無人駅
桜 導仮
一日目
私はいつからここに居ただろうか。
そんな事をふと考える。
ここは『囲木駅』。回りが木に囲われてるからと昔の人が付けた。今はもう使われてない駅だ。
色々と思い出す。と、言っても思い出すほど何かをした記憶はない。
今こうして夜の冷たい床に突っ伏し、体温が無くなっていくのを感じるばかりだ。
何日食べてないだろう。
もはや食べ物を探して歩く体力も無い。
このまま死んでいくのだろう。
目を瞑り覚悟を決める。
だかその覚悟は掻き消される。
足音だ。
それも近づいてくる。
いい人が来るかも分からないのに期待してしまう。
「こんな所に駅があるとは」
男の声が聞こえた。
「雰囲気的に無人駅かな」
声が近づいてくる。
「今日はここに停まっていくか」
……これは食べ物を期待できないか。
人影が見えた。
男の持つカンテラが待合室を明るくする。
「ベンチはある。暇潰し用の本もある。トイレもある。電気は付きそうもないが中々いい所じゃないか」
こいつは足下の私に気が付かないのか。
「他には……うわ!」
今度は何だ。
「君、大丈夫かい!」
うるさい。だか気が付いてくれたみたいだ。
私は目を開ける。
「良かった。生きてた」
勝手に殺すな。
「えっと、どうしてここに? いやそれよりも」
そう言って男は私を抱き抱えベンチに寝転がす。男はベンチの前に座った。
「どうしたのか聞きたいけど、うーん……」
男は考え込んでいる。
そうしている間にも私の死は近づいていると言うのに。
と、そこで私のお腹がなった。
「ん?」
凄く恥ずかしい。
「なるほど。君はお腹が空いてたんだね」
そうだよ。悪いかよ。
男が持っていた鞄を漁る。
「おにぎりなら食べれるかな?」
そう言って男はおにぎりを取り出す。
「これ食べるかい?」
おにぎりを差し出して来る。
私はそれに齧りつく。
「お、食べた」
ここでようやく男の顔がよく見えた。
歳はおそらく二十代、中肉中背、良くも悪くも普通な感じ。
面白くなさそうな人間だ。
「暫くお世話になるつもりだし自己紹介でもしておこうか」
男はそう言う。
待て、お前私の根城に住み着く気か。
「僕の名前は『キタサオ』と言います」
丁寧だが何だか気に障る。
「君の名前は何て言うんだい?」
私は壁にかけてあった紙を顎でしゃくった。
「あれかい?」
男は紙に近づき眺める。
そこには『命名 リンネ』そう書かれていた。
「リンネか。良い名前だね」
当たり前だ。あの人が着けてくれた名だ。
黙々と食べ続けたせいか、いつの間にかおにぎりは無くなっていた。
ついつい欠伸が出てしまう。
「食べたら眠くなったかな? じゃあ僕も寝ようかな」
男は私の隣に座ってくる。
「おいおい、そんな嫌そうな目で見るなよ」
私は睨み付ける。
男は両手を上げ、
「分かったよ。床で寝ますよ」
鞄の中から寝袋を取り出し中に入る。
「おやすみ」
そう言って寝てしまった。
壁にかけてある時計を見る。
時刻は丁度十二時を回った所だった。
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