15-②




***




 待ち合わせ場所は学校の最寄り駅の西口。夏月の家から電車で一本、イベント会場がある詩舞谷区まで電車で一本。その後は地下鉄に乗り換えて、徒歩数分だ。

 集合時間の20分前に到着してしまった読人は、はっきり言うと相当張り切って落ち着きがなかった。遠足の前日の小学生と揶揄されても構わない。

 あれだけ騒いだ本日のコーディネイトとは言うと、暖かい春の気候を鑑みてアウターを羽織らない身軽なスタイル。襟付きの青いシャツに細身のチノパン、前日に汚れがないか細かくチェックしたコンンバースのスニーカーに、持ち物は【本】が入るサイズのボディバッグのみ。

 そして、父から譲り受けたベストは、見事に読人の身体にフィットしたベストサイズだったためボタンを閉めてカッチリと着込んだ。相変わらず長い前髪はワックスで整えて、いつも通りヘアピンでまとめて顔を出して、歯磨きはいつも以上に念入りにした。

 服に皺はできていないか、ベストの裾をパンツに巻き込んでいないかと色々な心配事をチェックしながら夏月を待っていると、彼女も約束の時間の10分前には改札を通り抜けていたのだ。


「ごめん、黒文字君! 待った?」

「大丈夫。俺も今来たところだから」

「良かった。おはよう、今日はよろしくね」

「よろしくお願いします」


 慌てて読人に駆け寄った夏月は、可愛かった。

 彼女の姿は、明るいチェック柄の襟シャツにスポーティな赤いスタジャン。膝上のハーフパンツに動きやすそうなスニーカーと、本日のイベントは歩きやすい恰好が推奨される事をしっかりとリサーチしていたようである。髪は降ろしていたが、読人がもらった物とよく似たデザインのシンプルなスクウェアのヘアピンを着けていて、荷物は以前も背負っていた2WAYバッグをリュックにしている。

 やっぱり私服、可愛い。

 以前、私服姿を見た時も思ったが、ふわふわのワンピースで女の子女の子しているコーディネイトよりも、すっきりとした印象の彼女に好感度を持つ。好きな服装の系統が似ているのかもしれない。そんな接点が嬉しくなって、平常を装っていても心の中では浮足立ちまくっている。

 今日は、夏月と2人きり……。


『よ、夏月。元気か?』

「おはよう、火衣君。火衣君もよろしくね」


 訂正、2人+火衣である。

 いくらデートと言えども、いつどこで【戦い】に巻き込まれるか解らないこの一年の間は常に【本】を携帯しておかなければならない。なので、必然的に火衣も付いて来る事になるのだ。

 まあ良いか。本当に2人きりになってしまったら、まともにおしゃべりできるかも解らないし。

 夏月と火衣が挨拶を交わしたところで、電車に乗って詩舞谷区を目指す。電車に揺られている間、読人と夏月の話題は本日のイベントとタイアップしたオンラインゲームと、その原作となった小説についてだった。

 夏月も予習して来たと言う原作小説と言うのは、ゲームのタイトルにもなった『ダンジョン・プリズン』。本国ではあまりメジャーではなかったその物語のあらすじはと言うと、アメリカの刑務所が何故か異世界のダンジョンと繋がってしまったと言うものだ。

 舞台は脱出不可能とされる刑務所。アルカトラズのような島の刑務所ではなく、天高く伸びる塔として作られた天空の刑務所の最上階がダンジョンの最下層と繋がり、そこから地上目指して様々なモンスターが侵入して受刑者たちとのバトルを繰り広げる。無実の罪で収容されていた主人公は、モンスターたちが侵入した騒ぎで独房から脱出し自分を貶めた連中への復讐を慣行すべく、モンスターが蔓延る刑務所を脱獄すると言うのが大まかなストーリーだ。


