


 私の緊張が伝わったのか、聖光はニッコリ笑うと私達に向かって話しかけた。話し方や口調から見ても全然悪い人には見えない。名前の通りの聖人にしか私には見えなかった。彼の言葉に芳樹はぶっきらぼうに返事を返す。


「いや、ここでいい」


「そうですか」


 使徒達は足を崩して聖光と向き合った。向かい合った光の神の代行者は正座をしている。ここでまだ自己紹介をしていなかったのがバツが悪かったのか、使徒達が続いて自己紹介をし始めた。


「初めまして、私は紫藤龍炎です」


「俺は遠藤芳樹だ」


「近藤有己……」


 みんな、名前を言うだけの簡単な自己紹介だ。今はそれで十分なのかも知れない。どうせ個々の詳細な情報は相手側も全て調査済みなんだろうし。何せ使徒と交流しているんだもんね。

 私のこの想像を証明するかのように、聖光は目の前の使徒の事を知っている風な雰囲気で喋り始める。


「使徒の中でも選りすぐりの御三方ですね。流石です、素晴らしい潜在力を感じます」


「あの、話を伺っても?」


 お互いに自己紹介が済んだと言う事で、早速使徒の中から一番物腰の柔らかい龍炎が口を開いた。この動きに聖光は静かに微笑みを浮かべると、優雅に手を差し出すジェスチャーをして話の続きを促す。


「ええ、何なりとお聞きください」


「単刀直入に言うぞ、お前は何故我が主を?」


 何故か龍炎が口火を開いたその質問の続きを有己が答える。話した相手が変わったのに聖光は眉ひとつ動かさずにその言葉を飲み込み、その質問に答える。まるで台本にそう書いてあったかのようにその言葉はとてもシンプルだった。


「時期が来たからです」


 この言葉の意味について私はさっぱり分からなかったけれど、次の瞬間からまるでお通夜みたいに静かになったので、私は今までずっと疑問に思っていた事を聞こうと、思い切って声を上げる。


「えと、それで、あの、えっと……」


「落ち着いてください、時間はあります。大丈夫ですよ」


 焦ってうまく言葉の出ない私を、光の神の代行者は優しく導いてくれた。私は一旦深呼吸して落ち着くと、シンプルに聞きたい事だけを口にする。


「何故私なんですか!」


「縁が深かったからです。全く繋がりがない人間に神は懸かれません」


「やっぱりこれって神懸かりなんですか?」


「ええ」


 彼はすぐに私の質問に答えてくれた。この答えが正しいものなのかどうかは正直分からない。ただ、天神院側の公式見解ではそう言う事になっているのだろう。

 それにしても闇神様と縁が深いって私って一体何者なの?私の一族のご先祖浜が特別だったりするのかな?そんな話は今まで一度も聞いた事はないんだけど……。


 私がこの謎について腕を組みながら考えを巡らせていると、さっきまで動きのなかった龍炎からまた質問が飛んだ。


「話を戻しますが、時期とは?」


「次元の扉の開く時期です」


 ハッキリきっぱりと断言したその言葉に、使徒達はハッと何かに気付いたような顔をする。龍炎と有己はその言葉にショックを受けたのか、何も喋れないでいたみたいだけど、芳樹はここで意味ありげに独り言をつぶやいた。


「ああ、やはりか……」


 聖光のその言葉を確かめるように、もう一度龍炎が質問する。


「それはずっと伝承されていた……?」


「はい」


 この質問を受けた聖光は軽くうなずいて肯定する。一連の中二病っぽい言葉の応酬についてこれていないのはどうやら私だけみたいで、ひとり混乱して顔を左右に動かすばかり。


「え?え?」


 そんな私の混乱をよそに、部外者お断りの会話は続いていく。光の神の代行者は両手を動かしながら、更に意味ありげな言葉を語り続けた。


「私達は時期を待っていました。その時期までに勢力を弱める訳には行かなかったのです」


「そう言う事だったのかよ……くそっ!」


「え?ちょ、どう言う事?」


 あのニブチンの有己までがこの話をしっかり理解していて、私の疎外感は半端なかった。どうしてみんな私に説明してくれないんだろう?私を置いて話を進めてしまうんだろう?私だって関係者のはずなのに。誰か私にも詳しく解説してよ。

 と、心の中ではそう思っても、この重苦しい雰囲気の中でそれをハッキリ伝わる言葉で言語化する事は出来なかった。そんな私の様子を見た聖光は少し不思議そうな顔をする。


「しおりさんはまだ聞いていないんですか?」


「な、何がですか?」


「あなたの中に宿る神様からです」


 自分の中に宿る神様って、闇神様の事だよね。彼がそこに言及すると言う事はつまり、本来は闇神様から私は詳しく事情を教えられているはずだったって言う事なのだろう。

 闇神様はクアルに力を奪われたあの日以来、特に会話らしい会話をしていない……と、思う。どうだったかな。記憶があやふやな部分はあるけど、ここは何も聞いていない体で話を進めよう、うん。


「いえ、闇神様からは何も……」


「そうでしたか……。だとすると、まだ時期が早いのかも知れませんね」


 彼は私のこの返事を聞いて少し残念そうな顔をする。残念なのは意味が分からないこっちの方だよ!と、言いたいのを何とか我慢して、私は今の自分の気持ちを正直に聖光に伝える。


「あの、さっきから話が全く分からないです」


「しおりさんの中に宿る神様こそが事情を一番良く御存知なのです。だから時期が来たら詳しく説明されるはずなのですよ」


 彼の言葉はとても分り易く、だからこそ残酷でもあった。私はその話を聞いて頭の中で軽く計算する。そうして、気がついた時にはそこから導き出された答えを思わず口走っていた。


「えと……、つまり、今の私にはまだ何かが足りないから話してくれないと?」


「多分そう思います」


 その予想をあっさり肯定されて私は混乱する。私は闇神様に勝手に宿られた被害者であって、今まではその立ち位置で旅を続けてきた。巻き込まれただけだとそう思っていた。そう思えばこそ気も楽でいられた。

 もしかして、これから私は無責任な傍観者ではいられないのかも知れない。本当は何か大事な役割を背負わされているのかも知れない。だとしたら責任は重大だ。ただの女子中学生じゃなくなってしまう。


 ただ、今までそれを実感する事がなかったのもあって、素直に認めてしまうのも何か違う気がした私はささやかな抵抗をした。


「わ、私は普通の人間です!これ以上何を……」


「しおりさん、あなたは普通ではありません。少なくとも今は」


「で、でも……」


 聖光の言う普通ではないと言う言葉の意味が、闇神様を宿していると言うだけの意味なのか、それともそれ以上の意味なのか、今の私には全く判断がつかなかった。

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