ヒーロー基地から再始動

秘密基地へようこそ

第62話 秘密基地へようこそ その1

「新しい仕事場?」


「ここは最初から仮だったんだよ、実は」


「初耳ですが」


「まぁ、初めて言ったし」


 所長の話す話は何もかもが初耳だった。まぁ、この所長、前から何考えているか分からないところがあったけど。今までの付き合いから彼女の性格はある程度把握しているし、もう一々驚きはしない。大事なのはこれから何がどう変わるかと言う事だけだ。

 見たところ、所長は自信たっぷりな顔で得意気に話している。こんな時に俺が取る行動はただひとつ。全てを受け入れて前に進む事。どうせ拒否権はないだろうし、まずその新しい仕事場って言うのに興味があるし。


「で、どこなんですか、その新しい事務所って」


「事務所じゃないよ」


「は?」


「基地よ!やっぱりヒーローは基地にいなくっちゃ!」


 所長は目を輝かせながら"基地"を強調する。彼女がヒーローに憧れていたのは知っているし、だからこその発言だろう。

 しかし、基地と言うのはちょっと大袈裟なような……いや、彼女の事だから有り得なくはないけど。俺はその新しい仕事場の具体的なイメージが全く思い浮かばす、大きくため息を吐き出すと腕を組んだまま呆れていた。


「はぁ……まぁ呼び方は正直どうでもいいです」


「ついて来て」


 要件を言い終わった所長はその基地とやらに俺を案内する。事務所の階段を降りていくと見慣れない新しいドアがあって、そのドアの脇の承認装置に彼女は手を合わせる。

 承認が済んでドアの先に進むとそこはエレベーターになっており、俺達はそのまま地下へと降りていく。そしてその先には謎の大きく広い地下通路が広がっていた。この道がどこから伸びてどこに続いているのは全く見当がつかない。


 俺がこの突然の展開に戸惑っていると、所長は用意されていたらしい流線型のつやつや光る真新しい車に乗り込んだ。


「さ、乗って」


 この誘いに対してどうしたものかとしばらく考えたものの、他に選択肢もない為、当然のように俺も同乗する。2人が乗り込んだところで車は動き始め、この地下通路を勢い良く走り始めた。きっとこの車の進む先に所長の言う新しい仕事場があるのだろう。


「あのオンボロビルの地下がこうなっているとは……」


「そもそも最初からこのルート上にあのビルがあったからあそこを仮の出張所にしていたのよね」


 今明かされる衝撃の真実。所長の話は初めて聞く事だらけだ。まだ理解が追いつかないところもあるけど、今は事実だけを受け入れる事にしよう。

 人工的な地下通路は景色の変化に乏しい。最初は物珍しくて目に映るもの全てが新鮮でそれだけで興奮していたけど、やがてその景色にも飽きてくる。


 そうなると色々疑問も浮かんでくる訳で、それを思いついた順に口にしていく。まずは今乗っているこの乗り物からだ。


「この自動操縦の車も君が?」


「当然」


 車には操縦席もついていたけれど所長は助手席に乗り、俺は後部座席に座っている。一足先に実用化された自動操縦のこの車も彼女が作ったものらしい。

 とは言え、車の通行がこの地下通路専門ならば既存の技術でも制作は十分可能だろう。他の車も通行人も交差点も信号すらないのだから。


 しかしそれにしても何もかもスケールが違いすぎる。地下通路を作ってしまうとか、完全に国家事業レベルじゃないか。


「やっぱり君は何者なんだよ、大富豪のお嬢さんとか?」


「ま、そんなところ。好きに想像しててよ」


「俺は真実を知りたいんだって」


 所長の正体は今までも何度も質問してその度にはぐらかされて来た。俺は今回こそと思ってもう一度チャレンジしたものの、相変わらず具体的には何も答えてはくれなかった。


「私は天才科学者、人類の宝。それ以上の事を知る必要はないの」


「秘密主義だなぁ」


 彼女が心を開いてくれないのは何かの事情があるのか、信頼されていないだけなのか。これ以上の追求が無意味な事は知っていたので、俺は話題を変えて世間話的な事やスーツについての話とかを懸命に喋った。所長も話せるところはちゃんと会話をしてくれて、思いの外この談義は盛り上がる。


「ほら、見えて来た」


「おおお……マジで基地か……」


 30分位は走っただろうか。地下通路はその後分かれ道に入り、やがて気がつくと知らない島の道を走っていた。そうして進行方向上に昔のロボアニメで見るような立派な造形の建物が視界に入ってくる。この島自体が無人島のようで、基地以外の建物は見当たらない。


 キョロキョロと俺が周りを見回している内に車は基地内の駐車場に止まった。それから俺達は車を降りて早速この基地の中に入っていく。今までオンボロビルで仕事をしていただけに、基地の新しさや大きさに感心するばかり。

 清潔感溢れるエントランスを抜けて所長は歩いていく。彼女が歩みを止めないので俺も遅れないようにと後に続いた。


「そもそも施設をこんなに広くする必要あったのか?」


「お待ちしていました、博士」


 俺が話しかけた所で、見慣れない人影が所長に挨拶をする。若い女性で白衣を着ていて、髪はショートカットのいかにも科学者っぽい雰囲気だ。どうやらこの基地のスタッフのようだけど……。今まで事務所には所長と2人きりだったから、誰か別の人がいると言うだけで新鮮だ。

 この基地は大きめの学校程の広さがあるみたいだから、多くのスタッフが働いていても別に不思議はないんだけど。


「誰?」


「この基地のスタッフ。紹介しようか」


 所長が紹介しようとしたところ、彼女は慌てて喋り出した。


「しょ、紹介なら自分でします!道永モモ、24歳、当ラボの主任研究員を務めていますっ!」


「えっと、俺は……」


「徳田さんですよね。該当データは把握済みですっ!」


「はぁ。そりゃどうも……」


 モモは緊張からか相当早口でまくし立てる。俺はその勢いに圧倒されてうまく言葉が出てこない。ただ、彼女の言葉の中に引っかかるものを感じて、頭の中で一度情報を整理した。


「ん?ラボ?ああ、そう言う事か。スーツの研究とかここでやってたんだ」


「だから基地だって。基地が研究所を兼ねているのって普通じゃない」


「その古臭いロボットアニメみたいな知識はどこで覚えたんだ……」


 所長が飽くまでも基地と言う言葉にこだわるので俺はツッコミを入れる。彼女の頭の中のヒーロー像は戦隊モノなのかも知れない。

 だとすればこの敷地の何処かで巨大ロボなんかも建造していたりしそうな――基地が本格的過ぎるから有り得なくもないぞ、こりゃ。


「では、早速案内しますね」


 モモの案内で俺達は基地の説明を受ける。やはりベースは研究所のようで、研究者の関わる部屋が多かった。それ以外の部屋は居住スペース、娯楽室、食堂、作戦会議室、戦闘シミュレーション室、倉庫……本格的過ぎて俺はただただ圧倒されるばかり。

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