「原作の小説を少し調べてみたけど、面白い構成になっているよね。主人公は名前も容姿も描写されないで、物語は看守のミハエルの視点で進んで行くって」

「もう狂言回しと言うよりは、ミハエルが主人公だよね」


 主人公は名前ではなく番号で呼ばれ、無実の罪で投獄された事とその罪の内容以外は何も描写されないため、彼はゲームプレイヤーたちの分身としては打って付けだったのだ。

 物語の語り部である、生まれてこのかた不運に見舞われ続ける看守のミハエル。対戦相手を殴り殺してついでにモンスターたちも素手で殴って撃退する、元ボクサーのディラン。かつては米軍の特殊部隊にいて、自分の罪状を語ろうとしないハンス。

 そして、女子刑務所エリアから逃げ出して来た、ベッドを共にした男を何十人も殺害したと言う死刑囚のヒロイン(?)のサリバンと、個性豊かな脇役たち。現実世界を目指して進行してくるモンスターの中には、美麗な女性型もいて中には主人公に好意を抱く者も現れると言う展開が日本人の感性に上手く適合したらしい。

 ゲームがリリースされると同時に原作小説の人気にも火が点き、日本語訳の小説は一気に重版を重ねたと言う。チケットをくれた出版社の人はウハウハ状態だと、母が語っていた。


「『ダンジョン・プリズン』って、10年以上前に出版された作品だけど、設定や内容的に流行を先取りしすぎた感じがあるよね。数年前から流行っている、異世界系のラノベと同じ雰囲気があるって言うか」

「私もそれ思った。作者さんも、アメリカ人とは思えないほど日本人のツボを押さえているよね」

「あ、それ解る!」


 電車移動の最中は、原作小説の話で盛り上がり。詩舞谷駅に到着して地下鉄へと乗り換えてからは、2年生への進学に係るクラス替えの話題になった。

 2年生になると、つい最近提出した希望選択コースでクラス分けがされる。偏差値の高い大学への進学を目標とする特進のA組、文系のB・C組、D~F組と得意分野と目指す大学部によって振り分けられる。

 読人は文系を選択した。はっきりと進路は決めていないが、今の時代、英会話や他国の言語を学んでおいた方が良いかなと考えて英語を集中的にするカリキュラムを希望した。では、夏月はどうかと訊いてみたら、彼女も文系を選択したと言う。「同じクラスになれれば良いね」と夏月が言った途端、胸がときめいた。

 夏月と同じクラス……文系クラスは二つしかない。確率は二分の一だ、同じクラスになれる可能性は遥かに高い。同じクラスになりたいと言う意味を込めて、たくさん頷いて共に歩いていたら会場となるビルに到着していた。

 ゲームの目的が天空の塔=ビルの刑務所からの脱出だからだろう、ゲーム舞台となる会場は地上24階建てのビルを丸々貸し切って行われる。ヒロイン(?)であるサリバンや、ユーザーからの人気が高い美少女モンスターのイラストの垂れ幕やポスターに出迎えられた2人と火衣は、看守服のスタッフにチケットを渡して会場入りをした。


「未成年の方は、こちらに学校名と緊急連絡先をご記入下さい。身分確認のための証書はお持ちですか?」

「あ、学生証で良いですか?」

「結構です。では、参加者の皆様にはこちらの番号札を着けて頂く事になりますので、目立つ場所に着けましたらエレベーターで最上階の大会議室へ集合して下さい。10時からゲームが始まります」


 スタッフから渡されたのは、安全ピンと首から下げるストラップが付いたネームプレートだった。参加者が番号を割り振られるのは、彼らが脱獄を目指す受刑者だからなのだろう。読人は1027番、夏月は1028番だ。何故か、裏面には丸に囲まれたKとプリントされている。

 受け取ったパンフレットを読みながら、他の参加者たちと共にエレベーターに乗り込んでゲームのスタート地点となる最上階を目指す。見たところ、今人気のゲームのイベントのためか若い参加者が多い。読人たちと同じ高校生のグループや、それよりも幼い子供たちも大会議室に集まっていた。


「脱獄を成功させるために、色々な謎を解かなきゃならないんだよね。これでもパズルとか暗号とか得意だから、任せて。メモ用紙と筆記用具があった方が良いって、体験レポートに書いてあったから持って来た……あ、ごめん」

