第69話 レアアイテム争奪戦 その3
そんな異世界に気持ちのよい風が吹き抜け、泰葉達の頬を優しく撫でるのでした。
森の探索隊は探しても探してもお宝が見当たらず、半分ヤケになりながら森の中を進んでいました。この森も動物の気配がないのは一緒でしたが、泰葉と違ってそれを変に思う人はいません。
現実世界の森なら危険な動物の対策もしなくてはいけませんが、そう言う意味で言えばこの森はただ蒸し暑いだけでとても安全な森でした。
「アイテムどこだー」
「アイテム出てこーい!」
「みんな、こっちっス!」
ここで少し先を歩いていたルルが何か見つけたようです。彼女の声を聞いた2人がその場所に行ってみると、そこにあったのは美しい森の泉でした。
その風景を目にしたセリナは思わず感想を口にします。
「おお、お約束の泉だ」
「ここの空気は気持ちいいね~」
「水も美味しいっスよ!」
森の中は蒸し暑いはずなのに、この泉の周りだけは心地良い空気が流れていました。先にこの場所に辿り着いていたルルは、泉の水を手ですくって既に味も確認済みです。森の他の場所とあまりにも違うこの環境にゆみが訝しみました。
「まさか、この自然がレアアイテムとか言わないよね」
「あはは……まさか」
「あっ!何か沈んでいるみたいっス!」
泉に顔をつけてリフレッシュしていたルルがその水の底に何かを見つけたようです。その報告を聞いたセリナはこの新たな情報に驚きます。
「え?嘘?」
「マジか……でもどうする?泳いでいくのは……」
「私に任せるっス!」
2人がその情報に対してどんな行動を取るのか戸惑っていると、ルルがいきなり泉に飛び込みます。その行動の余りの速さに2人は彼女を止める事も出来ませんでした。
「ちょ、ルル!」
「うわあ……流石能力強化系……」
ルルの超人的な能力はこの場面でも大活躍します。彼女は自分が見つけた何かが沈んでいる場所まで一気に泳ぎつきます。そのスピードは目を見張るものがありました。その様子を見たゆみは感心して言葉を漏らします。
「彼女、本気でやったら水の上も歩けそうだよね」
その場所についたルルは軽く息を吸い込むとそのまま潜っていきました。それから彼女はあっと言う間に沈んでいた何かを拾い、心配しながら待つ2人の元に戻って来ました。
「とったどー!」
「まずはひとつだね」
まだそれがおばあちゃんの言っていたレアアイテムかどうかは分からないものの、3人はそれがお宝だと信じて疑いませんでした。泉から上がったルルは衣服を乾かしながら持ち帰ったそのCDケース程の大きさの箱をじっくりと観察するのでした。
「歩けども歩けども……」
「見つからないデスネ」
「こんなだだっ広い草原に何かあったらすぐに気付くものなのに……」
森探索隊はお宝を見事にひとつ見つけたようですが、草原探索隊はまだ辺りを探し回っていました。
「ごめんなさい。私が違う道を行こうって言ったカラ……」
「アリスのせいじゃないよ!私も賛成したんだから!」
「こうなったら私の能力デ……」
いくら探しても埒が明かないと判断したアリスは、自分の能力を使う事を決断します。その言葉を聞いた泰葉は焦ってそれを止めようとしました。
「駄目だよアリス!力を使ったら……」
「大丈夫デス。アレから力の使い方も分かって、時間内なら自由にオン・オフ出来るようになったんデス」
「って事は?」
にっこり笑って説明する彼女の言葉を聞いた泰葉は、それが具体的にどう言う事なのか知りたくて思わず聞き返しました。
「一瞬だけ使うとか、そう言うコントロールも出来るようになりマシタ。だから索敵でちょっとずつ能力使うとか出来るんデス」
今までのアリスは、能力を発動させると制限時間いっぱいまでその力を使い続けていました。
ですが、その後の努力で、この能力を自分の意思で自由に使えるようになったようです。制限時間自体は変わりませんが、1分ずつ10回使うとか、そう言う事も出来るようになったのでした。
説明を聞いて理解した泰葉は、自信満々なアリスの顔を見て安心します。
「そうなんだ。アリスに負担がかからないなら……」
「お任せアレ。いきマス!」
泰葉の許可を得た彼女は、目を閉じて早速自慢の能力を開放します。能力での索敵を開始して30秒後、何かを感じ取ったのかアリスはカッと目を見開きました。
「ありマシタ!こっちデス!」
「マジで見つけたの?アリスすごい!」
2人は早速彼女が見つけたと言うその場所まで歩きます。探し回った場所からかなり外れた所にそのお宝はありました。どうやら今まで散々見当違いの場所を探していたようです。
その場所に着いて見事にお宝の入っているであろう小箱を見つけて興奮した泰葉はそれを拾い上げ、思わずゲームのキャラみたいに空に掲げました。
「本当にあったよ。ゲームっぽいところとかおばあちゃんらしいな」
「本当に私が開けていいんでスカ?」
「勿論、だってアリスのお手柄だもの」
泰葉は見つけたお宝をアリスに渡しました。彼女は渡された小箱をしばらくあらゆる角度から眺めて感心しています。箱に施された手掘りの見事な彫刻は、中に入っている物がかなりすごい物であろう事を想像させるのに十分なものでした。
森探索組のルルはついに決心をして、自分が泉の底から持ち帰ったお宝の入った箱を開けます。その中に入っていた物を目にして、外野の2人の方が興奮して声を上げました。
「これはっ!」
「ペンダント?」
そう、その箱の中に入っていたのは可愛らしいペンダントでした。シンプルなデザインで美しい青い天然石がはめ込まれたそのペンダントは、見ようによってはまるで魔法のアイテムのようにも見えます。
箱を開けた当初はみんなそのペンダントをじっと見つめるばかりでしたが、ゆみがそれを手に取るとルルの顔をじっと見つめます。
「つけてあげる」
「わ、私が身に着けていいっスか?」
「当然!だってルルが見つけて来たんだもの」
「有難うっスー!」
ゆみの手によってペンダントはルルの首に飾られます。体育会系の彼女でしたが、そのペンダントはルルにとても似合っていました。
これがレアアイテムと言うのなら、身に付けた時に何か変化があるかも知れません。それを期待していたセリナは身に付けた感想を彼女に求めます。
「どう?何か感じる?」
「……何も感じないっスねぇ」
「えぇ?どう言う事だろ?」
求めていた答えと違うものが返ってきて、セリナは困惑しました。しばらく腕を組んで考え事をしていましたが、この問題に答えが出るはずもなく、仕方がないので考えを改めて前向きに進む事にしました。
「ほ、他のお宝も探してみようか!まだこの森のどこかにあるのかも。ほら!全部集めて初めて効果が出る系かも知れないし!」
「じゃあまた気合い入れて探すっス!」
こうしてセリナ組は、まだどこかに眠っているかも知れない他のお宝を探す事にします。ひとつとは言え、レアアイテムが見つかったと言う事で、チームのモチベーションは上がります。
こうして、3人はもっともっと森の奥に進んでいくのでした。
「カード……デスネ」
「何だろうね?何か力が宿ってる系かな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます