海を見せる、ということ

を見せる、という詩があるんだ

僕はこの詩がお気に入りでね

なにか落ち込むことがあると、

この詩を読むことにしているんだ



海を知らない寝たきりの少女に、

「ぼく」が海を

「もってきて見せてやる」って言ってね

バケツに海の一番青い部分を汲んでやるんだ



でも、バケツに汲まれた海は、

少女にとってはただの水で

「ぼく」は

途方にくれてしまうという詩なんだよ



え?何がいいのかって?

僕にとって凄いものでも、

他人から見たらなんの変哲のないものに

なり得るってことを

あっさりしているのに核心を突く言葉で

暗に伝えてくることだよ


ほら、こことか素晴らしいだろ

こんな表現、普通の人にはできやしないよ

この作者が僕はいっとう好きなんだ



え?解説がないけど、

この詩の解釈はこれであっているのかって?

そんなこと知らないよ

作者の考えを僕が汲み取ったんだもの



え?こんな表現誰にでもできるって?

まあ、この人はもう何十年も前に

活躍していた人だからね

その影響を受けている人もいるはずだよ



そうかい

君にはつまらなかったかな





*寺山修司「寺山修司少女詩集」 角川文庫 『海を見せる』

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