「え、何が?」

「何か、1人だけ張り切っているみたいで……」

「そんな事ないよ! よろしくね、竹原さん」

「うん!」

『……青春だな』


 時計の針がゲームスタートの10時を刻む。

 スタッフから注意事項と事前の説明がされ、会場となるビルは本当に入り口をロックされて封鎖されると説明されれば参加者は少しの戸惑いの声を上げた。そして、別の体感ゲームで出たと言う最短クリアタイムが発表されれば、今度は感嘆の声が上がる。

 このタイムを塗り替えれば、ゲーム主催会社のHPに新記録として掲載されるらしい。そして、タイム関係なく、見事に脱獄を成功させたグループにも商品があるのだ。その商品と、監獄に見立てられたビルからの脱獄を目指し……ゲームスタートを告げる非常ベルが、鳴り響いた。


『緊急事態発生、緊急事態発生! 最上階より未知の生命体が確認された。奴ら、まるで映画に出て来るモンスターだ。俺は酒も薬もやっていない! 幻覚なんて見ていねぇぞ! これは現実だ……うわぁぁぁぁ!!?』

「ゲームのOPと同じだ」

「じゃあ次はチュートリアル?」

「ミハエル出るの?」

『放送の通り、緊急事態が発生した。本日から当監獄に収監される受刑者諸君は、事態が収束するまで此処で待機してもらおう。逃げ出そうなんて変な気は起こすな。此処は、今まで誰1人として脱獄者を出した事のない、天空の監獄だ。気持ちよく出所後のバーボンを味わいたければ、大人しく刑期を終える事だ』


 スタッフが、原作小説とゲームの冒頭で出て来た看守の台詞を言えば、ゲームファンの参加者たちは色めき立った。

 読人と夏月を含めた彼らは今、これから監獄に収監される受刑者と言う立場だ。慌てて会議室から出て行ったスタッフ、もとい看守の言葉を素直に守るのならこの場から動いてはいけないのだが、このゲームのクリア条件はビル=監獄そのものからの脱獄である。素直に模範囚を勤めていては、異世界から侵攻して来たモンスターの餌食になるだろう。

 非常ベルと参加者たちのざわめきが鳴り止まぬ中、正面スクリーンにメッセージが映し出されたのだ。


「……『生きてこの監獄から脱出したいのなら、チームを組み手元の地図に記されている緊急避難場所へ迎え』」

「『チームは番号の裏に記されている、同じ記号を持つ者たちだ』……あ、番号札の裏のアルファベットって、チーム分けだったんだ」

「手元の地図、って、このパンフの事かな? ビルの地図が載っているし」


 スクリーンのメッセージは1分ほどで消えてしまい、次に登場したのはカウントダウン――最初の試練の、制限時間だった。

 5分から1秒1秒と時間が減り続け、これが00:00になってしまったら一体どうなるのか……流石に、爆弾がドガーン!と言う事にはならないだろうが、参加者たちは慌てて同じアルファベットの者を集めて4~5人のチームを作り始めた。

 読人と夏月はKなので、同じくKの番号札を持つ者を探していたら彼らと同じアルファベットの札を手に呼び掛けていた2人組と合流できた。


「Kの人、いませんかー?」

「俺たち、Kです」

「よろしく。頑張ろう」

「お願いしまーす」

「俺は柘植ツゲです。こっちは、妹の爽香サヤカ

「黒文字って言います」

「竹原です。よろしくお願いします」


 同じKチームとなる柘植兄妹。大学生と思われる兄と読人たちと同じぐらいの妹、この4人で脱獄を目指す事となる。

 だが、メッセージに記されていた“緊急避難場所”とは、一体どこなのだろうか?手元にある地図と言えば、夏月が言ったようにビル内の案内が書かれたパンフレットが彼らの手元にある。


「そう言えば、一か所袋綴じになっているところがあったな」

「……何でしょう、これ?」


 受付で配布されていパンフレットには、何故か最後のページが目立たない厚さの袋綴じになっていた。明らかに怪しいそれを丁寧に開いてみれば、確かにそこには緊急避難場所が……書かれては、なかったのである。

 そこにあったのは、暗号……と言えばいいのだろうか。四つの枠の中にいくつものアルファベットが散らばり、それぞれの枠の上には動物のシルエットが乗っている。ヒントは一つだけ、動物を消して余った場所が緊急避難場所である。だ。


