おやすみなさい、良い夢を

おやすみなさい、良い夢を


 悪い夢を見ると、羽が生えてくる。

 夜更け、肩甲骨に違和感をおぼえて、寝返りする。あぁやっぱり。生えている。体の両脇から背中に手を回す。右手にも左手にも、もさりとしたものが触れた。

 苛立ちに任せて引きちぎろうとすると、とんとん、窓ガラスを柔らかく叩く音がする。

 思い切り息を吐き出して、立ち上がって窓を開けた。

 窓の外には、子どもの象みたいな、遊園地にありそうなちぐはぐのカラーリングの何かが、申し訳なさそうに立っている。

「こんばんは」

 話しかけてやると、子象は表情を明るくして、頷いた。

 こちらが背中を向けると、その、しっとりとしたひづめで、こちらの体をなぞっていく。

 ぞぞり、ぞぞり、羽が削がれる。

 ひづめが離れたので子象に向き直る。子象は大きな白い袋に、羽を詰めているところだった。袋には、「あなたの夢、回収します。どんな夢でも。バク営業所」と書かれている。蛍光色の電話番号を見つめていると、子象が頭を下げて、窓際を離れた。

 おやすみなさい、良い夢を。

 たぶん、袋の中のどの羽よりも、綺麗な羽だった。そのことが視界をちらついて、目がさめるまでは覚えていた。

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