天上の甘露

天上の甘露


 狭い堂の中、仏師は顔をしかめた。天上の甘露は、唇にあたって弾け飛んだ。

「惜しいね」

 薄衣を翻し、柔和な笑みの人型が宙を舞う。

「主人は、君たちが虚像を彫って祈り続けたのを哀れに思い、永遠の命、若水を与えよと言った」

 でも私は従いたくない、と人型は柳眉を顰める。

「こんなことは初めてだ」

「逆恨みか」

「そんな感情が悟りの世の者にあるとでも」

 人の頬に弾けた水滴を舐めた獣が、輪郭を揺らがせて消える。獣を返してほしいが、人型は不可逆だと答えた。

「お前達の永遠は、私の望みではないな」

「意見が一致した」

 堂に静寂が戻る。人型は木屑散る木像に戻り、甘露は涙のように像と人の頬を這うばかり。

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