「えー……ナニコレ?」

「それぞれの枠の動物は、象にフラミンゴにハリネズミに、ワニかな?」


 四つの枠の上に乗る動物は、左上が象、右上がワニ、左下がフラミンゴ、右下がハリネズミだ。中のアルファベットにも規則性はなく、一文字が一つずつでもなく重複もしている。

 一見すると、これに場所が隠されているとは思えない。爽香は早速首を傾げていたが、兄の柘植は、これは初歩中の初歩であると言いたげにペンを手にしてアルファベットを塗り潰し始めた。


「ヒントには、動物を消してとある。枠の上の動物たちを英語に直して、そのスペルを消して行けば……」

「象はELEPHANT, フラミンゴはFLAMINGOで」

「ワニって、何だったっけ? クロコダイル?」

「文字から見るに、ALLIGATORかな。余った文字を並べ替えれば、場所が出て来るって寸法だ」

「お兄ちゃん、ハリネズミって英語でなんて言うの?」

「ハリネズミは、HEDGEHOGです」

「それだ!」


 柘植以外にも、暗号解読系のゲームに慣れている他の参加者たちもチーム内で相談しながら動物の現すスペルを消して行く。しかし、CATとDOG等の初歩的な英単語とは違い、微妙に難しい動物たちのスペルに苦戦しているらしい。正しいスペルが解らなければ、正しい答えが出て来ないのだ。

 スマートフォンでスペルを調べる者が蔓延る中、読人が「ハリネズミ」のスペルを知っていた事ですんなりとアルファベットが塗り潰されている。

 柘植がそれぞれの枠の中のアルファベットを動物のスペル通りに消して行き、残ったアルファベットを並び替えてできた単語は四つ。BLUE, MAN, RED, WOMANの四つだった。


「え、え? どう言う事、お兄ちゃん?」

「えーと……」

「っ、解った! 行こう」


 夏月や他の勘が良い者も、この四つの単語が示す場所にピンと来たのだろう。

 謎解きを終えたチームは急いで会議室を脱出し、“緊急避難場所”へと向かった。BLUE MANとRED WOMAN……毎日無意識に目にしているこの2人の存在に気付けば、後は簡単だろう。

 青い男と赤い女が並んで立つ緊急避難場所とは、会議室から出て右手の奥。階段の隣にあるトイレである。


「青い男と、赤い女……そっか、トイレのマーク。竹原さん凄い」

「たまたまだよ」


 見事に最初の謎を解き明かし、混乱する牢獄の片隅にある“緊急避難場所”へと逃げる事ができたチームは待ち構えていたスタッフ兼看守から鍵状のカードを受け取った。ゲームに登場するモンスターが描かれたカードであるが、最終的な脱獄でこのアイテムが必要らしい。全ての謎を解き、迫り来るアクシデントを潜り抜けてが全ての鍵を揃え、1階のエントランスに辿り着ければ完璧に脱獄成功だ。

 ちなみに、あの会議室で5分以内に謎を解けなかったチームはと言うと……スクリーンのタイムが00:00になった瞬間に、部屋には白い煙が充満して悲鳴が上がる。本当に異世界にモンスターに襲われる事はないが、煙に巻かれたチームはこれで時間をロスしてしまい脱獄の成功率は徐々に下がってしまうのだ。

 そして、読人たちのように順調に謎を解いて脱獄への足掛かりを掴めたチームはスタッフの指示に従って階段を使って下の階へと向かって行った。

 この途中で、再び危険なイベントが起きるのだろう。ハラハラしながら、階段の手すりをしっかり掴みながらゆっくりと一段一段下りて行った。


「ねえ、竹原さんって下の名前って何て言うの?」

「あ、夏月です」

「ため口で良いよ。同じぐらいでしょ? 何年?」

「高校一年です」

「同じだ! 私も一年だよ。夏月ちゃんって呼んでいい? 私も爽香で良いよ」

「うん」

「黒文字君って夏月ちゃんの彼氏?」

「えっ、違うよ。友達」

「ふーん。でも良いな、男友達と一緒なんて。私はさ、お兄ちゃんに頼まれて来ちゃった口なの。一緒に来るはずだった友達が急なバイトで来られなくなったからって、カラオケ奢りで付き合ってあげたんだ。こう言うイベントばっかり参加しているよりも、彼女の1人くらい作れば良いのにね~」

