死者の書より 光の中に現れるの章

 こちらも前のページと同じく。



「ああ、沈み行く太陽よ、今、汝を敬い、奉る!」

 アイの隣に立っていた、朱鷺ときの仮面をつけた神官が祝詞をあげる。


「時の支配者たるトート神は我とともに今ここにあり!『我はトート、太陽を守護する神々の中の一人にして、死者の魂の善悪を量る審判員の一人なり!』」


「『ああ、冥界の王オシリスよ、我は汝の同胞なり! 我はオシリスの敵を打ち倒し、オシリスのために悪霊を封じ込める者の一人なり!』」

 オシリスという言葉は、冥界の神様の名前であるのと同時に、オシリス神に認められた善良な死者全員に与えられる称号でもある。


「『ああ、オシリスの息子ホルスよ、我は汝の同胞なり! 我は汝のために戦えり! 我は汝の名のために敵を敗走せしめたり!』」


「『我は知恵の神トートなり! 神話の都ヘリオポリスに住まう太陽の長老神ラーの大宮殿において、オシリスの敵を打ち破るトートなり!』」


「『我は二つの地において、オシリスを嘆く男、オシリスを悲しむ女らとともにあり! しかして我はオシリスの敵を打ち破る!』」

 神の名を示すオシリスなのか、死者を表すオシリスなのか、あえてハッキリさせないことで、神と死者とを同化させる。


「『トート神はラー神の命を受け、オシリス神の敵を退ける! それは人々のためにも同様になされり!』」



「ツタンカーメン王は冥界の神殿に聖なる酒をそそぎ、墓所に宝物を納め、冥界の祭祀書を読み、太陽神の船の模型で儀式を行い、葬祭の都タッツで土を掘る。

 ツタンカーメン王の身が布に包まれる日にも、心臓の動かぬ体を清める日にも、墓所のかんぬきを外す日も、ツタンカーメン王はホルスとともにあり。

 ツタンカーメン王はホルスとともにオシリスを守護する。

 ツタンカーメン王は悪霊の滅ぼされる日に聖なるの火の中に入り、そしてまたこれよりたる。

 ツタンカーメン王はオシリス神の祭りの日にも、供物をささげる祭りの日にも、神話の都ヘリオポリスの祭りの日にも、ホルス神とともにあり」


「ああ、オシリスの神殿に出入する美しき魂達よ、願わくばツタンカーメン王の魂が、オシリスの神殿にて汝らとともに歓迎を給われんことを。願わくば汝らのごとくに彼もまた見て、聞き、起立し、そして良き席に座せんことを」


「ああ汝ら、オシリスの神殿にて、美しき霊魂のもとに供物を届ける者よ。日が昇る度、沈む度、菓子と果実をツタンカーメン王の霊魂に与えよ。冥界の全ての神々に、ツタンカーメン王は歓迎される」


「ああ汝ら、オシリスの神殿において、美しき霊魂のために道を開く者よ。ツタンカーメン王を、エジプトの民を先王のもたらした混乱より救いしファラオの霊魂を歓迎せよ」


「願わくば彼が自信をもって審判の社殿に入れることを。そして願わくば彼が安心をもって審判の社殿より出られることを。願わくば彼が拒まれざらんことを。願わくば彼が退けられざらんことを」


「願わくば彼が欲するままに死後の楽園に入れることを。願わくば彼が望むままに死後の世界より出られることを。そして願わくば彼が歓迎を得んことを」


「願わくばツタンカーメン王の願う全てがオシリスの社殿にて叶えられんことを。願わくばツタンカーメン王が神とともに歩み、語らんことを。そして願わくばツタンカーメン王が神とともに輝きを有する者たらんことを。

 彼はその清らかさをまだ審判の社殿にて認められておらず、神々の天秤は今は空虚な皿を量る」

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