第15話「そうだよ……」

 その後師走に入り仕事も忙しくなり、慌ただしい毎日が過ぎていった。


 そんなある日の事。 

 仕事の外回りで商店街を歩いてると、何処からともなくクリスマスソングが聞こえて来た。


 そうか、もうじきクリスマスか。

 辺りを見ると店先にクリスマスツリーやサンタクロースの絵が飾られている。

 

 あっちにはなにか話しながら歩いて行く若い男女が。

 

 そうだ、クリスマスには恋人と過ごす人もいるんだよな。


 でも僕は、それを望んじゃいけないんだ。


 今でもたまに美咲さんのお母さんがメールをくれて、美咲さんの様子を教えてくれる。

 何で僕のアドレス知ってるの? と思ったが美咲さんの携帯見たんだろうな。

 直近のメールには「意識はまだ戻らないが怪我は治りつつある」と書かれていた。


 うん、よかった。

 近寄らなければいいんだ。

 でも回復して僕に会いに来たとしたら、その時は。



 だけど……。



 クリスマス・イブの夕方。

 終業の放送が流れ、帰り支度が終わった時、僕の携帯電話が鳴った。

「あれ、知らない番号だな。はい? もしもし」

 電話に出ると相手は美咲さんのお母さんだった。

 そして


「え!? だ、だって前は命に別状はないって!?」

 お母さんは言葉に詰まりながら話してくれた。

 

 美咲さんは今朝急に容態が悪化して、心肺停止状態になったそうだ。

 一旦は蘇生したが、今夜が峠だと。


 ……みっちゃんの時と同じだ。


「篠田さん、できればこちらに来ていただけ」

 お母さんが言い終わる前に通話を切った。


 行ったらまたあの時のように……と思った。




 僕は歩道橋の上にいた。

 何処をどう歩いてここに来たか覚えてなかった。

 歩道橋の下を見ると線路があり、電車が音を立てて走って行く。

 どうやらここは駅の近くみたいだ。

 僕は欄干の上に両肘をかけ、そこから見える景色を眺めた。




 思えば僕がいたから……。


 ソウダヨ


 僕がいたから、父さん母さんも……。


 ソウダヨ


 友達も……。


 ソウダヨ


 みっちゃんも……。


 ソウダヨ、コクハクシヨウトシタカラ


 そして美咲さんも……もう大丈夫だと思っても。


 ソウダヨ、ツキアッタカラ


 いや、美咲さんはまだ、あ。


 ソウダヨ、キガツイタ?


「そうだ。はは、何でもっと早く気づかなかったんだろ」


 ソウダヨ……。


。そうだよ。僕がいなくなれば美咲さんは」

 そうだよ。そうすればいいんだ。


 そうすればもう誰も……。


 そう思って欄干に足をかけようとした時だった。


「ちょっとあんた、何する気よ!?」

 僕の腕を力強く掴んだ人がいた。


 それは香織さんだった。

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