「聞こえているぞ」

「はーい。ごめんなさい」

「お兄さんと。仲良いね」

「フツウだよ~」


 女子たちは早速仲良くなったようだが、読人が思わず階段を踏み外しそうになる会話をしていた。実際本当に一段踏み外しかけてしまった。

 本当にビルの中に閉じ込められている状況であるが、本当に危機的な状況でもないため読人たちと同じく順調に謎解きを続ける人々は、少しの緊張感と和気藹々とした雰囲気で下層を目指す。

 次は何が起きるのか。どんな謎解きをすればいいのだろうか、これから先はゲームのキャラクターたちも絡んで来るのだろうか。

 日常の中で疑似的に作られた非日常を楽しむ人々であったが、まさか、本物の非日常が迫って来ているなんて思いもしない。本当に、平和のど真ん中にあるこのビルが闖入者に襲われるなんて、誰も考えもしなかったのだ。

 その闖入者とらやはが異質だったのは、誰もが一目見て解った。

 春晴れの空の下、休日を楽しむ人々で賑わう都会の真ん中でただ1人、薄い部屋着一枚とボサボサの長い髪を下ろした状態でふらふらとアスファルトの道路を歩いていたのである。その足元は、靴も靴下さえも履いていない裸足の状態だ。足の裏を擦り傷だらけにしながら歩いている様子を、すれ違う人々にひそひそと陰口を叩かれているのにも気付いていないのだろうか。

 そのまま、胸に一冊の本を抱えて幽鬼のように『トリック・脱獄ゲーム feat ダンジョン・プリズン』の会場となっているビルの前に現れたのである。


「ん、何だあの女……?」

「申し訳ありません。本日、このビルはイベントのために一般の方は立ち入り禁止になっています」

「……」

「警察呼んだ方が良いんじゃないか?」


 ビルの封鎖を担っているイベントスタッフたちの前に現れた、幽鬼のような女は何も喋らなかった。

 だが、彼女が胸に抱えていた白い本は主張するように眩しい光を放つ。

 警察を呼ぶか否かを話し合っていたスタッフたちが女へ視線を戻した瞬間に、瞠目する事となる……彼女の背後に、何百もの兵力の騎兵隊が出現していたのだ。


「なっ、何だ?!」

『進っ軍ーーー!! 罪人を捕らえろ!!』


 先頭の隊長が雄々しく叫べば、騎兵隊たちは逃げ出したスタッフたちを無視して封鎖されたガラス戸を破りエントランスへと侵入して来る。そして、闖入者の女は散らばったガラスを躊躇なく踏み付け、足の裏が出血するのにも関わらず騎兵隊が作り出した一本の道をふらふらと前進する。

 目指したのは、未だに参加者たちが残る最上階――イベントのスタート地点。

 何故か最上階に到着したエレベーターの中から、何百もの騎兵隊がぞろぞろと現れた光景はシュール極まりなく、その光景を目にした参加者は思わず失笑してしまった。これも催しの一環なのだろう、こんなキャラクターはゲームには出ていたかと首を傾げながら、次は何が起きるのかワクワクしていた人々は……本物の悲鳴を上げる事となる。

 こんなの、タイムスケジュールに載っていない。スタッフが焦り出した次の瞬間、騎兵隊による蹂躙が始まった。


「創造能力・無慈悲な騎兵隊……ぐちゃぐちゃになれ、ぐちゃぐちゃになれ、ぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれぐちゃぐちゃになれ!! 同じブランド品のお前らだ、みんな敵だ!!」


 狂気しか感じる事のできない掠れ声で女がそう叫べば背後には重々しい鉄の扉が出現し、錆び付いた音と共に扉が開くとそこからは鉄の――血の臭いがした。

 騎兵隊が捕らえた“罪人”は、この扉の向こうに放り込まれる事となる……女が手にした白い【本】のタイトルは『青髭』。この扉は、『開けてはいけない拷問の小部屋』。






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