第六夜 悪魔と天使

約束の集合場所で自治体のメンバーと合流して挨拶を済ませ、さらにサマーキャンプ全体の集会場所にて、これから三日間通してのざっくりしたスケジュールをロールプレイングをしてもらっている最中に、なにやら突き刺す様な視線を背中に感じた。それは殺気と言い換えてもおかしくないほどに強烈な憎悪を放っていた。

何これ?不安になってアリスの方を見てみると、彼女は彼女で数メートル後方の列んでいる白ロリータファッションの少女と、鬼の形相で睨みあっている。

お前ら修学旅行中のヤンキー中学生夜露死苦サマーキャンプへ来た早々早速喧嘩上等かよ!?


可哀想に、間に挟まれている少年が今にも、泣き出しそうな顔をして、懸命に涙を堪えている。

ボクも不良少女達を引率している担任教師みたいな気分で、すっかり憂鬱になってきた。ああ今すぐお家に帰りたい・・・。便器からでもいいからゴー・ホームしたい!


「おいおい頼むからこんなトコで問題起こすなよ。アリスさんちょっと聴いてます?前を向いて話を聞こうよ。聴けよコラ加藤ーっ!」

アリスに注意を促すも、聞く耳持たずバチバチ火花を散らして睨み合いを続けている。

仲睦まじく無垢な愛犬たちが戯れる平和なドッグランで、獰猛な二頭の土佐犬がかち合ってしまったみたいな超ド級の緊迫感だ。

少年の不安は既に周辺の子供たちにも伝播して、気の弱い少女なぞ、シクシクやらかしている。ヤバイ、ヤバイぞ!これ以上はかなりヤバイ!

今にも飛び掛かりそうなアリスを引き摺り剥がし、もっともっと前の方へと移動し距離を置いた。


「お友だちと仲良く出来ないコは、その場で家に帰らされちゃうんだからね。」

ボクはアリスに言い聞かせようとした。今から思えば、もしかしたらその方が幸せだったかも知れない。


「アイツは友だちなんかじゃありませんご主人たま!ただの人間には判らないでしょうけど、アレは天使なんです。しかも駆け出しペーペーの見習い天使ですよォ!」


「なんだ、じゃあオマエと同類じゃか?」


「あたしは駆け出しじゃありませんてば★今すぐ滅ぼされたいですか☆」


「ごめんなさい★」

反省して速攻謝っておく。


「見かけに騙されちゃダメですよ★」


自分の黒ゴスロリファッションの見かけを棚に上げて、どの口で言ってんだ?


でも、ボクの些細な一言で、世界が滅亡してしまってはたまらない。ボクの口にはしっかりとチャックが閉まった。

大体この使い魔を呼び出したのは他ならぬこのボクだもの。魔族がこうしているくらいなんだから、天使だっていても不思議じゃない。

人智の及ばぬ人外の者の存在を受け入れる覚悟と度量は、とっくに備わっている。





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