第34話 空から降るもの その6

 駐輪場からその石のある場所に行く道には階段が作られていて、やっぱりみんなで雑談をしながら登っていく。石の置かれている場所は石を中心としたちょっとした広場になっていて、そこから見える景色も中々に見事なものだった。マール達が来た時も既に20人程度の観光客がそこから見える景色を楽しんでいた。


「じゃあみんなで触ってみようか」


 マールの呼びかけにみんなそれぞれのポジションから一斉に石に触れる。その行為自体は観光名所のお約束のようなもので、普通は触ったからって何かが起こるなんて事はない。今回も触っても何も起こらなかったねって事で話を終わらす予定だった。その予定だったんだけど……。


「あ……っ」


 みんなで石に触ったその瞬間、空に異変が現れた。虹色の何かが急に空中に出現したかと思うと、それが次々に海へと落ちていく。しかもそれは物質的存在じゃないのか海に落ちるとそのまま波紋も起こさずに海を虹色に染めていく。見れば見る程不思議な光景だった。その現象はその場にいた観光客も全員が目撃していて、ちょっとした騒ぎになっていた。


「嘘……こんなの初めて……」


「綺麗だね……不思議……」


 勿論、この現象はマール達が石に触れていたから起きたものだとはすぐに断言出来るものでもなかった。もしかしたらただタイミングが良かっただけの偶然の現象かも知れない。

 けれどその自然界では決してありえない魔法的現象を前に誰もがこの石の伝説を思い浮かべていた。これはきっと奇跡が起こったのだと。

 この現象が発生してからもずっと石を触っていたマールはある異変に気付く。


「何かこの石も暖かくなっている気がするよ」


「本当だ!こんなの今までになかったね」


 マールの発見にゆんも驚いている。この石は普段は普通と石と同じように冷たくて、さっき触った時もやっぱり冷たかった。それがいつの間にか人肌程度の熱を帯びていた。触っていたからその熱が移ったとかそんなレベルじゃなくて、やがてそれはちょっと熱いくらいにもなっていた。

 奇跡の景色を体験した後、4人がそれぞれのタイミングで石から手を離すと天空の謎の現象も自然と治まっていく。

 その様子を眺めていたゆんは独り言のようにつぶやいた。


「本当に何か奇跡とか起こるといいよね」


「ね~」


 そのゆんの言葉にマールが同意する。4人が手を離した後に現象が消えた事から、その現象とマール達が石を触った事に因果関係のある可能性は一段と高まった。もう一度試してみようかという話が当然のように出てきたものの、なおが体調不良を訴えた為、それが実行される事はなかった。

 なおにこの島を知ってもらおうと計画された観光プチ旅行はここで終了し、4人はその後、島の繁華街へと場所を移動していく。



「しずる、見た?」


「勿論……」


 4人の後をこっそりと尾行し、天空の謎現象の一部始終もしっかり見届けたしずるとみこは、その現象をなおが起こしたものだと結論づけていた。


「やっぱりあの子には何かあるわね」


「それが災いでない事を願うばかりよ……」


 マール達はその後、繁華街で楽しい時間を過ごし、楽しい時間は終わりを告げる。この旅行のお陰でマール達となおは友達になった。

 この新しい出会いが今後どう言う展開になるのか、マール達も、そしてそれを監視していたしずるにも誰にも予想は出来ない。

 けれどきっとこれから毎日がより楽しくなるだろうと、マール自身はそう信じるのだった。

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