空き巣を捕まえろ!
第56話 空き巣を捕まえろ! その1
異世界生物が脱走したと言うニュースはすぐに拡散されて、シュウト達もなし崩し的にその探索に駆り出された。逃げ出した異世界生物の中でも過去に自分達が捕まえた獲物だけでも捕まえようと2人は奮闘する。
やがて、それっぽい人物を見つけ出した2人は、協力して元パルマのヨッテルをティバリを見事に捕らえる事に成功する。
「ふう、何とか捕まえられた」
「どうして一度捕まえた相手をもう一度捕まえる羽目に……」
シュウトが愚痴をこぼすと、伸びたティバリを肩に乗せた由香が少し困ったような表情で口を開く。
「まぁいいじゃない、お給金貰えるんだし」
「それもそうだけど……捕まえた異世界生物の管理ってどうなっているんだろう?」
「きっと何かトラブルがあったんだよ」
「何だかなぁ……」
2人はあまり前向きでない気持ちのまま、捕まえた異世界生物をちひろに手渡した。
「ごめんね。こっちの事情で二度手間みたいになっちゃって。もう二度とこんな事起こさせないから」
「原因は分かってるんですか?」
ふとした言葉のはずみでシュウトは彼女に尋ねる。それはちょっとした好奇心だったものの、この質問をされた側のちひろは複雑な表情になる。
「システム上、こう言う事は起こらないはずなのよ。協力者がいるか、もしくは……」
「もしくは?」
気になる言葉を耳に入れた彼は反射的に突っ込んでしまった。その言葉を聞いて彼女はハッとした表情になって慌てて前言撤回する。
「確証のない事は言えないから……ごめん、今私が言った事は忘れて」
「再発はしないと?」
「一度起こってしまった以上、断言は難しいけど、私達も色々動いているから」
普段のちひろからは見られないようなその言動に、色々と察したシュウトはこれ以上突っ込まない事にした。
「お役所って大変ですね」
「分かるう~?本当大変なのよ。帰れない時は本当に帰れないからね~」
そう話す彼女の顔を読む見ると目の下に隈があって、髪の毛はボサボサで、かなり疲れが溜まっているように見える。シュウトは今立ち話で会話をしているこの時間すら彼女の負担になっている気がして申し訳なく思うのだった。
「お疲れ様です」
「こっちの事は気にしないでね、それはこっちで何とかするから。何とか出来ない事でお願い出来そうな要件だけお願いね」
言動から色々気を使わせているのが読み取れたちひろはそう言って力なく笑う。お互いに気を使いながら引き渡しはこうして終わった。帰り道、雑談しながら歩いていると必然的にさっきの事についての話題になり、まずはシュウトが手を頭の後ろに組みながら話し始める。
「何か色々闇が深そうだなぁ」
「ま、私達が気にしてもどうしようもないしね」
「そりゃま、そうなんだけど」
次の日、いつものように図書室でシュウトと由香は新聞を広げて記事に目を通しながら雑談をしていた。沢山本が並んでいるんだから読書でもすればいいところなんだけど、2人共、異世界生物の事件が起こった時の参考になるかも知れないとつい新聞記事を目で追ってしまう習慣が身についてしまっていた。
そんな日課をこなしながらまず由香が口を開く。
「そう言えば最近風はどうしているんだっけ?」
「え?知らないけど」
「何でチェックしてないの?」
風についてあまり関心のないシュウトに対して彼女が疑問を呈した。その質問の意味が分からなかった彼は逆に聞き返す。
「って言うか何でチェックしていないといけないんだ?」
「いやだって怖いじゃん。今もどこかで見ているのかも?」
聞いてみれば由香の考えも尤もだろう。誰だって誰かが監視していると思うと気が気でなくなってしまう。この答えを聞いたシュウトはいたずらっぽく笑うとツッコミを入れる。
「見てんじゃね?」
「あ、そっか。こっちが探さなくても常に近くにいるんだ」
彼は以前の風とのやり取りで会話では全く歯が立たなかった事を思い出し、それについて思った事を口に出した。
「多分向こうの方が上手だよ」
「ぐぬぬ……」
このシュウトのツッコミに彼女の同じ事を思い出したらしく、悔しそうな顔になる。それからすぐに開き直ったように話し出した。
「どうせ見ているんだったらさ、オープンにして貰いたいものだよね」
「何だそりゃ?」
この突然話し出した由香の言葉を耳にしたシュウトはその真意が読み取れず、反射的に聞き返す。
「堂々と目の前でしっかりと見て貰いたいって事。仲良くもなりたいし」
「ああ、なるほど」
ポンと手を打って彼女の説明に納得するシュウトを見て、由香は怪訝そうな顔をしながら口を開く。
「陣内君はそうは思わないの?」
「そりゃ、仲良くなれたらいいとは思うよ」
彼女の質問に対してシュウトは当たり障りのない返答をよこす。その言葉に今いち真剣味を感じ取れなかった由香は理解して貰おうと更に言葉を続けた。
「きっとあの子ってすごい能力を秘めていると思うんだ。仲間になったらすごい戦力になるよ!」
「あの雰囲気じゃあ、仲間になんてなってくれないだろ……」
楽しそうに話す由香とは対象的にシュウトはどこか諦め気味な態度を取っていた。以前の風とのやり取りを考えると彼の態度になる事の方が普通の反応だろう。
それでも彼女は風を仲間にするメリットの方を重視しているらしく、彼女を仲間に引き入れる事に情熱を燃やしているようだった。
「そこを何とかするのが腕の見せ所じゃん」
「ま、頑張ってみなよ」
彼女との温度差を感じたシュウトはついていけないものを感じて我関せずと言った態度を取る。その言葉が癇に障ったのか、急に由香は声を荒げた。
「何他人事みたいに言ってるのよ、手伝ってよ!2人の問題でしょ」
「えぇ……」
その強い主張に当てられた彼は若干引き気味になる。シュウトが乗り気にならないので、何とか説得しようと彼女は更に言葉を続ける。
「メンバー増えたら仕事が楽になるじゃないのよ、もー!」
「でも、そうなったらその分もっと厄介な仕事を押し付けられ……あ、電話」
彼があまり戦力増強に乗り気にならなかったのは、どうやらメンバーが増えればその分仕事の難易度も高くなるかも知れないと危惧していたからのようだった。その理由を全て話し切る前に電話がかかって来た為、シュウトは電話の方を優先する。
通話を開始するとすぐにいつものちひろの明るい声が聞こえて来た。
「もしもし?次の仕事が決まったからまた放課後に例の場所でね」
電話はその一言を告げるとすぐに切れる。シュウトが通話を終えてスマホをしまっていると由香が話しかけて来た。
「次の仕事?」
「彼女を仲間にするのはまた今度、今は仕事の方に集中しよう」
風を仲間にする談義に乗り切れていなかった彼は、電話の内容を上手く利用してこの流れを断ち切れた事でホッと胸をなでおろす。彼女の方も仕事の依頼があった以上、そちらを優先せざるを得なくなり風の事は口に出さなくなった。
そうして放課後になり、2人は例の喫茶店でちひろから資料を受け取りながら今度の仕事の説明を受ける。
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