日が沈んだ世界 24

「俺たちは依頼行ってくるけどイブはどうする?」

「私はちょっと・・・」

「そうだよなァ。まぁ、ちょっとした依頼だし、すぐかえってくるよ」


まだイブは俺たち以外の人が怖いようでなかなか外に出ようとしなかった。こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかない。

俺たちは沈みかけた太陽に照らせれて外に歩いて行った。


「たっだいまァ」


勢いよく扉を押し開けたのはフィル。


「おかえりなさいませ、お兄様」


妙に礼儀良いセフがお肉の香ばしい匂いを出しながらお辞儀した。俺たちもなんとなく会釈。


「あれ?イブは」


きょろきょろとあたりを探すパルム。俺もそれにつられてあたりを見渡した。


「なんか双剣を装備して走って出ていきましたよ。私が止めたのにも気が付かないで・・・」


俺は方向転換を強制して走った。もう沈んでしまった太陽のかわりにたくさんのクリスタルが浮く中を・・・。


「おいッ、どうしたブレッドォ!」


声を跳ね飛ばしてひたすら走る。彼女は何をしにどこえ行ったのか。その答えを導き出すのは意外と簡単だった。なぜなら、彼女は誰かの死に対してもっと理解がある存在だからだ。


彼女が記憶を取り戻した原因を作ったのはペンダントが壊れてしまった男。その男はなぜそこまでペンダントが大切だったのか。可能性としてだが1つ。ペンダントの中に何かが入っていたとしたら・・・。もしそれが遺書や死にかかわることだとしたら、彼女はほおっておくだろうか?いや、絶対にありえない。だとすると、彼女は今、壊れたペンダントの中身を探すため、決戦の地となった草原にいるはずだ。しかし、今のイブは完全に人間に対して恐怖を抱いている。そんなときに殺人集団でも来たら・・・・。考えるだけで頬を汗がつたった。

町を抜け、いつもの狩場を一瞬で抜けた俺は瑠璃色の何かが風で揺れていることに気が付いた。セミロングの髪に真っ白なスカートをはいた女の子・・・イブが地面に両手をついて座っていた。俺は大急ぎで駆け寄る。


「何してるんだ?」


ぴくんと体を揺らしたイブ。


「な、なんでもないわ」

「何か探してんなら俺も手伝うぜ」


沈黙・・・。そして、イブはうなずいた。


「うんうん、大丈夫。だって自分でやりたくてやってるんだから」

「そうか・・・」


と次の瞬間、どこからか人の気配を感じた。慌てて顔を上げると暗闇の中からスゥ~と現れた影が2つ・・・いや、4つ。


「おいおい、こんな時間に何で歩いてんだぁ~」


真ん中の男が口を開いた。薄気味悪いフードの中から奇妙な笑みが見て取れる。ふと気が付くとイブが立ち上がって抜刀していた。

震える両足をまるでだますかのようにこちらを向くイブは口だけが笑っていた。きっとまだ怖いんだ。それなのに無理をして・・・。


刹那、夜の暗闇の中俺の目の前・・・いや、イブの目の前に大剣が振りかざされた。なぜうごかない?イブはすでに攻撃準備はできている。それなのに・・・まさか・・・。俺の足は自然と前に進む。そしてイブを真横に押しのけた。振り下ろされる剣に対してホープセーバーで向かい打つ。周囲に散る火花が暗闇の中、相手の口元を一瞬照らし出した。気持ち悪い笑みを浮かべたままのフードに対して俺は全身を使って剣に体重をかける。吹き飛んだフードの代わりに歯がガタガタに傷ついたサーベルが俺のレザーコートをかする。わずかに切れた布地は俺の白い不健康な肌を露出させた。剣を震わせ魂法剣技を発動させる。70の連撃が発動させられた。金属音を放ちながら降られた俺の剣は眼前に現れた盾持ちのフードが体制を崩しながらもなんとか抑え込む。しかし、俺は剣を振るい続けた。


一撃を打ち込むたびに共鳴するその盾はフィルのものと比べても見劣りしないほど見事なつくりだ。まさかとは思うがこれは俺対策か?そんな疑問が脳裏を横切ったとき真後ろから同じように金属音が聞こえてきた。とっさに体の向きを変えギリギリのところでさばききる。そしてそいつのはらに一撃を入れた。

飛んでくる血が俺のレザーコートを揺らす。

それでもフードの間から見えた男の口元はつりあがっていた。


「何なんだよお前らは!」


息を漏らし2げきめを決め込む。奴の吹き飛んだ上半身。足元は血に染まっていた。自然と両手が震えるのを感じたが次に飛んできたサーベルに一撃を打ち込む。二等分されたサーベルは空中を高く舞いフードの男の手に吸い込まれていった。握った右手に歯が食い込んで血を垂れ流しにするフードはそれでもなお、握った刀身を俺に振り落としてくる。意を決して振るった剣は人の腕など吹き飛ばすに十分な威力が付いていた。鈍いを音を立てて地面に落ちる奴の右手。俺の口からは絶叫が漏れた。一体何が・・・何がこいつらを動かしているんだ。そう尋ねたくなる自分を抑え、初めて攻撃を入れてきた長槍使いに剣を差し込む。三度目に伝わってきた奇怪さに指の一本一本が悲鳴を上げる。そして最後に残ったフード、盾使いが俺にどこから出したか毒針を投げつけてきた。見れば一目でわかる紫色に変色した針はホープセーバーによって軽々はじかれる。そして、渾身の力を入れて差し込んだ剣は盾を軽々貫通し、男の心臓部を貫いた。


「勘違いするな・・・しょせんやっていることは俺たちとかわらな・・・・い・・・・」


そのことばを最後に倒れていったフード。俺の力なくふらつく両足。もう立っていられない。俺は心の中でそう思った。しかし、いつものように現実にはならなかった。イブが倒れる寸前で俺のことを支えてくれたからだ。


「よかった・・・よかったよ~・・・ブレッドが死んじゃうんじゃないかって・・・私、怖くて・・・」


俺の胸にイブの涙が垂れる。血に濡れたレザーコートは夜風に揺れ静寂を醸し出す。うつむいたままの顔にイブの暖かい手がそっと置かれた。


「ごめんね・・・いやな、思いさせちゃった・・ね」


整った顔をぐちゃぐちゃに崩しながら必須に謝るイブの手は俺にとって唯一の救いにも感じられた。


「すまなかった」


震える唇を何とか抑え謝罪の言葉をしぼりだす。


「君にまた怖い思いをさせてしまって・・・すまなかった」


するとイブは俺の両頬を両手で包み込み顔を自分に向けさせると遥か彼方、明かりが漏れ始めた地平線を指さす。


「太陽がのぼってきたよ・・・」


それだけ言うと満面の笑みを浮かべて俺のことを思いっきり抱きしめた。


「なぁ、一緒に逃げよう・・・この残酷な現実から・・・世界から・・・」


「だめだよ。今もハバネロのせいでたくさんの人が傷ついてる。みんなブレッドのことを待ってるよ」


顔を出し始めた太陽は俺たちのことを暗闇の中から引っ剥りだした。どうやらイブの長かった世界にはやっと「日」が昇り始めたらしい。久しぶりに浴びた太陽光はほかほかとした気持ちのいいものだった。

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