第51話 再来襲 その4

 今がその時だと判断したカーセル博士は早速操作盤を操作しながら職員に指示を出す。その指令は光の速さで27号に伝えられ、防戦一方だった敵はついにその凶暴な牙を使徒2人に向けて開くのだった。


「ギュワオオオオオオ!」


「な、なんだ?!」


 この敵の急変に戦闘狂だった有己も思わず攻撃の手を止める。嫌な予感を感じた龍炎がすぐに彼に声をかけた。


「いけません!有己、離れて!」


「うわああああああ!」


 しかし時既に遅し、攻撃の為に敵に近付き過ぎていた有己は敵の口から放たれる謎の光線をまともに受ける羽目になってしまう。

 防ぎ切れない程の高出力エネルギーを前に、彼が腕で顔をガードしながらその攻撃に耐えようとしたその瞬間だった。大事な主を守ろうと眷属が勝手に有己の前に現れたのだ。


「ピギィィィィ!」


「カール!」


 カールによって突き飛ばされた彼はそのままの勢いで海に向かって落ちていく。そうして突き飛ばした方のカールは敵の攻撃を受け、身動きが取れなくなったところで大口を開けた敵にそのまま取り込まれてしまった。


「えっ、そんな……」


「眷属が……食われた?」


「くそっ!なんて奴だ……」


 この状況に流石の龍炎も呆然としている。まさかこんな事になってしまうなんて……。眷属を取り込んた敵は動きを止め、消化でもしているのか体が全体的に不気味に動いてた。

 龍炎も、落下した後、すぐに海から顔を出した有己もこの異常事態に何ひとつ有効な手を打てないまま、事の成り行きをただ注意深く見守っていた。


 この結果に対してはラボの方でも想定外の出来事であり、カーセル博士のいる制御室内では大混乱に陥っていた。


「敵本体の取り込みに失敗しました!」


「ちっ!イレギュラーか。取り敢えずそいつのデータを取り込め!何かの役には立つ!」


「解析開始します!」


 そうしてラボでは早速取り込んだ眷属のデータを解析し始める。実験体の身体の中で分子レベルにまで分解された眷属はエネルギー単位で構造を分析され、カーセル博士の提唱した理論との照合が図られる。

 データ解析は実験体の能力のひとつではあるものの、これをしている間、実験体は解析に全てのエネルギーを使わなければならず、その為、現地では動く事すら出来ない状況になっていた。


「有己!今がチャンスかも知れません!追撃を!」


 眷属を取り込んだ敵はずっと空中で停止している。ある意味、一番無防備な状態だ。これを好機と捉えた龍炎がまだ海に浸かっている有己に声をかける。

 その言葉で正気を取り戻した彼はすぐ返事を返してその通りにしようとする。


「ああ、わかっ……!」


「キョワアアアアアアアアアアアッ!」


 有己が空中で停止して木偶の坊状態になっている敵に向かって飛び上がったその瞬間だった。敵はまたしても大口を開けて叫び声を上げる。その刹那、敵の体からものすごくまぶしい光が発生し、私達の視界を真っ白く染めていった。


「うわっ!」


 それが何の光か分からないものの、私達はその光を前に一切抵抗出来なかった。空を飛ぶ2人の使徒も力を失って浜辺に落下していく。闇神様の使徒だもん、光に抵抗力がある訳ないよね。私もあまりの眩しさに身動き取れないし。やばいわ。もしこの状態で敵が襲って来たら……。

 目を瞑っている間、私はどうか何事も起こりませんようにと何かにすがるように必死に祈っていた。

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