輝きの石

輝きの石


 輝石を腹に隠している。ひとの皮を被っているけれど、私達の本体は石。ひとの皮は、石の表面をさざなみのように覆い隠す。ただ目にだけ、体内の石の色が出る。


 雇われの身で仕事をこなすうち、銃口を向けた相手に皮の内側を知られることもある。

「どうして人に化ける?」

 聞かれたけれど、うっすらと笑い、引き金を数回引く。

 大抵の相手はすぐにその命を終える。けれど今回の相手は、軽々と避けた。

「答えが分からないと死ねないな!」

「へ理屈を……!」

 ドアを蹴り開け、相手が部屋の外へ。廊下の窓を躊躇なく割って、高層ビルから飛び降りる。

「逃げられる訳にはいかない」

 見下ろした先に人影はない。

「どこへ行った……」

「捕まえた」

 声を認識した途端、首に力がかかる。相手は落ちていなかった。窓の外、上にはりついて、室内へこちらを蹴り込んでくる。

「ねえお嬢さん、俺と組まないか?」

「お断りだ」

「君の働く理由如何によっては、君の雇い主より、俺の方が有利な条件を提示できるかもしれない」

「戯言を」

「戯言さ。君の雇い主は俺が邪魔、ということは、俺の方が有利なんだろう」

 言いくるめられる訳にはいかない、この石のことを知る者は、少ないに越したことはないのだ。

 何人もの仲間が砕かれたり、檻に保管されているのだから。

「へえ。そう。お友達を取り戻したいのか」

「!」

「君は表情を取り繕うのが下手だな。中身が石とは思えない」

 銃を取られ、手足をもがれる。

「かわいそうなことをしているとは、まあ思うよ。痛いかい?」

「くたばれ!」

「外側はひとの皮に似せてあるな。誰かが作った?」

「作られてなんかない」

「自然にこの形になるのか。面白いな」

「面白くなんか、ない……!」

 無礼で野蛮な相手は、にこにこしている。

「さて君。組まないか?」

 その、威圧。


 かくして輝石は雇い主を強制的に乗りかえさせられ、新しい仕事を手に入れる。

「君の仲間を探しながら、あちこち潜入捜査もできる。何て一石二鳥だろう!」

「産業スパイはもうやらないぞ……」

 新たな雇い主、親の七光りの会社経営者は、ふらふらとあちらこちらで頼まれごとをしては、気まぐれに探偵まがいのことをする。

 いくつかの石を回収しながら、輝石の仕事は続いている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る