第4話 欲求
さて。妹の話をしよう。
中学生。セーラー服。まだまだ幼い顔に幼い体つき。
その容姿は特別美人だとかかわいいとかいうこともなくいたって平凡。
おまけに勉強やスポーツの出来も平凡。
まさしく平々凡々。
その点は僕と同じだといえる。
――しかし。
勉強やスポーツといった点を僕が今の地位に保つよう意識しているのに対し、妹がそのようなことを意識し励んでいるとは到底言い難い。
今の妹の姿というのはおそらく妹が好きなように勉強をし、好きなように運動をした結果なのだろうと、僕はそう考える。
妹は、完全なる無垢であった。
彼女は基本的に自分の感情をそのままに表現してくることが多い。少なくとも兄である僕の前では。
素直とも呼べるのか。
妹は先ほどのように見るからに怒ったり、ある時には泣いたり、そうかと思えば体全体を使って笑ったり、様々な感情の起伏を体現してくる。
それではその感情の起伏というのが果たして僕には具わっているのか?
――否、具わっていないに違いない。
喜怒哀楽を容易に見せる妹を僕は心のどこかで軽蔑していた。
冷ややかに、見下していた。
どうかしたら、すべての人間の愚かしさを具現化したものがここに存在しているのではないかと、そう思わずにはいられなかった。
もちろん僕にもまったく感情がないというわけではないけれど。
自分の感情をいとも簡単に他人に見せるその姿は、まるで自らを庇護してほしいとでも言っているような、そんな気がしてならないのだ。
実際、すぐ泣きすぐ怒るような者はいつだって誰かに気を遣わせ、意識的にか無意識的にか自らの思い通りに事を運ばせようとする。
それは当の本人にとっては素晴らしく自由な生き方なのだろうが――。
おぞましい。
吐き気がする。
そんなやつを見ると、僕は例えば泣き顔をまとったその皮膚を剥がしてズタズタに引き千切ってやりたくなる。
その奥に隠れた醜い姿をさらけ出したくなる。
――“醜い”?
いや、もしかすると皮膚の下に潜む淡い桃色の肉の方がよっぽど綺麗で美しいのかもしれない。
ああ、見てみたい。
そんな欲望が僕の身体を這いずり回る。
きっと表層が醜ければ醜いほど、その内面――深層を垣間見た詠嘆は例えようもないほどの甘美に満ち溢れている。
穢れた人間の器をはがした後に残されるものは果たしてどんなに清く美しいものなのか。
おそらくその人間の人格、醜さをすべて忘れてしまえるほどに僕は深く心を動かされるに違いない。
僕はきっと、いつか人を殺すのだ。
憎らしいとか恨めしいとかそんな理由ではなく。
ただ純粋に僕自身の欲求を満たすために。
穢らわしい器に潜んだ、優美な麗しきそのものを、一心に求めて。
ただそれだけのために、僕は人を殺すのだ。
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